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次にトムソン散乱において偏光の自由度がどのように伝搬するかを考える.い
ま式(9.4.137), (9.4.138)で与えられる平面単色波を考え,図
9.1のように散乱前後の偏光面の座標をとる.
このとき,どちらの座標でも散乱面が
-
平面内にある.トムソン散乱の
断面積は入射電子の静止系で式(8.7.483)すなわち,
 |
(I.4.153) |
で与えられる.入射前後の1に規格化された偏光ベクトル
,
に対して散乱
確率は
の角度依存性を持っている.したがって散乱前の電場ベクトルを
,位相を
とし,散乱後のものを
,
とするとこれらの間には
 |
(I.4.154) |
の関係がある.ただし,
は散乱点からの距離,また
は比例定数でありす
ぐ後に決める.この関係からストークス・パラメータ
(9.4.140)-(9.4.143)の関係を求めれば,散乱前のストークス・
パラメータを
, 散乱後の
ストークス・パラメータを
として
| |
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(I.4.155) |
| |
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(I.4.156) |
| |
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 |
(I.4.157) |
| |
|
 |
(I.4.158) |
となる.ここで,偏光していない入射波
を考えてみるとその全散乱断面積は
 |
(I.4.159) |
となるが,これは
に等しいから
 |
(I.4.160) |
であることがわかる.したがって,行列表示を用いて
 |
(I.4.161) |
となる.あるいは
の基底では
 |
(I.4.162) |
となる.この散乱行列は入射方向と散乱方向で図9.1)のように別々
に選んだ座標系で,ストークス・パラメータの基底の方向決めている.だが,
一般に多数の衝突を扱う場合,ある一回の衝突に固有の座標系を選ぶことは適
切ではない.そこでこれを一般の座標系で表現する必要がある.そのためには
全く一般の座標系での入射電磁波のストークス・パラメータを上で考えている
散乱前の座標系へ変換し,それを上の衝突行列で散乱電磁波のものへ変換した
後,散乱後のストークス・パラメータの基底を元の座標のものへと直す必要が
ある.このとき,座標系の変換において偏光面が回転するときのみストークス・
パラメータが変換(9.4.148) を受ける.こうして計算することにより一
般の座標系での散乱行列の式が得られる
I8.
この計算は
の基底においてよりエレガントに行うことができる
I9 ので,
以下ではその方法を採用する.そのためにはスピン球面調和関数
が有用である.スピン球面調和関数はオイラー角
に対するSO(3)回転行列I10
によ
り次のように定義される:
このスピン球面調和関数を用いると一般の回転行列は
 |
(I.4.164) |
と表される.スピンゼロ
のスピン球面調和関数は通常の球面調和関数に
一致する:
 |
(I.4.165) |
また,回転行列の対称性から,
 |
(I.4.166) |
となる.さらに回転行列の直交性および完全性により,
| |
|
 |
(I.4.167) |
| |
|
 |
(I.4.168) |
が満たされる.また空間反転に対するパリティは
 |
(I.4.169) |
である.経度方向の積分に対し,
 |
(I.4.170) |
が成り立つ.また,回転行列の球面上の点
が北極点くるよう
に回転し,そこから点
へもっていくという2つの連続した回
転を考える(図9.2).
図 9.2:
加法定理および一般座標でのトムソン散乱の空間配置の説明図
|
|
その回転は回転演算子を用いて
で与えられる(引数はオイラー角).この回転はまた図の角度
により,一度の回転
に等し
いから,回転行列について,次の関係が成り立つ:
 |
(I.4.171) |
したがってスピン球面調和関数について次の加法定理
 |
(I.4.172) |
が導かれる.
ここまでの準備の下,散乱行列(9.4.162)をスピン球面調和関数で書き
換えることを考える.そうすることにより座標回転に対する変換性があらわに
なるからである.次の具体的な表現
| |
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 |
(I.4.173) |
| |
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 |
(I.4.174) |
| |
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 |
(I.4.175) |
および表9.1
表 9.1:
スピン0
および
の4重極(
)スピン球面調和関数
|
|
の具体形を用いて式(9.4.162)を書き換えると,
 |
(I.4.176) |
となる.ただし,
 |
(I.4.177) |
また,
 |
(I.4.178) |
という記法を使っている.
