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エネルギー成分

実際にフリードマン方程式を解くには,宇宙の中に含まれている物質などの状 態方程式が必要であった.したがって,そのためには宇宙のエネルギー成分 $ \rho$ を担っている物質などを具体的に指定する必要がある.物質は大きく非 相対論的成分と相対論的成分の2つに分けることができる.非相対論的成分は, 運動エネルギーに比べて質量エネルギーが十分大きいもので,現在の宇宙では 代表的なものとしてはバリオン,コールドダークマターなどがある.以下では 簡単のため,物質成分と呼ぶことにする.これに対して,相対論的成分は質量 がないか,運動エネルギーに比べて十分小さな質量しかないようなもので,現 在の宇宙では光子,ニュートリノがこれにあたる.以下では輻射成分と呼ぶ.

現在非相対論的な物質成分も,宇宙初期からの宇宙の膨張にともなう温度の低 下により,相対論的成分から非相対論的成分へ変化してきたと考えられるので この分け方は実は完全ではない.だが,現在の非相対論的な物質が相対論的で あるような時期は非常な初期であるので,それ以後はひとまずこの2つの区別 がついていると考えてよい.すると,2つの成分間にエネルギー輸送は起こら ず,保存則(3.1.14)は独立に満たされる.非相対論的物質では圧力 $ p_{\rm m}$ はエネルギー密度 $ \rho_{\rm m}$ に比べて無視できるので,保存 則により

$\displaystyle \rho_{\rm m} \propto a^{-3}$ (C.3.37)

となる.一方,相対論的成分の圧力$ p_{\rm r}$ はエネルギー密度 $ \rho_{\rm
r}$ $ p_{\rm r} = \rho_{\rm r}/3$ の関係にあるので,

$\displaystyle \rho_{\rm r} \propto a^{-4}$ (C.3.38)

となる.したがって,全体の密度としては

$\displaystyle \rho = \rho_{\rm m} + \rho_{\rm r} = \frac{\rho_{\rm m0}}{a^3} + \frac{\rho_{\rm r0}}{a^4}$ (C.3.39)

である.ここで,それぞれの成分の密度パラメータを $ {\mit\Omega}_{\rm m0} =
\rho_{\rm m0}/\rho_{\rm c0}$ , $ {\mit\Omega}_{\rm r0} = \rho_{\rm
r0}/\rho_{\rm c0}$ とおけば,フリードマン方程式は次の形となる:

$\displaystyle \dot{a}^2 = {H_0}^2 \left( \frac{{\mit\Omega}_{\rm m0}}{a} + \fra...
..._{\rm r0}}{a^2} + {\mit\Omega}_{{\mit\Lambda}0} a^2 - {\mit\Omega}_{K0} \right)$ (C.3.40)

これをみると,物質成分,輻射成分,真空エネルギー,曲率によって異なる仕 方でスケール因子の成長に寄与していることがわかる.スケール因子の値によっ て,どの成分が支配的に寄与するかが変化している.現在$ a=1$ では,物質成 分などが支配していても,過去に遡った$ a \ll 1$ では輻射成分が支配してい たと考えられる.そこで,輻射成分と物質成分の密度がちょうど等しくなるよ うな時期を考え,これを等密度時 (equal time) $ t_{\rm eq}$ と 呼ぶ.このときのスケール因子の値 $ a_{\rm eq}$

$\displaystyle a_{\rm eq} = a(t_{\rm eq}) = \frac{\rho_{\rm r0}}{\rho_{\rm m0}} ...
...rm r0}}{{\mit\Omega}_{\rm m0}} = 4.17 \times 10^{-5} ({\mit\Omega}_0 h^2)^{-1}$ (C.3.41)

で与えられる.最後の数値は後に導くが,現在の輻射成分として光子と3種類 の相対論的ニュートリノを仮定したものである.等密度時以前の時期 $ a <
a_{\rm eq}$ は輻射優勢期 (radiation dominated era),以後の 時期 $ a > a_{\rm eq}$ は物質優勢期 (matter dominated era)と 呼ばれる.さらに,宇宙定数がなく, $ {\mit\Lambda}= 0$ , $ K < 0$ の場合には, $ a > - {\mit\Omega}_{\rm m0}/{\mit\Omega}_{K0}$ において曲率がスケール因子の成長 を支配しはじめるので,この時期を曲率優勢期 (curvature dominated era)と呼ぶ.ここで, $ {\mit\Lambda}= 0$ , $ K>0$ の場合には膨張は 収縮に転じるため,曲率優勢期は訪れない.一方,正の宇宙定数がある $ {\mit\Lambda}> 0$ の場合, $ a > \max [({\mit\Omega}_{\rm m0}/{\mit\Omega}_{{\mit\Lambda}
0})^{1/3}, ({\mit\Omega}_{\rm K0}/\vert{\mit\Omega}_{\Lambda 0}\vert)^{1/2}]$ において宇宙 定数がスケール因子の成長を支配しはじめ,この時期を真空エネルギー 優勢期 (vacuum energy dominated era)と呼ぶ.ここで,負の宇宙定 数 $ {\mit\Lambda}< 0$ の場合には,やはり収縮宇宙へ転じる.


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