next up previous contents index
次へ: . 上へ: 宇宙論と観測 前へ: 宇宙論と観測   目次   索引

Subsections

宇宙の大規模構造

現在の宇宙の大規模構造を調べるための直接的な方法は,銀河の空間的な分布 地図を用いることである.上で説明したように,銀河の分布は密度ゆらぎを反 映している.そこで銀河の空間分布地図を使ってその性質を調べることにより, 密度ゆらぎの情報を得ることができるのである.ここで銀河分布と密度ゆらぎ の関係においてバイアスという概念が重要になる.

銀河サーベイ

銀河の大規模な空間分布を調べるためには、ひとつひとつの銀河の位置を測定 すればよい.多数の銀河の位置をひとつひとつ決めていく観測のことを銀河サー ベイという.地球から見て銀河の見える方向,すなわち天球面上での位置は容易 に測定することができる.天球面上の位置だけをカタログにしたものを撮像サー ベイという.図7.1は撮像サーベイによって得られた銀 河の天球面上での分布の例である.

図 7.1: APMサーベイによる天球面上における2次元銀河分布 (Maddox et al. 1990より転載)
\includegraphics[width=24pc]{figs/fig_APM.eps}
だが,銀河の3次元的な空間分布を知るためには銀河までの距離 を測定する必要がある.

銀河サーベイにおいて,銀河までの距離を推定するには,ハッブルの法則

$\displaystyle cz = H_0 r$ (G.1.1)

を利用する.ここで$ c$ は光速度,$ z$ は銀河の赤方偏移を表し,$ r$ は銀河ま での距離を表す.$ H_0$ はハッブル定数である.この有名な関係は赤方偏移$ z$ が1よりも十分小さい近傍宇宙で成り立つものであり,赤方偏移が大きくなっ てくるともう少し複雑な関係となる.いずれにしても銀河の赤方偏移とその距 離との間にはほぼ1対1の関係があり,赤方偏移を測定すれば距離が推定でき るのである.こうして得られる銀河の3次元的な位置を決めていく観測を赤方 偏移サーベイという.

銀河の赤方偏移は銀河からの光の強さを波長ごとに分解したスペクトルを取る ことで決定する.特定の原子や分子から出る光はある決まった波長を持ってお り,その波長はスペクトル中に輝線となって表れる.輝線の 波長は赤方偏移により本来の波長よりも長くなっている. 観測された輝線の波長と本来の波長の比から赤方偏移が決定される. ある輝線がどの原子, あるいは分子の輝線であるかは,複数の輝線の相互関係などによって定められ る.

銀河の天球面上の位置を測定するのに比べると,銀河のスペクトルを測定する のは容易ではない.天球面上の位置は空のある範囲を撮像することで複 数の銀河の位置を一度に決められるが,スペクトルは銀河ひとつひとつに分光 器を当てて測定する必要があるためである.さらにスペクトルを取るにはそれ なりに時間をかけて光を集めなければならない.このため多数の銀河の距離を 測定するには時間と労力がかかる.このため大規模な赤方偏移サーベイは通常, 何年もかかるプロジェクトになる.

1986年に発表されたCfA赤方偏移サーベイは銀河の数が約1100個であったが, 100Mpcにおよぶ大規模な構造を描き出した(図7.2).

図 7.2: CfA赤方偏移サーベイによる銀河分布 (de Lapparent et al. 1986より転載).
\includegraphics[height=13pc]{figs/fig_CfA.eps}
このサーベイは天球面上のある細長い領域にある銀河の赤方偏移サーベイであ る.図の一番下に我々の銀河系があり,点のひとつひとつが各銀河に対応する. 扇型の半径方向は銀河の赤方偏移を表している.角度方向は天球面上での位置 を表す.天球面上での細長い領域のうち,長辺方向の位置が表されていて,短 辺方向への位置は問わずプロットされている.したがって,我々の銀河から見 て,半径方向へ薄くスライスした宇宙を見ていることになる.このようなプロッ トは赤方偏移サーベイによる銀河分布を図示するのによく使われ,コーン図と 呼ばれている.この図で半径方向の単位はkm/sで表されているが,これは赤方 偏移$ z$ を後退速度$ cz$ で表したものである.近傍宇宙では,後退速度100km/s はちょうど1$ h^{-1}$ Mpcに対応する.ここで $ h = H_0/(100 {\rm km/s/Mpc})$ は規格化されたハッブル定数である.

