我々は宇宙の物質のうち,銀河などとして光っているものしか観測できない. だが、宇宙の物質のほとんどはダークマターであって光を放たない.光を放ち 得るバリオンのうち,実際に銀河などとして光っているものはさらにわずかで ある.すると,銀河分布を用いて宇宙の大規模構造を観測しても,それがその ままダークマターを含む物質全体の分布を表しているとは限らない.我々の知 りたいのはむしろ物質全体の分布の方である.銀河の数密度が物質密度に単純 に比例するならば,銀河分布を測定すれば十分である.だが,銀河の形成が複 雑な非線形過程である以上,一般にはそのような比例関係は成り立たないと考 えられる.とはいえ,銀河は物質密度のゆらぎを種にして形成されたのである から,銀河分布と物質分布の間に何の関係もないということはない.この意味 で,銀河分布は物質分布のバイアスされた(すなわち偏りのある)トレーサー であるということができるのである.このようなバイアスがどのようなもので あるのかは銀河形成過程がどのようなものであるかを知らなければわからない. だが現在のところ,完全な非線形過程である銀河の形成についてよくわかって いるとはいいがたい.
銀河形成を現象論的に表す簡単なものとして,密度が局所的に極大になって いるピークの位置に銀河が形成されるという簡単なモデルを考える.この ようなモデルをピークモデルという(図16.2).
ここで,密度の低い場所でピークになっていても銀河は形成されず,密度ゆら ぎがあるしきい値ピークモデルを直感的にとらえるため,密度ゆらぎを地形に例えてみよう.す ると密度の大きい部分が山,小さい部分が谷となる.この場合,あるしきい値 となる標高よりも高い位置に存在する山の頂の部分が天体形成の場所に対応す る.
このピークモデルは銀河の形成を表すだけでなく,銀河団など他の天体の形成
を表すモデルと考えてもよい.このモデルにおいては,2つのパラメータ
,
があるが,これらの値は考えている天体に応
じて現象論的に決められる.スムージングスケール
としては,対応する天体の典型的な質量スケールが
となるように決めるのが自然である.また,しき
い値
はその天体の数密度を再現するように決められる.この
ようにしてパラメータを決定すると,与えられた密度ゆらぎのパワースペクト
ルからピークがどのような統計にしたがうかが決まる.
一般には,任意のゆらぎからピークの統計を導くことは
数学的に複雑な問題である.だが,スムージングスケールよりも十分長いスケー
ルで,かつ密度ゆらぎがガウシアン統計にしたがう線形領域の極限ではその関
係は比較的単純な形になることが知られている.この極限では,
密度ゆらぎのパワースペクトル
が与えられたとき,ピーク数密度の空間
的ゆらぎから求めたパワースペクトル
は近似的に
式(16.5.38)から,しきい値
が大きければ大きいほど,ピークのパワースペクトルはもとの密度ゆらぎのそ
れに対して増幅されることがわかる.さきほどの地形との対応でいうならば,
高い山の頂というのは,富士山のように孤立して存在することはまれで,アル
プス地方に見られるようにいくつもの頂が近くに群れ集まることのほうが多い.
すなわちピークの数密度の空間的ゆらぎがより大きくなるのである.しきい
値
が大きければ大きいほどその増幅率は大きくなる.
実際に,銀河の数密度のゆらぎよりも銀河団の数密度のゆらぎの方が大きいこ とが知られている.これは銀河団が銀河分布のピークに対応していると考え ればこのピークモデルである程度説明できる.また,明るい銀河の数密度のゆ らぎは暗い銀河の数密度のゆらぎに比べて大きいことが知られている.これは 明るい銀河ほどまれな天体であり,大きなしきい値を持つので,ゆらぎがより 大きく増幅されると考えることにより,ピークモデルである程度理解できる.
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