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上で見たように、S行列を摂動論によって求めるためには、場の積のT積を求め
る必要がある。これを行うのに、極めて有用なものがウィックの定理
(Wick theorem)である。この定理の意味するところを例によって示せば、任
意の場
について、
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![$\displaystyle {\rm T}\left[\varphi_1(x_1)\varphi_2(x_2)\right] =
: \varphi_1(x_...
...rt {\rm T}\left[\varphi_1(x_1)\varphi_2(x_2)\right] \right\vert 0 \right\rangle$](img2048.png) |
(H.6.319) |
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![$\displaystyle {\rm T}\left[\varphi_1\varphi_2\varphi_3\right] =
:\varphi_1\varp...
...0 \left\vert {\rm T}\left[\varphi_2\varphi_3\right] \right\vert 0 \right\rangle$](img2049.png) |
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![$\displaystyle \qquad\qquad \pm
:\varphi_2:
\left\langle 0 \left\vert {\rm T}\le...
...0 \left\vert {\rm T}\left[\varphi_1\varphi_2\right] \right\vert 0 \right\rangle$](img2050.png) |
(H.6.320) |
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![$\displaystyle {\rm T}\left[\varphi_1\varphi_2\varphi_3
\varphi_4\right] =
:\varphi_1\varphi_2\varphi_3\varphi_4:$](img2051.png) |
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![$\displaystyle \qquad\qquad +
\left\{
:\varphi_1\varphi_2:
\left\langle 0 \lef...
...[\varphi_3\varphi_4\right] \right\vert 0 \right\rangle +
{\rm sym.(6)}
\right\}$](img2052.png) |
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![$\displaystyle \qquad\qquad +
\left\{
\left\langle 0 \left\vert {\rm T}\left[\...
...[\varphi_3\varphi_4\right] \right\vert 0 \right\rangle +
{\rm sym.(2)}
\right\}$](img2053.png) |
(H.6.321) |
などとなる。2番目以降の式の引数は省略した。ここで、
記号は、左辺の
演算子順序と直後の項の演算子順序がフェルミ粒子の交換を奇数回含むときに
をとり、そうでないときには
をとることを意味する。また、''
sym.(n)''は直前の項を場
によって対称化(フェ
ルミ粒子同士は反対称化) する項で、直前の項を含めて全体で
個の項とな
るものをを略記して表している。同様の公式が一般に
個の場のT積について
成り立つ。これを言葉で説明すると、まず、T積をとる
個の演算子からあら
ゆる可能なやり方で2つの演算子のペアを取り出す。このとき、いくつのペア
を取り出すかは任意である。その取り出したいくつかのペアを2点のT積の真
空期待値に置き換え、取り出されずに残った演算子は正規積にする。この操作
をあらゆる可能なペアの取り出し方について行って和をとると、それが
個
の演算子のT 積になっている。
ここで、特別な記法として
![$\displaystyle \underwick{1}{<1\varphi_1(x_1) >1\varphi_2(x_2)} = \left\langle 0...
...rt {\rm T}\left[\varphi_1(x_1)\varphi_2(x_2)\right] \right\vert 0 \right\rangle$](img2055.png) |
(H.6.322) |
を定義し、ウィックの定理において、取り出したペアを2点のT積の真空期待値
に置き換える操作をウィックの縮約 (Wick contraction)と呼ぶ。この
記法によれば、例えば式(8.6.321)は
のように表される。ただし引数は省略した。また、上の記法で、フェルミ粒子
同士の交換を行ったときの符合の変化も折り込み済みであるとする。例えば右
辺第3項で、もし
と
が両方ともフェルミ粒子を表すと
きには、
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(H.6.324) |
のように解釈する。
ウィックの定理の証明は数学的帰納法によって比較的単調に証明できるが、こ
こでは省略する.詳細は文献H10 H11 を参照されたい.基本的に,左辺のT積を右辺第一項の正規積の順
序へ変形する際に必要な生成消滅演算子の順序交換から縮約が生じてくる.し
たがって,もしT積の内部にすでに正規順序積が含まれている場合には,その
部分については縮約は起こらない.例えば,
などのようである.こうして、ウィックの定理をダイソンの公式に使えばファ
インマン伝播関数を用いてS行列が摂動的に求まることになる.
このウィックの定理によれば、任意の次数の場のT積はウィックの縮約
(8.6.322) がわかれば計算できることになる。今、ミンコフスキー
時空を仮定しているので、時空の一様性からこの量は
にしか依存し
ない。また、真空期待値で挟んでいることから、必ず生成演算子と消滅演算子
がペアで含まれなければならないので、スピノル場とベクトル場など、異なる
種類の場の縮約はゼロになる。そこで、ゼロでない縮約は実スカラー場、複素
スカラー場、ディラック場、実ベクトル場のそれぞれの場合に次のように書け
ることになる:
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(H.6.326) |
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(H.6.327) |
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(H.6.328) |
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(H.6.329) |
ここで、
,
,
,
, なども
生成演算子と消滅演算子がペアで現れないため、ゼロになる。この関数
,
,
などを
それぞれの場に対するファインマン伝播関数 (Feynman propagator) と
いう。
スカラー場の場合、2点のT 積は階段関数
を用いて、
![$\displaystyle {\rm T}\left[\phi(x)\phi(y)\right] = \Theta(x^0-y^0)\phi(x)\phi(y) + \Theta(y^0-x^0)\phi(y)\phi(x)$](img2080.png) |
(H.6.330) |
と表せるから、その真空期待値は、式(8.5.228)を用いて
となる。最後の表式で
は正の無限小で、
積分の極を
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(H.6.332) |
のように実軸からずらす。これは図8.1の左
のような積分経路となっているが、
の極限では事
実上右の図のように、負の実軸上の極を下回りに、正の実軸上の極を上回りに
避けた経路を指定したことに等価である。
図 8.1:
の積分経路
|
|
この式(8.6.331)の最後の式は、
のとき図8.1の
下半面の半径無限大の半円で閉じると実軸上の積分のみ残り、
の極での留数のみ拾うので、直前の式の第一
項に等しくなる。逆に
のときは上半面の半円で閉じることで直前
の式の第二項になる。
ファインマン伝播関数はしたがって、
 |
(H.6.333) |
と求まる。この形から明らかなように、ファインマン伝播関数はクライン・ゴ
ルドン方程式のグリーン関数の一つとなっている:
 |
(H.6.334) |
複素スカラー場の場合は、式(8.6.331)の最初の式が、
となるが、その後の形は全く同じであり、ファインマン伝播関数の形も同じ形
(8.6.333)である。
ディラック場の場合は、
となるから、ファインマン伝播関数は式(8.4.167)を用いると、
と表される。
であ
ることから、この最後の形は記号的に
 |
(H.6.338) |
と書かれることが多い。
ベクトル場の場合も偏極ベクトルの完全性(8.4.194)を使うことによ
り、ほとんど同様の計算を繰り返して、
 |
(H.6.339) |
を得る。
Footnotes
- ...
こでは省略する.詳細は文献H10
- G. C. Wick, Phys. Rev. 80
268 (1950)
- ... H11
- 高野文彦 「多体問題」 (培風館,新物理学シリーズ
18, 1975)
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