図から,100Mpcのスケールに及ぶ構造が見て取れる.銀河がフィラメント状あ るいはウォール状に連なっていたり,また銀河がほとんどない大きなボイド領 域が存在する.当時,このような大規模な構造の存在は驚くべきことであった. 同時にこのような構造をつくり出すメカニズムを理解すべく,宇宙の構造形成 理論の研究は大きく進展したのである.

その後も,11,000個の銀河を調べたCfA2赤方偏移サーベイ,26,000個の銀河を 調べたラスカンパナス赤方偏移サーベイなどをはじめとして,いくつもの大規模な赤 方偏移サーベイが行われた.2003年に観測の終了した2dF赤方偏移サー ベイでは,25万個の銀河が調べられている.さらに2008年に観測終了予定の SDSS (Sloan Digital Sky Survey)は約100万個近い銀河の観測を目指している. SDSSは現在進行中であるが,すでに観測の済んでいる領域のSDSSのデータ だけでも現在のところ最大の銀河 赤方偏移サーベイカタログとなっている。図7.3はSDSS の描き出した銀河分布を表すコーン図である.

図 7.3: SDSS赤方偏移サーベイによる銀河分布 (Park et al. 2005より転載).
\includegraphics[height=15pc]{figs/fig_SDSS.eps}
SDSSの観測領域は天球面の約1/4にもおよび,もはやCfAサーベイなどのように 細長い領域ではない.したがってコーン図では全体を表しきれないため,この 図ではサーベイの一部の銀河のみをプロットしてある.この図の半径は 600$ h^{-1}$ Mpcにもおよび,CfAサーベイの約6倍の深さがある.

2dFサーベイやSDSSサーベイでは,通常の銀河のサーベイばかりでなく, 赤方偏移が$ z\sim 0.3$ 付近の遠方にある明るく赤い銀河だけを選び出すサー ベイや,赤方偏移が$ z\sim 2$ 付近のさらに遠方にあるクェーサーを選び出す サーベイが同時に行われている.このように現在では,近傍宇宙のみならず, 遠方宇宙の赤方偏移サーベイも勢力的に行われるようになっている.だが,赤 方偏移サーベイによってこれまでに観測された領域は観測可能な宇宙のうちご く一部である.SDSSにより赤方偏移が$ z < 0.2$ の近傍宇宙の様子はだいぶ明 らかになってきたが,さらに遠方宇宙に関しては広大な領域がまだ未観測のま ま残っている.光の速度が有限であることから,遠方宇宙をサーベイすること は昔の宇宙を見ることでもある.したがって,遠方の宇宙のサーベイでは, 広い宇宙の姿を描き出すだけでなく,宇宙の歴史をたどることができるのであ る.赤方偏移サーベイによって宇宙の姿を描き出す手法は将来に渡って今後も さらに重要になるであろう.

ここで気を付けなければいけない注意点として,赤方偏移サーベイで得られる 銀河の距離は実際には多少本来の位置からずれるということがある.これは各 銀河が膨張宇宙に対して膨張運動とは別に固有の運動をしていることからくる. 例えば,本来同じ距離にある2つの銀河があったとして,一方は我々の方へ向 かう速度を持ち,もう一方は我々から遠ざかる速度を持っているとする.この 場合,ドップラー効果により相対的に2つの銀河の赤方偏移は異なって見える ことになる.その典型的な速度は約300km/s程度である(銀河団中などではもっ と大きくなる).これは距離に直すと3$ h^{-1}$ Mpc程度に対応する. したがって赤方偏移サーベイで得られる銀河地図は本来の銀河分布に比べて 視線方向へこのような変形を受けたものになる.本来の実際の空間における銀 河分布を実空間の銀河分布,赤方偏移で測られる銀河分布を赤方偏移空間の銀 河分布という.また,実空間と赤方偏移空間の間の変形を赤方偏移変形と呼ぶ. 構造形成の解析を行う場合には,この赤方偏移変形の効果は理論的に補正され て解析される.

