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スローロール近似

モード関数を完全に一般の場合に求めることはできないが,インフレーション において必要なスローロール近似の下で近似的に求めることを考える.この場 合,ポテンシャルの形がいくつかの条件を満たす必要がある.このときに,ポ テンシャルから導かれるパラメータで,スローロールに際して小さくなるよう な量を求めておくと便利である.スローロール近似では式(5.3.38), (5.3.39),すなわち

$\displaystyle \vert\dot{\bar{\phi}}\vert^2 \ll c^2 V$     (K.2.63)
$\displaystyle \vert\ddot{\bar{\phi}}\vert \ll c^2 V_{,\phi}$     (K.2.64)

を要請した.これにより,フリードマン方程式と場の運動方程式は
    $\displaystyle H^2 \simeq \frac{8\pi G}{3 c^2} V(\phi)$ (K.2.65)
    $\displaystyle \dot{\phi} \simeq - \frac{c^2}{3H} V_{,\phi}$ (K.2.66)

と近似できるのであった.

条件(11.2.63), (11.2.64)をコンフォーマル時間の微分に よって表せば

$\displaystyle \vert\bar{\phi}'\vert^2 \ll a^2 V$     (K.2.67)
$\displaystyle \vert\bar{\phi}'' - {\cal H} \bar{\phi}'\vert \ll a^2 V_{,\phi}$     (K.2.68)

となり,フリードマン方程式(10.4.72)と場の運動方程式 (11.2.5)は
    $\displaystyle {\cal H}^2 \simeq \frac{8\pi G}{3c^4} a^2 V(\phi)$ (K.2.69)
    $\displaystyle \bar{\phi}' \simeq - \frac{a^2}{3{\cal H}} V_{,\phi}$ (K.2.70)

と近似できる.

この最後の式(11.2.70)によりスローロールのはじめの条件 (11.2.67)からは

$\displaystyle \frac{a^2 (V_{,\phi})^2}{V} \ll {\cal H}^2$ (K.2.71)

が要請される.さらに式(11.2.70)とこれを微分したものを用いると

$\displaystyle \bar{\phi}'' - {\cal H} \bar{\phi}' \simeq \frac13 a^2 V_{,\phi} ...
...frac{{\cal H}'}{{\cal H}^2} - 1 + \frac{a^2 V_{,\phi\phi}}{3{\cal H}^2} \right)$ (K.2.72)

となるが,式(11.2.33), (11.2.67)および式 (11.2.69)から $ {\cal H}' \simeq {\cal H}^2$ である.したがってス ローロールの2番目の条件(11.2.68)からは

$\displaystyle a^2 V_{,\phi\phi} \ll {\cal H}^2$ (K.2.73)

が要請される.これらの式(11.2.71)と(11.2.73)に式 (11.2.69)を代入すれば,次のパラメータ
    $\displaystyle \epsilon \equiv \frac{c^4}{16\pi G}
\left(\frac{V_{,\phi}}{V}\right)^2$ (K.2.74)
    $\displaystyle \eta \equiv \frac{c^4}{8\pi G}
\frac{V_{,\phi\phi}}{V}$ (K.2.75)

が小さくなっていることがわかる.これらのパラメータをスローロールパラメー タと呼び,スローロール近似が成り立つときには必ず小さくなっていなければ ならない量である.

式(11.2.33), (11.2.70)および(11.2.73)を用いる とこれらのスローロールパラメータはスローロール近似が成り立つ限り

    $\displaystyle \epsilon \simeq \frac{4\pi G}{c^4} \frac{\bar{\phi}'^2}{{\cal H}^2} =
1 - \frac{{\cal H}'}{{\cal H}^2}$ (K.2.76)
    $\displaystyle \eta \simeq \epsilon + 1 - \frac{\bar{\phi}''}{{\cal H} \bar{\phi}'}$ (K.2.77)

とも表すことができる.ここで $ cdt = ad\tau$ , $ {\cal H} = a H/c$ によりパ ラメータ$ \epsilon$

$\displaystyle \epsilon \simeq - \frac{\dot{H}}{H^2}$ (K.2.78)

と書ける.つまりパラメータ$ \epsilon$ はハッブルパラメータが完全に一定 であるド・ジッター宇宙からのずれを表している.

