次へ: 電子・電子散乱
上へ: 散乱断面積の計算例
前へ: 散乱断面積の計算例
目次
索引
散乱断面積の具体的な計算例として、はじめに固定したクーロンポテンシャル
中での電子の散乱,すなわちラザフォード散乱を考える.この系のラグランジ
アン密度は単位電荷を
とするとき,式(8.4.189)で
とおい
たもので与えられ,電子と光子の相互作用部分は正規積の規約を考慮に入れて,
 |
(H.7.364) |
となる.いま,クーロンポテンシャル
は固定された電荷
に
より与えられ,ベクトルポテンシャルはゼロであるから,光子の場は
 |
(H.7.365) |
という静的な古典場として与えられる.この場合クーロンポテンシャルの静止
系で考えていることになる.したがってこのとき相互作用ラグランジアンは
 |
(H.7.366) |
で与えられることになる.ここで,
は微細構造定数とよばれる無次元量であるH12.
まず,いま考えている系で散乱断面積とS行列の関係を求めておく.ある十分
長い時間
において,数密度
, 速度
をもつ電子のビームがある
運動量体積素片
の終状態へ散乱される回数を
とするとき,この
終状態への微分散乱断面積
は
 |
(H.7.367) |
により与えられる(図8.2をみよ).いま,
であり,また不変規格化のもとでは
と対
応する.また
はは式(8.6.350)に類似の
 |
(H.7.368) |
で与えられるから,微分断面積は
 |
(H.7.369) |
となる.いま,クーロン場が固定されているため,電子の運動量は散乱の前後
で保存しないが,エネルギーは保存する.このため,このあと具体的にも示さ
れるが,必ずS行列要素には
の因子が含まれる.そこで,
 |
(H.7.370) |
とおける.これを2乗したときに出てくるデルタ関数の2乗の部分は式
(8.6.352)と同じ考え方で,
| |
|
![$\displaystyle \left[2\pi \delta(E_1 - E_2)\right]^2 =
2\pi \delta(E_1 - E_2)\cd...
...{\hbar}\int dt e^{i(E_1 - E_2)t/\hbar} =
\frac{2\pi T}{\hbar} \delta(E_1 - E_2)$](img2210.png) |
(H.7.371) |
となる.また,終状態の運動量微小体積素片は極座標で
とかかれ,
により
で
あることを用いると,
 |
(H.7.372) |
となる.したがって微分断面積は
 |
(H.7.373) |
となる.ここで,エネルギーの保存を表すデルタ関数のため
となることを用いた.ここでデルタ関数の存在はエネルギー保
存を満たさない終状態には粒子が散乱されないことをあらわに示していて,
の範囲を終状態に指定することは適切でないことを示している.したがっ
て
で積分することにより,微分断面積は
 |
(H.7.374) |
で表されることになる.
S行列要素
はダイソンの公式
(8.6.317)を展開して計算する.
に関して展開
した摂動の
次の項を
と表記すると,
とかく.いま摂動の0次の項は相互作用がない場合と同じで全く散乱
されない状況を表すので,
 |
(H.7.375) |
が散乱に関する摂動の最低次の近似を与える.この積分はひとつの時空点しか
含んでいないので,T積をつける必要はない.入射する電子の運動量を
, スピンを
とし,散乱される電子のものをそれぞれ
,
とすると,始状態と終状態はそれぞれ
 |
(H.7.376) |
で与えられる.ここで,式(8.5.246), (8.5.247)で与えられ
るスピノル場の平面波展開,すなわち
を式(8.7.375)に代入した場合,反電子の生成消滅演算子
,
を含む項は行列要素
を計算するときに直接
や
にかかることになって消えてしまい,寄与することはない.