ここに現れている
の和で表される量は,式(9.4.172)により,一般
の座標系に移ったときにどのような変換をするかが明らかである.式
(9.4.172)の右辺の
,
の依存性は
であること,また図9.2により
,
のとき
であることから,
 |
(I.4.179) |
という関係がある.また,図9.2において,オイラー角
で表される回転を行うと
,
という座標となる.ここで散乱行列
をかけて
,
という
座標に移ったあと,オイラー角
で表される回転
により,元の座標系に戻る.このプロセスで偏光面の座標軸
の回転は,光の進行方向から
見て時計回りに,散乱前
, 散乱後
である.したがっ
て散乱前後のストークスパラメータを基底
で定義している場合,一般座
標での入射波のストークス・パラメータ
に
をかけたものを式(9.4.176)の
に用いることになる.また,左
辺を一般座標に戻すときには
に対して
がかかる.これらの位相は式(9.4.176)に式(9.4.179)を
代入したときにすべてキャンセルするから,結局式(9.4.176)の変換行
列のスピン球面調和関数を一般座標のもの
 |
(I.4.180) |
に置き換えればそのまま式(9.4.176)は一般座標でも正しいことがわか
る.
さて,一様な放射場を考え,進行方向が微小立体角
に入る光のストー
クス・パラメータ
の強さを
と書くことにす
る.ここで,方向を表すのに
などの記号を用いる.
つまり
は方向
へ進む光の立体角あたりのストークス・
パラメータである.入射波のストークス・パラメータが
で与えられるとき,微小立体角
への散乱波
のストークス・パラメータを
とする.この場合,上の散乱行列の式において
,
と対応するので,
| |
|
 |
(I.4.181) |
| |
|
 |
(I.4.182) |
となる.ただし,
は式(9.4.177)で
,
とおいた行列である.
さて,上の式において散乱前の方向
を積分すると,さまざまな方向
からやってくる電磁波がある固定された方向
に散乱されるときのス
トークス・パラメータを表すことになる.電子が数密度
で分布している
とすると,一様な光は単位面積,単位時間あたり
個の電子と散乱を起
こすので,ある方向
へのストークス・パラメータは単位時間あたり
 |
(I.4.183) |
だけ散乱により増加することになる.また,もとから
方向を向いて
いた光が散乱された分はそのストークス・パラメータが減少することになる.
その減少分は
 |
(I.4.184) |
である.したがって,ある固定した方向のストークス・パラメータの変化率は
合わせて
で与え
られる.
ここで,ストークス・パラメータをスピン球面調和関数により展開し
| |
|
 |
(I.4.185) |
| |
|
 |
(I.4.186) |
| |
|
 |
(I.4.187) |
とする.展開係数は式(9.4.167)から,
| |
|
 |
(I.4.188) |
| |
|
 |
(I.4.189) |
| |
|
 |
(I.4.190) |
で与えられる.すると,ストークス・パラメータの散乱による変化率は
| |
|
![$\displaystyle \left.\frac{dI}{dt}\right\vert _{\rm Th} =
n_e c \sigma_{\rm T}
\...
...2}
\left(Q_{+2}^{(m)} + Q_{-2}^{(m)}\right)
\right]Y_2^m({\mit\Omega})
\right\}$](img2948.png) |
|
| |
|
|
(I.4.191) |
| |
|
![$\displaystyle \left.\frac{dQ_\pm}{dt}\right\vert _{\rm Th} =
n_e c \sigma_{\rm ...
...m)} + Q_{-2}^{(m)}\right)
\right]{{ }_{\pm 2}Y_{2}^{m}}({\mit\Omega})
\right\}$](img2949.png) |
|
| |
|
|
(I.4.192) |
| |
|
![$\displaystyle \left.\frac{dV}{dt}\right\vert _{\rm Th} =
n_e c \sigma_{\rm T}
\...
...- V({\mit\Omega}) +
\frac12 \sum_{m=-1}^1 V_1^{(m)} Y_1^m({\mit\Omega})
\right]$](img2950.png) |
(I.4.193) |
となる.この式により多数の光子系の偏極分布の時間変化が記述できる.ストー
クス・パラメータを光子のエネルギーの関数と考え,さらに時空点の場所にも
依存する場の量と考えると,偏極状態の分布関数とみなすことができる.する
とこれらの式はボルツマン方程式における単位時間あたりの衝突項となる.し
たがって,ストークス・パラメータ
に対して上の衝突項によ
るボルツマン方程式は
 |
(I.4.194) |
となる.
Footnotes
- ...
般の座標系での散乱行列の式が得られるI8
- S. Chandrasekhar, Radiative Transfer, Dover
Publications (New York, 1960)
- ... の基底においてよりエレガントに行うことができるI9
- U. Seljak & M. Zaldarriaga, Phys. Rev. Lett. 78, 2054
(1997); S. Hu, & M. White, Phys. Rev. D, 56, 596 (1997)
- ...に対するSO(3)回転行列I10
- 回転行列の定義,性質につ
いては例えば,M.E.ローズ,角運動量の基礎理論(山内恭彦,森田正人訳,み
すず書房,1971)を見よ.
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