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粒子の衝突などの反応が一度だけ起こるような場合に、その確率を求めるには
上で示したS行列を計算すれば十分であるが、実際問題としては多数の粒子が
反応した場合の反応確率を表す量を定義すると便利である。
まず、2つの粒子
が衝突して、粒子
となるような散
乱過程
 |
(H.6.340) |
を考える。粒子
がそれぞれ多数の粒子からなるビームとなってお
互いに衝突するような状況を考えて、ビームの数密度がそれぞれ
,
であるときに、相対速度
で衝突するものとする。この
とき、体積
、時間
の時空内で衝突が
回起こったとする。この場合、
衝突回数は
,
,
,
,
に比例することが
明らかであり、その比例係数は衝突反応過程に固有の量であり、断面積
(cross section)
と呼ばれる。すなわち、
 |
(H.6.341) |
で定義される。さらにまた、散乱された粒子
の状態、例えば運
動量や散乱方向などがある特別な微小範囲
に含まれている数を
とするとき、
 |
(H.6.342) |
で定義される
はこの状態への微分断面積
(differential cross section)と呼ばれる。
断面積の意味をより分かりやすくとらえるために、粒子
の静止系で考えて
みる。図8.2のように、粒子
に向かって多数の粒子
が相対速度
で向かってくる。
このとき、仮に粒子
のまわりの面積
の中に入射した粒子がすべて
衝突すると考えてみる。するとあるひとつの粒子
が、時間
の間に粒子
と衝突する回数は、図の円筒形の部分にある粒子
の数と同じで、
となる。また粒子
は体積
中に
個存在するので、都合、
回の衝突が
起きることになって式(8.6.341)に一致する。この例は、剛体球どう
しの衝突のように粒子間の距離が一定以下になるときに衝突が必ず起こる場合
の断面積の解釈を表している。だが、実際の衝突では、必ずしも粒子
の近
くに来た粒子がすべて散乱するわけではないのでこの簡単な解釈をそのまま受
け止めてはいけないが、いずれにしても断面積は衝突の確率を表すものであり、
面積の次元をもつ量である。
ここで、相対速度はそのままではローレンツ系に依存する概念であって、この
ままでは断面積のローレンツ不変性が明らかではない。そこで、ローレンツ不
変な断面積の定義を得るには、相対速度
を任意のローレンツ系
であいまいさなく定義する必要がある。断面積の定義式(8.6.341),
(8.6.342)に現れてくる
は明らかにローレンツ不変である。また、
粒子の静止系で数密度
をもつ粒子群が速度
で動く場合、体積のロー
レンツ変換から、数密度は
で与えられる。
さらに、この粒子のエネルギーは
であるから、
はローレンツ不変である。したがって、積
が
不変量になるように相対速度を定義すれば断面積も不変量になることがわかる。
そこで、この条件を満たす相対速度として、粒子の4 元運動量
,
を
用いて
 |
(H.6.343) |
のように定義する。どちらかの粒子が静止している実験室系、あるいは粒子の
重心系など、粒子
,
の速度
,
が平行になるか、
あるいはどちらかの速度が0
になるような座標系においては、上の定義が本
来の相対速度
 |
(H.6.344) |
を表していることは容易に確かめられる。ここで質量がゼロの極限をとること
ができるので、質量のない粒子の場合もこの定義を用いることができる。
さて、粒子
の運動量を
, またその他粒子の
種類、スピンや偏極などを表す添字をまとめて簡略に
と表すことにする。
このとき一般に生成消滅演算子は
,
と書かれる。これら運動量が離散化されていない生成消
滅演算子により作られる粒子状態
 |
(H.6.345) |
はノルムは1ではない。例えば一粒子状態では、
 |
(H.6.346) |
などとなり、右辺はローレンツ不変である。このような規格化のことを不変規格化(invariant normalization)と呼ぶ。この不変規格化のもとで、始
状態を
、終状態を
とする。ここで、
始状態のノルムは
 |
(H.6.347) |
となる。ただし、
 |
(H.6.348) |
は粒子
のエネルギーである。したがって、この始状態は粒子1, 2がそれぞ
れ単位体積あたり
および
ずつ一様に分布して
いる状態に対応する。
S行列演算子の性質(8.6.311)から、始状態
は反応後に
は
という状態になっている。そこでこの状態を運動量以外の
状態