2点相関関数

銀河サーベイにより銀河の3次元的な点分布が明らかにされるが,これを宇宙 の構造形成理論と比較するには統計的に行う必要がある. そこでまずは,銀河の空間分布が全体としてどういう性質を持っているのかを特 徴づける統計量を定義する必要がある.この目的のために用いられる簡単な方 法のひとつは,銀河が空間的にどのように群れ集まっているかを表す2点相関 関数、あるいは簡単に相関関数と呼ばれる統計量である.

2点相関関数の定義は次の通りである.まず,距離$ r$ だけ離れた2点$ \bm{x}_1$ , $ \bm{x}_2$ のまわりにそれぞれ取った微小体積$ d^3x_1$ , $ d^3x_2$ の両方に銀 河が含まれる確率 $ P(\bm{x}_1,\bm{x}_2)d^3x_1 d^3x_2$ を考える.ここでい う確率とは,距離 $ r=\vert\bm{x}_2 - \bm{x}_1\vert$ を固定しながら,この2点を空 間のいろいろな場所に取ってみたときの起こりやすさを意味している.もし, 銀河がお互いに無関係に全くランダムに分布しているならば,宇宙全体の銀河 の平均数密度を$ \bar{n}$ として,この確率は $ \bar{n}^2d^3x_1 d^3x_2$ で与 えられる. だが,実際の銀河の分布は銀河団のようにお互いに銀河が群れ集まったり,あ るいはボイドのように銀河がお互いに離れあったりと,全くランダムな分布は していないため,確率はこの値からずれる.そのずれを

$\displaystyle P(\bm{x}_1,\bm{x}_2)d^3x_1 d^3x_2 = \bar{n}^2 \left[ 1 + \xi(r)\right]d^3x_1 d^3x_2$ (G.1.2)

とかいて,この値$ \xi(r)$ を2点相関関数と定義するのである.2点相関関 数$ \xi(r)$ の値の大きさは,距離$ r$ の銀河のペアの数が完全なランダム分布よ りどれくらい多いかを表す.つまりこの関数は,距離スケールごとに銀河がど れくらい強く群れ集まっているかを統計的に表すものである.相関関 数はスケールによって負にもなりうる.この場合には銀河のペアの数が完全な ランダム分布よりも少ない.

より実際的に相関関数を計算するときには銀河のペアを数え上げるという方法 が取られる場合が多い.つまり,あるひとつの銀河に着目し,その銀河を中心 として距離が$ r$ $ r + dr$ の間にあるような他の銀河の数$ dN$ を数える.これ をなるべく多数の銀河を中心にして繰り返し,その平均値 $ \overline{dN}$ を計 算する.この数は点$ \bm{x}$ に銀河があるときにそこからベクト ル$ \bm{r}$ だけ離れた微小体積$ d^3r$ のなかに銀河がある条件付確 率 $ P(\bm{x} + \bm{r}\vert\bm{x})d^3r$ をベクトル$ \bm{r}$ について角度積分 したもので与えられる.この条件付確率は$ \bm{x}$ $ \bm{r}$ のまわりにあ る微小体積に同時に銀河が存在する確率 $ P(\bm{x} + \bm{r}, \bm{x})d^3r
d^3x$ を,$ d^3x$ に銀河が存在する確率 $ \bar{n}d^3x$ で割り算し た $ \bar{n}^{-1} P(\bm{x} + \bm{r}, \bm{x})d^3r$ で与えられる.したがっ て,

$\displaystyle \overline{dN} = 4\pi r^2 dr P(\bm{x} + \bm{r}\vert\bm{x}) = \frac...
...r^2 dr P(\bm{x} + \bm{r},\bm{x}) = 4\pi \bar{n} r^2 dr \left[ 1 + \xi(r)\right]$ (G.1.3)

と計算される.すなわち,銀河ペアの数え上げである $ \overline{dN}$ から2点 相関関数が求まるのである.

現在までに得られているSDSS赤方偏移サーベイの銀河分布から計算した比較的 小スケールの2点相関関数を図7.4に示す.

