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次にベクトル場の量子化を考える。一般にゲージ場の正準形式は拘束系となり、
その量子化は他の場合に比べて特別の注意が必要である。ここでは最も簡単な
ベクトル場である電磁場、すなわち質量ゼロの可換ゲージ場をとくに考えるこ
とにする。電磁場における自由ベクトル場
のラグランジアンは
 |
(H.5.253) |
で与えられ、ここから共役運動量変数を求めると、
 |
(H.5.254) |
となる。左辺は反対称テンソルであるから、残念ながら恒等的に
となる。したがって時間成分に対して正準交換関係を設定することができない
ことになってしまう。これは一般にゲージ場の量子化が一筋縄でいかないこと
の現れであるが、電磁場の場合、この困難は次のようにして、比較的簡単な処
方で避けることができる。まずラグランジアンを次の形に変更する:
 |
(H.5.255) |
ここで、
は任意のパラメータである。ローレンツゲージ条件
のもとではこのラグランジアンはもとのラグランジ
アン(8.5.253)に等しい。つまり、このラグランジアンはローレンツゲー
ジ条件を拘束としてラグランジュ未定項を導入したことになっている。この項
をゲージ固定項 (gauge fixing term)と呼ぶ。ただしこの後詳しく見る
ように、量子論ではこのような拘束条件を演算子に対して課すことはできない
ことが示されるので、この変形されたラグランジアンから出発し、パラメータ
は自由に選べるものとする。このラグランジアンから運動方程式を
求めると、
 |
(H.5.256) |
となる。ここで、
と選べばローレンツゲージ条件を満たす場合の
運動方程式
 |
(H.5.257) |
に一致し、計算が簡単になるので、以下、
を採用する。この選択
はファインマンゲージ (Feynman gauge)と呼ばれる。このときラグラン
ジアン(8.5.255)を書き直して発散で表される全微分項を落とすと、
 |
(H.5.258) |
となる。すると共役運動量変数は
 |
(H.5.259) |
であるから、同時刻交換関係は
![\begin{displaymath}\begin{array}{l} \left[A^\mu(t_0, {\mbox{\boldmath$x$}}), \do...
... \dot{A}^\nu(t_0, {\mbox{\boldmath$y$}})\right] = 0 \end{array}\end{displaymath}](img1931.png) |
(H.5.260) |
となる。ここで、ベクトル場の4つの成分は質量なしのクラインゴルドン方程
式(8.5.257)を満たし、交換関係は独立にスカラー場の交換関係と類似
のものとなっているので、スカラー場の量子化の手続きはほとんどそのまま用
いられる。ただし、空間成分
はまさにスカラー場の交換関係と同一であ
るが、時間成分
は交換関係の右辺の符合が逆になっている!このことは
スカラー場の量子化をそのまま使えないことを意味するが、下に見るように技
術的な問題であり、物理的に意味がなくなるような問題ではない。
ベクトル場の平面波展開は
![$\displaystyle A^\mu = \int \frac{d^3k}{(2\pi)^3 2k^0} \sum_{\lambda=0}^3 \left[...
...dmath$k$}}){\varepsilon_\lambda}^{\mu*}({\mbox{\boldmath$k$}}) e^{-ikx} \right]$](img1788.png) |
(H.5.261) |
であり、ここから生成消滅演算子の交換関係を求めると、
![\begin{displaymath}\begin{array}{l} \left[a_\lambda({\mbox{\boldmath$k$}}), a_{\...
