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粒子同士が衝突する場合を考えよう。衝突においては、粒子同士の相互作用は
ごく限られた時空内でのみ起こる。すると、衝突の十分以前
、および十分以後
では相互作用のない、自由
な状態になっているので、場は自由ハイゼンベルグ演算子となっているであろ
う。この仮定は漸近条件と呼ばれる。ただし、ここではより厳密な議論を避け、
直観的な説明をすることにする。衝突の十分以前の自由ハイゼンベルグ演算子
の生成消滅演算子を
,
とし、また、衝突の十分以後の自由ハイゼンベルグ演
算子
の生成消滅演算子を
,
とする。すると、それぞれのフォッ
ク基底は
 |
(H.6.291) |
と構成される。また、これらinおよびout状態のフォック基底がそれぞれ張る
フォック空間は、もとのハイゼンベルグ場
のフォック空間と一致す
ること、すなわち、漸近的完全性を仮定する。
in状態の生成演算子を用いて構成される状態
から、
out状態の生成演算子を用いて構成される状態
へと相
互作用の結果変化する過程を考え、次の量
 |
(H.6.292) |
を
成分とする行列のことをS行列 (S matrix)という。こ
れは粒子の衝突・散乱における確率振幅を与える重要な量である。さらに、S
行列演算子
を
 |
(H.6.293) |
となるように定義する。ここで、フォック基底の正規直交性と漸近的完全性の
仮定より、
| |
|
 |
(H.6.294) |
| |
|
 |
(H.6.295) |
である。これらにより、S行列のユニタリ性
| |
|
 |
(H.6.296) |
| |
|
 |
(H.6.297) |
が容易に示され、また、
 |
(H.6.298) |
であることがわかる。この式(8.6.298)において、
状態として
状態にもう一つ粒子を加えた状態
をとれば、漸近場の関係として、
 |
(H.6.299) |
となり、ここで式(8.6.298)と完全性(8.6.295)を使えば、
 |
(H.6.300) |
であることがわかる。したがって場の演算子についても同様の
 |
(H.6.301) |
という関係がある。
S行列のより具体的な形を求めよう。そのためにまず、ある時刻
を基準
としたときの時刻
の状態ベクトルの形を求めてみると、相互作用表示の状
態ベクトルの時間発展の式(8.6.288) により、
 |
(H.6.302) |
というユニタリ変換となる。このユニタリ変換の演算子を
 |
(H.6.303) |
とかく。この演算子は次の性質を満たす:
| |
|
 |
(H.6.304) |
| |
|
 |
(H.6.305) |
| |
|
 |
(H.6.306) |
このとき、場の演算子の相互作用表示における期待値をかくと、
 |
(H.6.307) |
となる。すると、状態ベクトル
は固定されているとき、
 |
(H.6.308) |
は基準時刻
で相互作用表示の演算子
に一致するハイゼンベルグ
表示の演算子であることになる。そこでこれを逆に見れば、ハイゼンベルグ演
算子
が与えられたとき、
の選び方に応じたいろいろな相
互作用表示が定義できることになる。すると、
お
よび
に対応する相互作用表示の演算子はそれぞれ
漸近場
,
に等しい。したがって、
 |
(H.6.309) |
となり、さらに
としてやると、
としてやってH9、式(8.6.301)と比べることにより、S
行列が
 |
(H.6.310) |
と対応していることがわかる。さらに、式(8.6.302)により、
 |
(H.6.311) |
であることがわかる。
一般の場合にS行列を求めることは極めて難しいが、相互作用が強くない場合
には相互作用項に含まれるパラメータを微小量として展開することにより求め
ることができる。相互作用表示における状態ベクトルの発展方程式
(8.6.289)を時刻
から
まで積分すると、
 |
(H.6.312) |
となる。これを逐次近似によって状態ベクトル
について解け
ば、
![$\displaystyle \left\vert {\mit\Psi}(t) \right\rangle = \left[ 1 + \frac{1}{i\hb...
...}(t_1) H_{\rm I}(t_2) + \cdots \right] \left\vert {\mit\Psi}(t_0) \right\rangle$](img2029.png) |
(H.6.313) |
と表せて、相互作用項について展開した形を得る。このままではまだ不便な形
をしているので、ダイソンにより導入された時間順序積 (time-ordered
product)、あるいはT積 (T-product)を使う。複数の時刻
があるとき、これを値の大きい順に並び替えて、
となったとする。このとき演算子のT積は
![$\displaystyle {\rm T}\left[ H_{\rm I}(t_1) H_{\rm I}(t_2) \cdots \right] = H_{\rm I}(t_1') H_{\rm I}(t_2') \cdots$](img2032.png) |
(H.6.314) |
で定義される。すなわち複数の演算子から時間の順序に並び替えた積を与える
ようなものである。この表記を用いると、展開形(8.6.303)の
次の
積分は、
となる。ここで、第一の等式は積分範囲とT積に定義から明らかで、第二の等
式はT積の中身が
について対称であることから積分範囲を
広げて対称因子で割ることにより導ける。
式(8.6.309)と(8.6.311)から、極限
,
をとれば式(8.6.309)よりS行列を与える
ことがわかり、
となる。これをS行列に対するダイソンの公式という。最後の2つの表式での
積分範囲は全時空である。この式を用いれば、相互作用ハミルトニアンに含ま
れるパラメータを摂動として、摂動論によってS行列を求めることができるこ
とになる。
ラグランジアン密度の相互作用項
が場の微分を含まない,
すなわち相互作用が微分結合を含まない場合,共役変数
は相互作用項に無関係に決まるから,
により求められる相互作用ハミルトニアン
密度は
となる.したがって,この
ダイソンの公式はこの場合,
![$\displaystyle S = {\rm T} \left[\exp \left(\frac{i}{\hbar c}\int d^4x {\cal L}_{\rm I}(x)\right) \right]$](img2045.png) |
(H.6.317) |
と表すことができる.実は,相互作用がくりこみ可能な場合には,微分結合を
含む場合でも,式(8.6.317)はT積を
積に置き換えれば
依然成立することが知られている.ここで
積とは時間微分をT積の
左側に出してしまったもので,
![$\displaystyle {\rm T}^*\left[\frac{\partial A(x)}{\partial x^0} B(y)\right] \equiv \frac{\partial}{\partial x^0}{\rm T}\left[A(x)B(y)\right]$](img2047.png) |
(H.6.318) |
のように定義される.
Footnotes
- ...としてやってH9
- この操作は数学的には多少乱
暴であるが、結果的にはこれでよい。ただし、厳密には、漸近場はハイゼンベ
ルグ場と演算子そのものとして漸近的に等しくなっているのではなく、くりこ
まれたハイゼンベルグ場と行列要素が漸近的に等しくなるという、弱い意味で
の同等性でなければならない。
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