図 7.4: SDSS赤方偏移サーベイによる銀河分布から求めた比較的小スケール の2点相関関数 (Zehavi et al. 2005より転載).
\includegraphics[height=18pc]{figs/fig_2pt.eps}
この図では赤方偏移変形は理論的に補正されていて,実空間における銀河の2 点相関関数が計算されている.この図に表されている黒丸と誤差棒は観測値に 対応する.

CfAサーベイの観測の頃から非線形領域の2点相関関数はべき則 $ \xi(r) =
(r/r_0)^{-\gamma}$ でよくフィットすることが知られていた.ここでパラメー タ$ r_0$ は相関関数の値が1になる距離を表していて,相関長と呼ばれる.また, パラメータ$ \gamma$ は相関関数が距離の関数としての変化を表すべき指数であ る.このパラメータの値が大きいほど相関関数は距離とともに速く減少する. SDSSサーベイの相関関数によってフィットしたべき則の相関関数は図中の直線 で示されており,そのパラメータの値は $ r_0 = 5.59 \pm 0.11 h^{-1}{\rm
Mpc}$ , $ \gamma = 1.84 \pm 0.01$ とフィットされている.さらに図をよく 見てみるとわかる通り, $ 10h^{-1}{\rm Mpc}$ 付近のスケールでべき則からず れていることもわかる.このようなべき則からのずれはSDSSサーベイのような 大規模な赤方偏移サーベイではじめて明らかになったものである.

上の相関関数はほとんど非線形領域から凖線形領域のものであったが,SDSSサー ベイにおいては明るい銀河のみを選び出す赤方偏移サーベイも行っており,こ れは通常の銀河のサーベイよりも広い体積を調べられる.そのサーベイに よって,より大スケールの線形領域の2点相関関数を示したのが図 7.5である.

図 7.5: SDSS赤方偏移サーベイによる明るい銀河の分布から求めた線形領域 の2点相関関数(Eisenstein et al. 2005より転載).実線は理論曲線で,上 の3本の線はすべて $ \Omega _{\rm b}h^2 = 0.024$ , $ n=0.98$ を仮定した. 上から順に $ \Omega _{\rm m}h^2 = 0.12, 0.13, 0.14$ に対応する. 一番下の線はバリオンのない $ \Omega _{\rm b} = 0$ , $ \Omega _{\rm m}h^2=0.105$ のモデルである.内部に入っている図はバリオンによるピー クの部分を拡大したものである.
\includegraphics[height=19pc]{figs/fig_2ptLRG.eps}
ただし,この図では赤方偏移変形は補正されていない.線形領域で赤方偏移変 形は相関関数の全体的な振幅のみを増やす効果があることが知られている.し たがって実空間での相関関数はこの図よりも若干全体的な振幅が小さくなるが, 形は同じである.ほぼ100$ h^{-1}$ Mpc付近に相関関数のピークが見られる.こ のピークは,バリオン音響振動の表れである.このスケールは晴れ上がり時の バリオン・光子混合流体の音速と,その時の宇宙年齢の積に対応する.これは おおまかには晴れ上がり時点でのホライズンサイズのオーダーである.その振 動スケールが相関関数のピークとなって表れているのである.線形領域におけ る相関関数の振舞いは,以下に述べるように線形領域のパワースペクトルから 予言でき,それを通じて様々な宇宙論パラメータの依存性が計算できる.図に はいくつかパラメータを変えてみたときの理論予言が描き込んである.

ここまで,点分布である銀河の分布から相関関数を求める方法を説明した.と ころが,我々が本当に知りたいのは銀河がトレースしている密度ゆらぎの性質 である.このため,相関関数は密度ゆらぎの場 $ \delta(\bm{x})$ とどのような 関係にあるのか考える必要がある.密度ゆらぎは連続的な場であるから,それ に対応して,銀河の数密度の場$ n(\bm{x})$ という概念を導入する.この場は 点$ \bm{x}$ のまわりの局所的な平均密度を表すものとする.すると,ある 点$ \bm{x}$ のまわりの微小体積$ d^3x$ 中の銀河の数の平均 値 $ n(\bm{x})d^3x$ は,この体積中に銀河が存在する確率を与える.なぜなら, 銀河は同じ位置に2つ以上存在できないので,微小体積中の銀河の数は必 ず0か1になるからである.

