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ゲージ変換とスカラー・ベクトル・テンソル分解

さて、ここでゲージ自由度がどのように上の式に含まれているか調べておこう. 前に述べたように,一様な非摂動時空の各点を摂動時空の各点に一対一に対応 させる自由度がゲージ自由度であり,今の場合,摂動時空と非摂動時空の双方 の座標値が一致する点を対応させている.したがって,摂動時空の座標変換 を行えばこの対応関係が変更され,ゲージ変換をしたことになる.

そこで、座標変換 $ x^\mu \rightarrow \tilde{x}^\mu = x^\mu + \xi^\mu$ を 考える。ここで$ \xi^\mu$ は計量の摂動と同じオーダーの微小量とする。この とき計量の変換は

$\displaystyle \tilde{g}_{\mu\nu}(\tilde{x}) = \frac{\partial x^\alpha}{\partial \tilde{x}^\mu} \frac{\partial x^\beta}{\partial \tilde{x}^\nu} g_{\alpha\beta}(x)$ (J.3.42)

となる。これを同一の座標値$ x$ を持つ点で比べることにより,一次までのオー ダーで

$\displaystyle \tilde{g}_{\mu\nu}(x) = g_{\mu\nu}(x) - g_{\mu\alpha}(x) {\xi^\al...
...{,\nu} - g_{\nu\alpha}(x) {\xi^\alpha}_{,\mu} - g_{\mu\nu,\alpha}(x) \xi^\alpha$ (J.3.43)

というリー微分で表される.ゲージ変換では背景時空の座標が双方の座標で固 定されているので,この変換は摂動部分にのみ作用し、 $ (\xi^\mu) =
(T,L^i)$ と書けば、
    $\displaystyle \tilde{A} = A - T' - {\cal H}T$ (J.3.44)
    $\displaystyle \tilde{B}_i = B_i + \left(L_i\right)' - T_{\vert i}$ (J.3.45)
    $\displaystyle \tilde{C}_{ij} = C_{ij} - {\cal H}\gamma_{ij} T - L_{(i\vert j)}$ (J.3.46)

と書き直せる。ここで、以前のように3次元背景空間の計量 $ \gamma_{ij}$ に より添字の上げ下げおよび共変微分を定義している。

このように、計量を直接用いるとゲージ自由度が複雑に混在しているので、こ のままでは扱いにくい。ところが、次に述べるように、摂動をテンソルの型に 従って分解すると扱いやすくなる。

摂動計量のうち、ベクトル量である$ B_i$ やテンソル量である$ C_{ij}$ は、こ のまま扱うよりも、スカラー型、ベクトル型、テンソル型に分解すると扱いや すくなる.まず、ベクトル量である$ B_i$ はあるスカラー場 $ B^{\rm (S)}$ から 生成できる成分とその他の成分に分解して、

$\displaystyle B_i = {B^{\rm (S)}}_{\vert i} + {B^{\rm (V)}}_i$ (J.3.47)

とする。ここで、 $ B^{\rm (V)}$ からはスカラーを作ることができない,すな わち,発散がゼロ

$\displaystyle {{B^{\rm (V)}}_i}^{\vert i} = 0$ (J.3.48)

であるとする.すると$ B_i$ が任意に与えられたとき, $ B^{\rm (S)}$ は方程式 $ \triangle B^{\rm (S)} = {B_i}^i$ の解として求まり,その解を用いて $ {B^{\rm (V)}}_i$ $ B_i - B^{\rm (S)}_{\vert i}$ で与えられるので,この分解 は一意的である.同様に、テンソル量$ C_{ij}$ $ \gamma_{ij}$ に比例する部 分、スカラーの共変微分として得られる部分、ベクトルの共変微分として得ら れる部分に分けて、

$\displaystyle C_{ij} = \gamma_{ij} D + {C^{\rm (S)}}_{\vert ij} + \frac12 \left[ {C^{\rm (V)}}_{i\vert j} + {C^{\rm (V)}}_{j\vert i}\right] + {C^{\rm (T)}}_{ij}$ (J.3.49)

と分解する。ここで、ベクトル型成分からはスカラーが,テンソル型成分から はスカラーとベクトルが作れないものにする.その条件は
    $\displaystyle {{C^{\rm (V)}}_i}^{\vert i} = 0$ (J.3.50)
    $\displaystyle {{C^{\rm (T)}}_i}^i = 0$ (J.3.51)
    $\displaystyle {{C^{\rm (T)}}_{ij}}^{\vert j} = 0$ (J.3.52)

である.この分解が一意的であることを見るため,非摂動時空の3次元曲率テ ンソルの形(2.2.16)と,式(B.2.69)のように与えられる3次 元空間における共変微分の交換関係を繰り返し使えば,上の条件を満たすとき
    $\displaystyle {C_i}^i = 3D + \triangle C^{\rm (S)}$ (J.3.53)
    $\displaystyle {C_{ij}}^{\vert j}
= D_{\vert i}
+ \left[(\triangle + 2K) C^{\rm (S)})\right]_{\vert i}
+ \frac12 \triangle C^{\rm (V)}_i
+ K C^{\rm (V)}_i$ (J.3.54)
    $\displaystyle {C_{ij}}^{\vert ji}
= \triangle
\left( D + \triangle C^{\rm (S)} + 2K C^{\rm (S)}\right)$ (J.3.55)

となる.すると,$ C_{ij}$ が与えられているとき,連立微分方程式 (10.3.49), (10.3.53)-(10.3.55)を満たす$ D$ , $ C^{\rm (S)}$ , $ C^{\rm (V)}_i$ , $ C^{\rm (T)}_{ij}$ は一意的に定まること になる.11成分ある自由度のうち、5 つの拘束条件を課して、対称行列 $ C_{ij}$ に6つある自由度が固定されることになっている.

さて、ここで、ゲージ変換(10.3.44)-(10.3.46)は線形な関係で 表されているので両辺をテンソル型に分解できる。時間移動$ T$ はスカラー型 である。空間移動も分解して、 $ L^i = {L^{\rm (S)}}^{\vert i} + {L^{\rm
(V)}}^i$ とする。これにより、摂動の成分の変換はスカラー、ベクトル、テン ソルの各型で独立となる。具体的にはスカラー型について、

$\displaystyle \tilde{A}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle A - T' - {\cal H}T$ (J.3.56)
$\displaystyle \tilde{B}^{\rm (S)}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle B^{\rm (S)} + \left( L^{\rm (S)} \right)' - T$ (J.3.57)
$\displaystyle \tilde{D}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle D - {\cal H}T$ (J.3.58)
$\displaystyle \tilde{C}^{\rm (S)}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle C^{\rm (S)} - L^{\rm (S)}$ (J.3.59)

ベクトル型について
    $\displaystyle {\tilde{B}^{\rm (V)}}_i =
B^{\rm (V)}_i + \left( L^{\rm (V)}_i \right)'$ (J.3.60)
    $\displaystyle {\tilde{C}^{\rm (V)}}_i =
C^{\rm (V)}_i - L^{\rm (V)}_i$ (J.3.61)

また、テンソル型について

$\displaystyle {\tilde{C}^{\rm (T)}}_{ij} = C^{\rm (T)}_{ij}$ (J.3.62)

となる。


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