したがってS行列要素の1次の項は
| |
|
 |
|
| |
|
 |
(H.7.379) |
となる.ここで
の積分はラプラシアンのグリーン関数の関係
を使えば部分積分により,
 |
(H.7.380) |
と計算できる.さらに生成消滅演算子の積の真空期待値の部分は反交換関係
(8.5.248)を前の二つのペアと後ろの二つのペアに用いることで,
| |
|
 |
|
| |
|
 |
(H.7.381) |
となる.こうして1次のS行列要素は次の形となる:
 |
(H.7.382) |
あるいは式(8.7.370)の記法では,
 |
(H.7.383) |
となるので,微分散乱断面積(8.7.374)は
 |
(H.7.384) |
で与えられる.ここで,
の定義
, および
を用いれば,最後の因子は
と書き換えられる.ここで,形
は式(8.4.166)の
 |
(H.7.386) |
に置き換えられる.射影行列
は式(8.4.162)のように
行列で
表すことができるから,結局上の式のトレースの中の行列はすべて
行
列となって,それを計算すれば散乱断面積の計算が終わることになる.
だが,多くの場合には入射電子と散乱電子の偏極の自由度は測られないなど,
無視して取り扱ってよいことが多く,このときにはトレースの計算が簡単にな
る.ここからはそのような場合を考えることにする.入射電子はどの偏極も同
じ確率であるから,散乱断面積の計算において,始状態のスピン
につい
ては平均をとる.また,散乱電子の偏極は測られないので,終状態のスピン
については和をとることになる.したがって偏極なしの微分散乱断面積
は
 |
(H.7.387) |
で与えられることになる.ここで,式(8.7.385)を用いてからスピン和
をとると,式(8.4.167),すなわち
 |
(H.7.388) |
を用いて簡単化されることになる.つまり,次のように変形される:
![\begin{equation*}\sum_{s_1, s_2} \left\vert \overline{u}_{s_2}({\mbox{\boldmath$...
...\gamma_0 (\ooalign{\hfil/\hfil\crcr$k$}_1 + \mu) \gamma_0 \right]\end{equation*}](img2250.png) |
(H.7.389) |
ここで,
行列に関するトレースの公式
| |
|
![$\displaystyle {\rm Tr}\left[\gamma_\mu \gamma_\nu\right] = -4\eta_{\mu\nu},$](img2251.png) |
(H.7.390) |
| |
|
![$\displaystyle {\rm Tr}\left[(\mbox{奇数個の$\gamma$行列の積})\right] = 0,$](img2252.png) |
(H.7.391) |
| |
|
 |
(H.7.392) |
を用いれば上の式が計算でき,
| |
|
![$\displaystyle \sum_{s_1, s_2}
\left\vert
\overline{u}_{s_2}({\mbox{\boldmath$k$...
...t[{\gamma_0}^2\right] =
4\left( 2 {k_1}^0 {k_2}^0 + k_1\cdot k_2 + \mu^2\right)$](img2254.png) |
|
| |
|
 |
(H.7.393) |
となる.ここでエネルギー保存から散乱前後で電子のエネルギーと運動量の絶
対値は等しいので,それを
,
とおく.4元速度の絶対値も散乱前後で等しく,
それを,
とおく.このとき,散乱角を
と
すると,
| |
|
 |
(H.7.394) |
| |
|
 |
(H.7.395) |
となるから,式(8.7.387)に式(8.7.393)を入れて計算すること
により,散乱断面積の最終的結果
 |
(H.7.396) |
を得る.ただしここで,
である.この散乱断面積の式は
モット散乱公式(Mott scattering formula)として知られるものである.
非相対論の極限
をとると,ラザフォードの散乱公
式 (Rutherford's scattering formula)
 |
(H.7.397) |
に帰着する.
Footnotes
- ...は微細構造定数とよばれる無次元量であるH12
- ここでは
はローレンツ・ヘビサイド単位系での単位電荷であり、SI単位系では
と読みかえる.
次へ: 電子・電子散乱
上へ: 散乱断面積の計算例
前へ: 散乱断面積の計算例
目次
索引
Copyright©2004-2010Takahiko Matsubara, All rights reserved.
visitors,
pageviews since 2007.5.11