スローロールパラメータを用いて状態方程式の変数$ w$ および音速$ c_s^2$ に 対応する量を1次まで求めてみると,(11.2.10), (11.2.11), (11.2.35)から

    $\displaystyle w \simeq -1 + \frac23 \epsilon$ (K.2.79)
    $\displaystyle c_s^2 \simeq -1 - \frac23 (\epsilon - \eta)$ (K.2.80)

が得られる.

スローロール近似ではポテンシャルは非常に平坦だからパラメータ $ \epsilon$ , $ \eta$ は時間的にほぼ一定にとどまる.そこでインフレーション の間これらのパラメータは近似的に一定値をとると考えられる.このことを具 体的に見るため,スローロールパラメータの定義式を微分して,式 (11.2.69), (11.2.70)を用いると

    $\displaystyle \epsilon' \simeq 2{\cal H} \epsilon (\epsilon -\eta)$ (K.2.81)
    $\displaystyle \eta' \simeq {\cal H}^2 \left(2\epsilon\eta - \xi^2\right)$ (K.2.82)

が得られる.ここで新たなスローロールパラメータとして

$\displaystyle \xi^2 \equiv \left(\frac{c^4}{8\pi G}\right)^2 \frac{V_{,\phi}V_{,\phi\phi\phi}}{V^2}$ (K.2.83)

を導入した.このパラメータはポテンシャルの微分を4回含んでいる.一方, 他のスローロールパラメータは微分を2回しか含んでいないので,他のパラメー タの2次の量である.例えば $ V \sim \phi^p$ と表される場合を考えてみれば $ \epsilon \sim \vert\eta\vert \sim \vert\xi\vert\sim c^4/(8\pi G \phi^2)$ であることが わかる.したがってスローロールパラメータ$ \epsilon$ , $ \eta$ の時間微分は スローロールパラメータの2次の量となり,1次近似では一定と考えられるこ とを示している.

次に,スローロール近似の下,モード関数を求める微分方程式(11.2.49) を解く.そのため,まず$ z''/z$ をスローロール近似において求める.式 (11.2.76), (11.2.77)からただちにスローロールの1次近 似で

    $\displaystyle {\cal H}' \simeq (1-\epsilon){\cal H}^2$ (K.2.84)
    $\displaystyle \bar{\phi}'' \simeq (1 + \epsilon - \eta){\cal H}\bar{\phi}'$ (K.2.85)

がわかるが,これを用いて $ z=a\bar{\phi}'/{\cal H}$ を微分すると同じく一 次近似で
$\displaystyle z' \simeq (1 + 2\epsilon - \eta) {\cal H} z$     (K.2.86)
$\displaystyle z'' \simeq (2 + 5\epsilon - 3\eta) {\cal H}^2 z$     (K.2.87)

であることがわかる.ここで2番目に式を導くのに,スローロールパラメータ $ \epsilon$ , $ \eta$ の微分は2次の量であることから落としてある.ここで式 (11.2.84)は,1次近似で$ \epsilon$ が一定であることから積分する ことができ,関係式

$\displaystyle (1-\epsilon)\tau \simeq - \frac{1}{\cal H}$ (K.2.88)

を得る.ただし基準点$ \tau = 0$ を無限の未来にとった.したがって式 (11.2.87)により

$\displaystyle \frac{z''}{z} \simeq \frac{2 + 5\epsilon - 3\eta}{(1-\epsilon)^2 \tau^2} \simeq (2 + 9\epsilon - 3\eta)\frac{1}{\tau^2}$ (K.2.89)

と表される.ここで,

$\displaystyle \frac{z''}{z} = \left(\nu^2 - \frac14\right)\frac{1}{\tau^2}$ (K.2.90)

とおくと便利であり,このとき$ \nu$

$\displaystyle \nu \simeq \frac32 + 3\epsilon - \eta$ (K.2.91)

となって,一次近似で一定値をとることがわかる.微分方程式 (11.2.49)はしたがって

$\displaystyle \frac{d^2 u_k}{d\tau^2} + \left[k^2 - \left(\nu^2 - \frac14\right)\frac{1}{\tau^2}\right] u_k = 0$ (K.2.92)

