以上の計算において,S行列要素の計算の部分は,相互作用ラグランジアンか
ら作られるS行列演算子の摂動項をウィックの定理により可能な縮約の組合せ
へと分解し,縮約されずに残った正規順序積を始状態と終状態に含まれている
生成消滅演算子とペアにしていくという作業である.この作業は上のようにい
ちいち式変形で導くことなく,図形を考えることによって一度に終わらせてし
まうことのできる便利な方法がある.そこで用いられる図形はファイン
マン図形 (Feynman diagram)と呼ばれている.上の計算を振り返ってみると,
に含まれる演算子,あるいは始状態と終状態の生成消滅演
算子をペアにしていく作業であることがわかる.ここで,
同士のペアからは伝播関数が発生し,
と始状態,終状態の
間のペアからは演算子の平面波展開の係数(上の場合
や
)が発生する.このことからまず,始状態や生成演算子が相互作用から出
る消滅演算子とペアをつくることに対して,始状態の粒子を図8.3で
表されるような外線に対応させる.
こうした対応関係のもと,外線を頂点で結び,頂点同士を内線で結ぶようなあ
らゆる場合を考えると,それらの図形がS行列要素の計算における展開の各項
に対応することになるのである.各図形の外線と内線は,S行列要素の計算に
おいて生成消滅演算子のペアが消えていることを表しているが,そのときに出
てくる因子は決まっていて,それらの因子が図に示してある.さらに頂点から
は相互作用ラグランジアンの係数が出てくる.こうして,ひとつの図形を書け
ば,その図形と因子の対応関係がわかってその図形がS行列要素へ寄与する項
の形が直ちに書き下せることになる.このように,ファインマン図形の部分と
それが寄与する因子の形の対応関係をファインマン則(Feynman rules)
という.図の外線と内線の因子を決めるのには,対応する波数を必要とする.
これは外線の場合には入射粒子と散乱粒子の運動量から決まる.また,頂点で
は入る運動量の和と出る運動量の和がゼロとなるようにする.これは頂点で伝
播関数の畳み込み積分が表れているため伝播関数
が
つながっている頂点ではそのフーリエ変換
を使い,
上で考えた過程のようにフェルミオンが関係する場合,演算子が反交換するの で,符号について若干の注意が必要である.フェルミオン同士の演算子の交換 を奇数回含むような図形には,ファインマン規則によって得られた式にマイナ ス符号が余計につく.図形の中でフェルミオンの線が交差するような場合,お よびフェルミオンのループが存在する場合がそれにあたる.また,頂点と頂点, 頂点と外線を結ぶときに二通り以上のやり方がある場合はそれに応じた数をか ける必要がある.このような点はわりあい間違いを犯しやすいので,常にウィッ クの定理による計算を念頭におきながら,そのグラフがどのような計算で出て くるのかを考えながらファインマン規則を適用することが大事である.
上で考えた電子・電子散乱の場合の最低次の摂動で可能なファインマン図は図 8.7の二つである.
このファインマン図からファインマン則によって不変散乱振幅を計算すると式 (8.7.404)となることを確かめるのは容易である.左の図は括弧内の第 一項に対応し,右の図は第二項に対応している.右の図ではフェルミオンの交 差を含むために逆符号になっている.ここでは摂動の最低次の近似をとってい るからファインマン図の数は少なく,代数的な計算も比較的容易であったが, 摂動の次数を上げていけば飛躍的にファインマン図の数は増え,代数的な計算 によってS行列要素を得ることは非常に大変になる.この場合,ファインマン 則を用いることにより,圧倒的に計算を見通しよく進められることは容易に想 像できるだろう.上の例では、フェルミオンと電磁場の共存系に関する場の量子論におけるラグ ランジアンのファインマン則を与えた。このような系の量子論は量子電 磁力学 (Quantum Electrodynamics)と呼ばれ、場の量子論のプロトタイプと なった理論である.その後弱い相互作用,強い相互作用についても同様に場の 量子論が適用できることが明らかになり,そのラグランジアンも知られている. ここまでの計算から明らかなように,ファインマン則はラグランジアンが与え られれば直ちに読み取ることができる.すなわち,ラグランジアンの運動項の フーリエ変換の逆数によって内線に対応する伝播関数が与えられ,相互作用項 の係数から頂点に対応する因子が読み取れる.こうして,任意の(局所相互作 用のみを持つ)ラグランジアンが与えられれば,そこからファインマン則が読 み取れ,あとは可能なファインマン図を摂動の各次数ごとに求めて行くことに より,任意の次数で反応の散乱断面積を求めることができるのである.場の量 子論において,摂動の最低次の計算はこのように比較的直線的である.摂動の 高次補正を求めようとすると,ファインマン図においてループを含む場合に発 散項が発生するため,くりこみという手続きが必要になる.その詳細について は本章の目的を超えることになるのでここでは取り扱わないが,興味のある読 者はぜひ場の理論の専門書に進んで学んでいただきたい.
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