の確定した
粒子状態で展開すれば、不変規格化をとっていること
を考慮して、
 |
(H.6.349) |
となる。したがって、量子論の確率解釈に従えば、運動空間の体積素片
(
)の中に終状態
を見いだす確率は
 |
(H.6.350) |
で与えられ、これは上で与えた不変規格化されたノルムを粒子数密度
,
と解釈するときに、終状態がこの運動量範囲に散乱される
回数(8.6.342)を与えることになる。
ここで散乱の前後では4元運動量が保存することから、
と
が等しくなければならず、こ
のため必ずS行列要素
には
という因子が含まれる。そこで
 |
(H.6.351) |
と表すことができる。始状態
と終状態
が不変規
格化されているとき、この
を不変散乱振幅
(invariant scattering amplitude)と呼ぶ。波数空間のデルタ関数のゼロ
点は有限体積化した時空間では
 |
(H.6.352) |
と表されるから、式(8.6.350)は
 |
(H.6.353) |
となる。したがって、式(8.6.342)の微分散乱断面積は、
 |
(H.6.354) |
と表されることがわかり、S行列要素を得れば求められることになる。また、
全断面積はこの式をすべての終状態の運動量で積分することにより得られる。
ここで、全断面積の積分においては、終状態に同種粒子が含まれる場合、その
まま積分すると同じ状態を多重に積分してしまうことになる。そこで、粒子
のなかに同種粒子が
個ずつ含まれるときに
は、対称性の因子
で割る必要がある。
終状態も2粒子状態となる2体反応については、重心系で記述することによりさ
らに簡略化した式で表される。まず、
とした式(8.6.354)におい
て、
を実行してしまえば、運動量の3次元デルタ関数の部分が消える.
ただしここで,
は運動量保存を満たすように他の変数で置き換え
られたものと理解する.すると,重心系においては
,
と
おくことができ、このとき
となり、微分断面積は
 |
(H.6.355) |
と表される。ここで、
と極座標
で表示する。デルタ関数の中の
,
は
の関数となってい
るので、このままでは積分が自明でない.そこで,
,
であるから、
を
に変数変換すると、
 |
(H.6.356) |
となる。これにより
についての積分も実行してしまえば、結局微
分断面積の重心系での表式は
 |
(H.6.357) |
となる。ただし、この表式で
は次式で与えられる:
 |
(H.6.358) |
次に、初期状態が一粒子状態であるような反応:
 |
(H.6.359) |
を考える。この場合はこの粒子1が不安定であって時間の経過とともにより軽
い粒子群に崩壊する現象を表すことになる。このような反応の起る確率を表す
量として、崩壊幅と呼ばれるものが用いられるので、以下にこれを与える。ま
ず、不変規格化された初期状態
から出発して、終状態
が運動量空間の体積要素
(
)に見
いだされる回数は断面積の場合の式(8.6.353)と同様の式
 |
(H.6.360) |
で与えられる。ここで、崩壊する粒子の静止系で考えると、
である。始状態は全空間に
個の粒子が存在
する不変規格化であったから、単位時間あたりにこの運動量体積素片に崩壊す
る確率は、
 |
(H.6.361) |
で与えられ、この量は微分崩壊幅 (differential decay width)と呼ば
れる。ある粒子群
へ崩壊する終状態のすべての運動量について積分した量
は、この粒子群へ崩壊する確率を表し、これをチャネル
への
部分崩壊幅 (partial decay width)と呼ぶ。この場合にも、終状態に同
種粒子が含まれている場合には、適切な対称性因子
で割っ
ておく必要がある。可能なすべての粒子群への崩壊幅を足し上げたもの
は、はじめの粒子が崩壊する全確率を表し、こ
れを全崩壊幅 (total decay width)と呼ぶ。全崩壊幅の逆数
を崩壊する粒子の寿命 (life time)と呼ぶ。全崩壊幅に対す
る部分崩壊幅の割合
をチャネル
への分岐
比 (branching ratio)と呼ぶ。
終状態が2粒子状態となる場合には、式(8.6.361)はより簡単な式で表
される。崩壊する粒子の静止系では、
とおくことができるので、断面積の場合と同様にして、
 |
(H.6.362) |
と表される。ここで、
 |
(H.6.363) |
である。
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