...agger_{\lambda'}({\mbox{\boldmath$k$}}')\right] = 0 \end{array}\end{displaymath}](img1934.png) |
(H.5.262) |
となる。ここで、時間成分の交換関係がスカラー場と逆符合であったため、ス
カラー偏極成分の生成消滅演算子
,
の
交換関係の符合がスカラー場の場合と逆になってしまっている。
また、全4元運動量をスカラー場の場合と同様にして計算すると、
 |
(H.5.263) |
となって、スカラー偏極成分の粒子はエネルギーや運動量に逆の符合で寄与し
ていて奇妙なことになっている。ともかくもここに得られた生成消滅演算子を
用いてフォック空間を作ってみる。スカラー場の場合と同様に、離散化した演
算子を用いて、基底状態
をすべての
,
に対して
,
を満たす
ものと定義する。すると、一粒子状態のノルムは
 |
(H.5.264) |
となるので、スカラー偏極成分のヒルベルト空間のノルムは負になってしまう。
このことは量子論の確率解釈において負の確率を導くこととなってしまい、こ
れは物理的な存在とみなすことはできない。
このようにスカラー偏極成分は物理的には奇妙な存在であるが、実際には光子
には横偏極成分しか観測されない。そもそも光子の物理的自由度は2であり、
横偏極成分以外は非物理的なものである。にもかかわらずこのような非物理的
な自由度が現れているのは、量子化に際してまだゲージ固定がなされていない
からである。我々はローレンツゲージのもとでマックスウェル方程式に等価な
ラグランジアン(8.5.258)から出発してはいるが、まだ量子化に際して
このゲージ固定がなされていないので4自由度が残っているのである。だが、
演算子の段階でローレンツゲージ条件を課すと矛盾に導かれる。実際、場の同
時刻交換関係から、
![$\displaystyle \left[\partial_\mu A^\mu(t,{\mbox{\boldmath$x$}}), A^\nu(t,{\mbox...
...t] = -i\hbar c\eta^{0\nu} \delta^3({\mbox{\boldmath$x$}}-{\mbox{\boldmath$y$}})$](img1940.png) |
(H.5.265) |
となるので、演算子として恒等的にローレンツゲージ条件
を成立させることはできない。
こうして、ローレンツゲージ条件を演算子に対して課すことは許されないこと
がわかる。だが、演算子そのものとしてゲージ条件が成り立つことは必ずしも
必要ではなく、より弱い関係として、ヒルベルト空間に対する付加条件として
成り立つものと考えることが可能である。このようにすれば負ノルムが物理的
な観測量に現れることはなくなる。この方法はグプタ・ブロイラーの方
法 (Gupta-Bleuler method)と呼ばれるものである。この方法では、物理的な
ヒルベルト空間の状態ベクトル
に対して、付加条件
 |
(H.5.266) |
を課す。ここで、
は展開式(8.4.192)において消滅
演算子を含んだ正振動部分のことである。負振動部分は
で与えられ、
である。この分解は相対論的に不
変な分解となっている
H7。条件
(8.5.266)とその共役
 |
(H.5.267) |
により、ローレンツゲージ条件は物理的状態ベクトルによる期待値の意味で常
に成り立つ:
 |
(H.5.268) |
したがって、古典極限ではローレンツゲージ条件が成立して、マックスウェル
方程式が成り立つこととなる。
付加条件(8.5.266)を展開(8.4.192)を使って書き直す。横偏
極の定義式(8.4.198)を使い、また
であることを使うと、この付加条件に同値な条件と
して、すべての
について
![$\displaystyle \left[a_0({\mbox{\boldmath$k$}}) - a_3({\mbox{\boldmath$k$}})\right]\left\vert \Phi \right\rangle = 0$](img1951.png) |
(H.5.269) |
となることがわかる。この結果、縦偏極光子とスカラー偏極光子の数は、物理
的状態空間における期待値としては等しくなる:
 |
(H.5.270) |
すると全4元運動量の表式(8.5.263)において、物理的状態空間にお
ける期待値を取る限り、スカラー偏極光子は正の符合で寄与する縦偏極光子と
必ず消ち消しあって、負エネルギー粒子が現れることはなくなる:
 |
(H.5.271) |
ここで、
は連続極限での個数演算子である。横偏極光子のみが実
質的にエネルギーや運動量に寄与することになる。
このようにフォック空間を構成すると、スカラー偏極光子と縦偏極光子がいく
ら含まれようとも物理的に等価な状態を表すことになる。これは非物理的な自
由度がさらにまだ残っていることを意味するが、これはよく知られているよう
に古典論でローレンツゲージが完全に非物理的自由度を固定しないことに対応
している。観測される光子は物理的な横偏極成分しか存在しない。だが、この
あと摂動論において具体的に見るように、粒子の反応の中間段階に出現する、
観測されることのない仮想光子においては縦偏極やスカラー偏極の光子は無視
することのできない重要な自由度として現れてくる。
Footnotes
- ...
変な分解となっているH7
-
は生成演算子を含んでいるので、
という付加条件を課すことはできない。
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