となる.ここで$ \nu$ が一定であればこれはベッセル微分方程式であるから, スローロールの一次近似の範囲内で一般解が求まることになる.その解は

$\displaystyle u_k(\tau) = \sqrt{\frac{\pi}{2}}\sqrt{-k\tau} \left[ \alpha_k H^{(1)}_\nu(-k\tau) + \beta_k H^{(2)}_\nu(-k\tau) \right]$ (K.2.93)

で与えられ,ここで $ H^{(1)}_\nu$ , $ H^{(2)}_\nu$ はそれぞれ第1種および第2 種ハンケル関数である.また$ \alpha_k$ , $ \beta_k$ は積分定数であるが,規 格化(11.2.51)を満たすためには

$\displaystyle \vert\alpha_k\vert^2 - \vert\beta_k\vert^2 = 1$ (K.2.94)

であることが要請される.ここで積分定数を決定しない限りモード関数に不定 性があることに注意しよう.モード関数が決定しなければ真空(基底状態)も定 義できないことになる.一般に曲がった時空における真空の定義には不定性が あり,観測者によって真空状態が異なって見えることに対応している.この不 定性は膨張のスケールよりもずっと小さい短波長極限$ k\gg aH$ ( $ -k\tau \gg
1$ )において平坦なミンコフスキー時空における平面波解(11.2.57); $ u_k = e^{-ik\tau}$ に一致するものを選ぶことにより除去される.このよう に選ばれる真空をバンチ・デービス真空と呼ばれる.ハンケル関数の $ x\rightarrow \infty$ における漸近形は
$\displaystyle H^{(1)}_\nu(x) \sim
\sqrt{\frac{2}{\pi x}}
\exp
\left[
i\left(x - \frac{\pi}{4} - \frac{\pi\nu}{2}\right)
\right]$     (K.2.95)
$\displaystyle H^{(2)}_\nu(x) \sim
\sqrt{\frac{2}{\pi x}}
\exp
\left[
-i\left(x - \frac{\pi}{4} - \frac{\pi\nu}{2}\right)
\right]$     (K.2.96)

となるので, $ \alpha_k = \exp[i(\nu + 1/2)\pi/2]$ , $ \beta_k = 0$ と 選べばよいことがわかる.したがって結局解は

$\displaystyle u_k(\tau) = \sqrt{\frac{\pi}{2}} e^{i\pi(\nu + 1/2)/2} \sqrt{-k\tau} H^{(1)}_\nu(-k\tau)$ (K.2.97)

で与えられることになる.

第一種ハンケル関数の $ x\rightarrow 0$ における漸近形は

$\displaystyle H^{(1)}_\nu(x) \sim \sqrt{\frac{2}{\pi}} e^{-i\pi/2} 2^{\nu - 3/2} \frac{{\mit\Gamma}(\nu)}{{\mit\Gamma}(3/2)} x^{-\nu}$ (K.2.98)

であることから,解の長波長極限,つまり超ホライズンスケール$ k\ll aH$ ( $ -k\tau \ll 1$ )における漸近形は

$\displaystyle u_k \sim e^{i\pi(\nu - 1/2)/2} 2^{\nu - 3/2} \frac{{\mit\Gamma}(\nu)}{{\mit\Gamma}(3/2)} (-k\tau)^{1/2 - \nu}$ (K.2.99)

で与えられる.ここでスローロールの最低次で $ -\tau \simeq {\cal
H}^{-1}$ であること,および式(11.2.76)から導かれる

$\displaystyle z \simeq \frac{c^2 a \sqrt{\epsilon}}{\sqrt{4\pi G}}$ (K.2.100)

を用いれば,式(11.2.61)の係数は

$\displaystyle C(k) = \lim_{k\rightarrow 0}\left\vert\frac{u_k}{z}\right\vert = ...
...}{c^3 \sqrt{\epsilon}}\frac{H}{k} \left(\frac{ck}{aH}\right)^{\eta - 3\epsilon}$ (K.2.101)

となる.


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