この数密度場の概念を使って2点相関関数を表してみる.距離$ r$ だけ離れた 点$ \bm{x}_1$ , $ \bm{x}_2$ のまわりの微小体積$ d^3x_1$ , $ d^3x_2$ 中に同時 に銀河が含まれる確率は $ n(\bm{x}_1) n(\bm{x}_2) d^3x_1 d^3x_2$ となる. これを2点間の距離 $ r=\vert\bm{x}_2 - \bm{x}_1\vert$ を固定してさまざまな場所で 平均したものは,式(7.1.2)により,2点相関関数で表され る:

$\displaystyle \left\langle n(\bm{x}_1) n(\bm{x}_2) \right\rangle = \bar{n}^2 \left[ 1 + \xi(r)\right]$ (G.1.4)

ここで,銀河の数密度のゆらぎ

$\displaystyle \delta^{\rm (g)}(\bm{x}) = \frac{n(\bm{x}) - \bar{n}}{\bar{n}}$ (G.1.5)

を定義すると,2点相関関数は

$\displaystyle \xi(r) = \left\langle \delta^{\rm (g)}(\bm{x}_1) \delta^{\rm (g)}(\bm{x}_2) \right\rangle$ (G.1.6)

と表される.もしバイアスがなく,銀河の数密度場$ n(\bm{x})$ が物質の密度場 $ \rho(\bm{x})$ に比例するとすると,両者のゆらぎは一致し $ \delta^{\rm
(g)}(\bm{x}) = \delta(\bm{x})$ となるので,相関関数は

$\displaystyle \xi(r) = \left\langle \delta(\bm{x}_1) \delta(\bm{x}_2) \right\rangle$ (G.1.7)

と表すことができる.

相関関数は式(6.6.124)で定義したパワースペクトルと密接 な関係がある.実際,式(7.1.7)の相関関数に,式 (6.6.122)のフーリエ展開を代入してから式 (6.6.124)を用いると,

$\displaystyle \xi(r)$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \left\langle
\delta^*(\bm{x}_1) \delta(\bm{x}_2)
\right\rangle ...
...{\bm{k}_2}
\right\rangle
e^{-i\bm{k}_1\cdot\bm{x}_1 + i\bm{k}_2\cdot\bm{x}_2}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{V}\sum_{\bm{k}} P(k)
e^{i\bm{k}\cdot(\bm{x}_2 - \bm{x}_1)} =
\frac{1}{V}\sum_{\bm{k}} P(k)
e^{i\bm{k}\cdot \bm{r}}$ (G.1.8)

と計算される.ただし,ゆらぎは実数であることを用いた.ここでベクト ル量 $ \bm{r} = \bm{x}_2 - \bm{x}_1$ が左辺に表れているが,波数ベクト ル$ \bm{k}$ の和を取ると $ r = \vert\bm{r}\vert$ にしか依存しない.この式から2点 相関関数はパワースペクトルの3次元的なフーリエ変換であることがわかる. 離散フーリエモードの直交関係は

$\displaystyle \int d^3x e^{-i\bm{k}\cdot\bm{x}} e^{i\bm{k}'\cdot\bm{x}} = V\delta^{\rm K}_{\bm{k},\bm{k}'}$ (G.1.9)

であるから式(7.1.8)の逆変換は

$\displaystyle P(k) = \int d^3r \xi(r) e^{-i\bm{k}\cdot\bm{r}}$ (G.1.10)

となる.このように,相関関数とパワースペクトルがお互いにフーリエ変換で 結びついているという関係のことを,ウィーナー・ヒンチン関係という. すなわち,相関関数とパワースペクトルは数学的には等価な内容を含んでいる のである.

