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ロバートソン・ウォーカー計量に対するアインシュタイン方程式

スケール因子を除いたRW計量の空間部の3次元計量を $ \gamma_{ij}$ とすると, RW計量は

$\displaystyle ds^2 = -c^2 dt^2 + a^2(t) \gamma_{ij} dx^i dx^j$ (C.1.1)

とかける.ここで,$ x^0 = ct$ , $ x^1 = r$ , $ x^2 = \theta$ , $ x^3 = \phi$ という座標をとってあるとすると,

$\displaystyle \gamma_{ij} dx^i dx^j = \frac{dr^2}{1 - K r^2} + r^2 \left(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2\right)$ (C.1.2)

であるが,この3次元計量は行列表示で

$\displaystyle (\gamma_{ij}) = \left( \begin{array}{ccc} \displaystyle \frac{1}{...
...^2} & 0  0 & 0 & \displaystyle \frac{1}{r^2 \sin^2\theta} \end{array} \right)$ (C.1.3)

であり,この記法で4次元計量は

$\displaystyle (g_{\mu\nu}) = \left[ \begin{array}{cc} - 1 & 0  0 & a^2 (\gamm...
...cc} - 1 & 0  0 & \displaystyle \frac{1}{a^2}(\gamma^{ij}) \end{array} \right]$ (C.1.4)

である.

このように計量を時間部分と空間部分に分けることにより,クリストッフェル 記号は比較的容易に計算できて,

    $\displaystyle {\mit\Gamma}^0_{00} = {\mit\Gamma}^0_{0i} = {\mit\Gamma}^0_{i0}
= {\mit\Gamma}^i_{00} = 0,$  
    $\displaystyle {\mit\Gamma}^0_{ij} = \frac{a \dot{a}}{c} \gamma_{ij},
\qquad
{\mit\Gamma}^i_{0j} = {\mit\Gamma}^i_{j0} = \frac{\dot{a}}{ca} {\delta^i}_j,$ (C.1.5)
    $\displaystyle {\mit\Gamma}^i_{jk} = \frac12 \gamma^{il}
(\gamma_{lk,j} + \gamma_{jl,k} - \gamma_{jk,l})
\equiv {}^{(3)}{\mit\Gamma}^i_{jk}$  

となる.同様に曲率テンソルを求めることができるが,対称性からは明らかで ない成分のみに限って結果を書き下せば,
    $\displaystyle {R^0}_{00i} = {R^0}_{0ij} = {R^0}_{ijk} = {R^i}_{0jk} = {R^i}_{j0k}
= 0,$  
    $\displaystyle {R^0}_{i0j} = \frac{a \ddot{a}}{c^2} \gamma_{ij},
\qquad
{R^i}_{00j} = \frac{\ddot{a}}{c^2 a} {\delta^i}_j,$ (C.1.6)
    $\displaystyle {R^i}_{jkl} = \left(\frac{\dot{a}^2}{c^2} + K\right)
({\delta^i}_k \gamma_{jl} -{\delta^i}_l \gamma_{jk})$  

さらにリッチテンソルは
    $\displaystyle {R^0}_0 =\frac{3 \ddot{a}}{c^2 a}$  
    $\displaystyle {R^i}_0 = {R^0}_i = 0,$ (C.1.7)
    $\displaystyle {R^i}_j = \frac{1}{c^2}
\left[\frac{\ddot{a}}{a} + 2\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 +
\frac{2c^2}{a^2} K \right] {\delta^i}_j$  

また,スカラー曲率は

$\displaystyle R = \frac{6}{c^2} \left[\frac{\ddot{a}}{a} + \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 + \frac{c^2}{a^2} K \right]$ (C.1.8)

となる.これらによりアインシュタインテンソルを求めれば,
    $\displaystyle {G^0}_0 = - \frac{3}{c^2} \left[\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2
+ \frac{c^2 K}{a^2}\right],$  
    $\displaystyle {G^i}_0 = {G^0}_i = 0,$ (C.1.9)
    $\displaystyle {G^i}_j = - \frac{1}{c^2}
\left[2\frac{\ddot{a}}{a} + \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2 +
\frac{c^2 K}{a^2} \right] {\delta^i}_j$  

となる.アインシュタイン方程式

$\displaystyle {G^\mu}_\nu + {\mit\Lambda}{\delta^\mu}_\nu = \frac{8\pi G}{c^4} {T^\mu}_\nu$ (C.1.10)

からただちにエネルギー運動量テンソルが

$\displaystyle ({T^\mu}_\nu) = \left( \begin{array}{cccc} - \rho & 0 & 0 & 0  0 & p & 0 & 0  0 & 0 & p & 0  0 & 0 & 0 & p  \end{array} \right)$ (C.1.11)

