次に2つの電子が衝突して再び2つの電子となって散乱されるプロセス,すな
わち電子・電子散乱を考える.この散乱はメラー散乱 (Møller
scattering)と呼ばれる.相互作用ラグランジアン密度は同じで,式
(8.7.364)で与えられ,散乱断面積は式(8.6.354)で
とし
たもの,また重心系では式(8.6.358)で与えられる.始状態
と終状態
は
具体的な計算の前にまず,このようにS行列演算子をウィックの定理によって
展開したものからS行列要素を求めるための一般的な方針を説明しておく.ウィッ
クの定理により,S行列演算子は場の演算子の正規順序積の和で表現されてい
るので,消滅演算子がすべて右側に来ている.そこでS行列要素の計算におい
て,これらの消滅演算子を(反)交換関係を用いて始状態
に含ま
れている生成演算子と交換し,どんどん右側へと移動させる.そして一番右に
その消滅演算子が来て
にかかって消えるまで続ける.このプロセス
において移動される消滅演算子は始状態の生成演算子のどれかひとつとペアを
つくって定数項を出し,それらがおつりの項として消えずに残ることになる.
ここでもし,始状態の生成演算子とペアをつくるのに十分な数の消滅演算子が
なければ,始状態の生成演算子のどれかはそのまま残されるが,それはS行列
演算子の中の生成演算子と反交換して終状態の消滅演算子のすぐ右側に到達す
る.ここで始状態にある粒子と同じ状態の粒子が終状態にあるとすると,それ
は散乱されなかったことを意味するから,散乱が起こったときの断面積を考え
る限り始状態の生成演算子は終状態の消滅演算子と反交換する.したがってS
行列を通り越してしまった始状態の生成演算子は
にかかって消えて
しまう.したがって,S行列演算子の右側に出てくる消滅演算子は必ず始状態
の粒子と同じ数だけなければならない(そうでなければ少なくともひとつの粒
子は散乱されない)ということになる.以上と同じことがS行列演算子の左側に
ある生成演算子についてもいえる.したがって,S行列演算子のウィックの定
理による展開においては,そこから出る生成消滅演算子がかならず始状態およ
び終状態の粒子とペアを作らなければならないことがわかる.
以上の考察のもと,具体的な式(8.7.400)を見てみると,散乱の起こる
S行列要素において残る項は電子の生成消滅演算子をそれぞれ2つずつ含む項
であるから,
,
に関する縮約を全く含まない項と,
の縮約された項のみである.しかも,陽電子に関する項はすべて落ち
るから,
の正振動部分,
の負振動部分のみが生き残
る.したがって,
ここで,断面積の計算のためには不変振幅の絶対値の2乗を計算する必要があ
る.ここで一般に任意の
行列
があるとき,
,
,
を用いると
まず,括弧内の第一項について絶対値2乗を計算する.散乱において偏極を考
えないものとして,スピンについて和をとると,式(8.4.167)により,
これらの式から,スピン和をとった不変散乱振幅の絶対値2乗を書き下せば
こうして、
行列のトレースの計算ができれば散乱断面積が求められる
ことになる.この目的のため,ここで有用なトレース計算の技術をまとめてお
く.まず,式(8.4.132)-(8.4.134)と
を
くり返し使って証明できる公式
トレースの中で足が縮約している場合に便利なものは,
行列の反交換
関係(8.4.132)をくり返し使って得られる次の公式である:
これで不変散乱振幅のトレース計算に必要な準備が整った.あとはこれらの公
式を用いて計算していくだけである.トレースの中で足の縮約している
行列は縮約公式(8.7.425)-(8.7.429)を用いて行列
の数を減らし,あとはトレース公式(8.7.413)-(8.7.418)を
使ってトレースを計算していけばよい.例えば,行列のもっとも多い項として
式(8.7.412)のうち,8個の行列の積の計算は次のようになる:
これを式(8.6.354)の
に置き換えれば
散乱断面積を一般的に得るが,いま2体反応なので重心系で記述することによ
り,より便利な式を得ることができる.重心系では
,
, また,
となる.したがって,重心系での2体反応の散
乱断面積の式(8.6.357)は
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