構造形成の線形理論においては密度ゆらぎの統計的性質とし て相関関数よりもパワースペクトルのほうが取り扱いやすい. したがって,理論的に予言されたパワー スペクトルをフーリエ変換することによって相関関数を導けば,直接観測と比 較することができる.ただし,非線形領域においてはパワースペクトルはもは や理論的に特に取り扱いやすいわけではなく,数値シミュレーションによって 直接相関関数を計算して観測と比較するということも行われる.

パワースペクトル

銀河分布から相関関数を求める代わりに,直接パワースペクトルを求めるとい うことも行われる.パワースペクトルは相関関数と違って実空間の統計量では ないので,その方法は一通りではない.ここでは最もオーソドックスな方法を 簡単化して説明する.

密度ゆらぎのパワースペクトルに関しては節6.6.2で説明 した.式(6.6.120)で与えられるゆらぎのフーリエ変換を考 えると,その逆変換は

$\displaystyle \widetilde{\delta}(\bm{k}) = \int d^3x \delta(\bm{x}) e^{-i\bm{k}\cdot\bm{x}}$ (G.1.11)

となる.同様に銀河の数密度のゆらぎ $ \delta^{\rm (g)}(\bm{x})$ からフー リエ係数 $ \delta^{\rm (g)}_{\bm{k}}$ を計算し,そこから銀河のパワースペ クトル $ P_{\rm g}(k) =\langle\vert\delta^{\rm (g)}_{\bm{k}}\vert^2\rangle$ が求 められる.

ただし,ここで問題点がひとつある.それは,銀河サーベイの全体の体積が有 限であることである.理論的には全体の体積$ V$ は十分大きなものと考えてい る.したがって,式(7.1.11)のフーリエ係数 $ \delta_{\bm{k}}$ はその波数のスケールよりもずっと大きな体積 $ V\gg\vert\bm{k}\vert^{-3}$ で積分しなければならない.だが,観測ではかならず有 限の体積でしか積分できないので,理論的に予言されるパワースペクトルと観 測で測定されるパワースペクトルに食い違いが生じるのである.特に,観測体 積が複雑な形をしている場合にその効果が著しい.

この食い違いがどのように生じるのかを式で考えてみる.まず,サーベイの体 積を表す次のような関数

$\displaystyle W(\bm{x}) = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (サーベイ体積中) 0 & (サーベイ体積外) \end{array} \right.$ (G.1.12)

を定義する.これをサーベイのウィンドウ関数という.銀河が一様にサンプリ ングされていない場合にはウィンドウ関数のサーベイ体積中の値に重みをつけ ることもあるが,いまは簡単のため,一様なサンプリングを仮定している. このときサーベイ体積は

$\displaystyle V_{\rm S} = \int d^3x W(\bm{x})$ (G.1.13)

で与えられる.

この体積中で式(7.1.11)の積分を銀河の数密度に対して行 うと,サーベイの有限体積中のみから見積もられるフーリエ係数として,

$\displaystyle F_{\bm{k}} = \frac{1}{\sqrt{V_{\rm S}}} \int d^3x \delta^{\rm (g)}(\bm{x})W(\bm{x}) e^{-i\bm{k}\cdot\bm{x}}$ (G.1.14)

が得られる.ここに数密度ゆらぎとウィン ドウ関数のフーリエ展開

$\displaystyle \delta^{\rm (g)}(\bm{x}) = \frac{1}{\sqrt{V}} \sum_{\bm{k}} \delt...
... W(\bm{x}) = \frac{1}{\sqrt{V}} \sum_{\bm{k}} W_{\bm{k}} e^{i\bm{k}\cdot\bm{x}}$ (G.1.15)

を代入する.ただしここで$ V$ はフーリエ変換を行う体積で,サーベイ体積と は異なることに注意する.$ V$ $ V_{\rm S}$ を含んだより大きな体積である. すると, 

$\displaystyle F_{\bm{k}} = \frac{1}{\sqrt{V_{\rm S}}} \sum_{\bm{k}'} \delta^{\rm (g)}_{\bm{k}'} W_{\bm{k}-\bm{k}'}$ (G.1.16)