という形しかとり得ないことがわかる.これは理想流体のエネルギー運動量テ ンソルの形であり,$ \rho$ はエネルギー密度に,$ p$ は圧力に相当する.非等 方ストレスに寄与する粘性や熱伝導はいまの場合存在し得ない.これはわれわ れが宇宙に一様等方性を課した結果,エネルギーや運動量の空間方向への流れ が禁止されていることに対応している.すると,アインシュタイン方程式の時 間成分と空間成分は,次の2つの方程式となる:
$\displaystyle \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{8\pi G}{3 c^2} \rho - \frac{c^2 K}{a^2}
+ \frac{c^2 {\mit\Lambda}}{3}$ (C.1.12)
$\displaystyle \frac{\ddot{a}}{a}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle - \frac{4\pi G}{3 c^2} (\rho + 3p) + \frac{c^2 {\mit\Lambda}}{3}$ (C.1.13)

これがRW計量を変数を力学的に規定するのアインシュタイン方程式であり,式 (3.1.12)を特にフリードマン方程式 (Friedmann equation) という.これらと独立ではないが,保存則 $ {T^\mu}_{\nu;\mu} =
0$ の時間成分から,次の式が導かれる:

$\displaystyle \dot{\rho} = -3 \frac{\dot{a}}{a} (\rho + p)$ (C.1.14)

式(3.1.12)を微分して式(3.1.13)から$ \ddot{a}$ を消去するこ とによってもこの式は導かれる.この式は,物理的に物質のエントロピーが保 存することを表している.これを見るため,宇宙の膨張とともに膨らんでいく 共動体積 $ V \propto a^3$ を考え,その体積中のエントロピーを$ S = sV$ とする. ここで$ s$ は単位体積あたりのエントロピーである. この体積中のエネルギーは $ U = \rho V$ で表される.さらにこの体積中に存在 する粒子種$ a$ の粒子数を $ N_a = n_a V$ とする.ここで$ n_a$ は対応する粒子 の数密度である.この粒子の化学ポテンシャルを$ \mu_a$ とする.すると,温 度を$ T$ として,熱力学第一法則により

$\displaystyle \frac{dS}{dt} = \frac{1}{T} \left( \frac{dU}{dt} + p\frac{dV}{dt}...
... 3\frac{\dot{a}}{a} (\rho + p) \right] - \sum_a \frac{\mu_a}{T} \frac{dN_a}{dt}$ (C.1.15)

となるが,この式の左辺第一項は式(3.1.14)からゼロである.したがっ て,粒子数が保存して $ dN_a/dt = 0$ が成り立っているときには共動体積中 のエントロピーが保存する.これは一様等方宇宙においては空間的に熱が流れ ることがありえないため,断熱的にふるまうからである. また,粒子数の保存しない反応が起きているとき でも,化学ポテンシャルが小さく $ \mu_a/k_{\rm B} T \simeq 0$ が成り立っ ていればやはりエントロピーは近似的に保存することになる.実際の宇宙の進 化に表れてくる様々な粒子については $ \vert\mu_a\vert/k_{\rm B} T \lower.5ex\hbox{$\; \buildrel < \over \sim \;$}10^{-8}$ 程度になっていて,化学ポテンシャルは無視することが可能である.したがっ て宇宙のエントロピーは保存すると考えてよい.

膨張宇宙では,ある共動体積に注目すると断熱膨張をしているため,必ずしも その中で粒子のエネルギーは保存しない.ネーターの定理によれば,物質のエ ネルギー保存則は時間についての系の並進対称性の現れである.いま,膨張宇 宙では物質にとってこの対称性がない.膨張宇宙ではエネルギーの代わりに, 物質のエントロピーが保存するのである.ただし,開いた系では一般に式 (3.1.15)左辺はエントロピーの微分ではない.この場合には後にみるよ うに,化学ポテンシャルが粒子のエネルギーに比べて無視できないような異常 に強い相互作用をする粒子が生成消滅するような宇宙では,一般にはエントロ ピーも保存しない.

さて,独立な方程式として,フリードマン方程式(3.1.12)と保存則 (3.1.14)の2つがある.曲率$ K$ と宇宙定数 $ {\mit\Lambda}$ が与えられれば, 未知変数は$ a$ , $ \rho$ , $ p$ の3つであり,このままでは解けない.これは宇 宙の中の物質を指定していないからである.この他に物質の状態方程式 $ p =
p(\rho)$ があれば,それと保存則(3.1.15)からエネルギー密度とスケー ル因子の関係 $ \rho =
\rho(a)$ が求まり,さらにこれをフリードマン方程式 (3.1.12)へ入れれば,スケール因子の時間変化$ a = a(t)$ が求められ ることになる.ここで1階微分方程式を2度解くことになるので,境界条件が 2つ必要である.これは現在の変数の値 $ \rho_0 \equiv \rho(t_0)$ , $ a_0 =
a(t_0)$ とすればよいが,スケール因子には規格化$ a_0 = 1$ を採用してあるの で,$ \rho_0$ のみ指定すればよいことになる.これと曲率$ K$ と宇宙定数 $ {\mit\Lambda}$ の3つを与えれば一様等方時空の進化が一意的に定まることになる.


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