という形の和で表される.このような和の形を畳み込み(convolution)という. すなわち,有限体積で見積もられるフーリエ係数 $ F_{\bm{k}}$ は真のフーリ エ係数 $ \delta^{\rm (g)}_{\bm{k}}$ がウィンドウ関数 $ W_{\bm{k}}$ で畳み 込まれた(convolved)ものである.観測によって得られるパワースペクトルは この畳み込まれたフーリエ係数により計算される $ P_{\rm S}(k) = \langle\vert F_{\bm{k}}\vert^2\rangle$ である.ここで平均とし ては本来アンサンブル平均を取るべきであるが,サーベイ体積がひとつしかな い実際の観測でそれはできない.そこで実際的には,隣り合う波数ベクトルを ある程度の幅で平均するということを行う.この有限体積のパワースペクトル を式(7.1.16)から計算すれば,本来のパワースペクトルに より,

$\displaystyle P_{\rm S}(\bm{k}) = \frac{1}{V_{\rm S}} \sum_{\bm{k}'} P_{\rm g}(\vert\bm{k}'\vert) \left\vert W_{\bm{k}-\bm{k}'}\right\vert^2$ (G.1.17)

と,やはり畳み込みの形で表される.サーベイ体積が等方的でない場合には得 られるパワースペクトル $ P_{\rm S}(\bm{k})$ も等方的ではなくなり, 波数ベクトルの大きさだけでなく方向にも依存する.通常は方向についてさら に平均化する.

ウィンドウ関数のフーリエ係数 $ W_{\bm{k}}$ は式(7.1.15) の逆変換

$\displaystyle W_{\bm{k}} = \frac{1}{\sqrt{V}} \int d^3x W(\bm{x}) e^{-i\bm{k}\cdot\bm{x}}$ (G.1.18)

で与えられるから,波数$ \vert\bm{k}\vert$ がサーベイサイズの逆数に比べて十分大 きいときには振動積分が打ち消し合っ てゼロに近づき,逆に十分小さいときには一定値に近づく. すると,式(7.1.17)において $ \bm{k}-\bm{k}'$ の 絶対値が十分大きければ和には寄与しない.したがって, $ F_{\bm{k}}$ の波 数$ \bm{k}$ の絶対値が大きいときには $ \bm{k}\approx \bm{k}'$ のときのみ 和に寄与する.フーリエ展開におけるパーセバルの関係から,

$\displaystyle \sum_{\bm{k}} \left\vert W_{\bm{k}}\right\vert^2 = \int d^3x \left\vert W(\bm{x})\right\vert^2 = V_{\rm S}$ (G.1.19)

が導かれるので,このとき $ \vert W_{\bm{k}}\vert^2/V_{\rm S}$ は波数空間における デルタ関数的な役割をする.したがって,サーベイサイズよりも十分短い波長 について,式(7.1.17)は $ P_{\rm S}(\bm{k}) \approx
P_{\rm g}(k)$ となって,正しく見積もられる.

もし,サーベイの体積がでこぼこであったり,一部で小さな体積が抜けていた りと,サーベイ体積の形が空間的に複雑に変化している場合は,その変化のス ケールまでウィンドウ関数 $ W_{\bm{k}}$ がゼロに近づかない.この場合には畳 み込みの影響は比較的短いスケールにまでおよび得る.

7.6は2dFサーベイから求めたパワースペクトルである.

図 7.6: 2dF赤方偏移サーベイによる銀河分布から計算したパワースペクトル (Cole et al. 2005より転載).
\includegraphics[height=17pc]{figs/fig_PS.eps}
黒丸と誤差棒が観測値に対応する.図のパワースペクト ルは赤方偏移空間における銀河分布から直接求めたもので,赤方偏移変形は補 正されていない.また,もちろん畳み 込みの影響も含まれている.そこで,この観測値を理論と比較するに際しては, 理論値にこれら赤方偏移変形と畳み込みの効果を加える必要がある.ここでプ ロットされているスケールは線形領域に対応するので,これらの効果を理論的 に含めることはそれほど難しくない.そのように得られた理論曲線が実線で表さ れている.ここで理論のパラメータは観測値に合うようにフィットされていて, それらの値が図中に示してある.実線に対応するモデルの,畳み込みをする前 のパワースペクトルは破線で表されている. 図から見て取れるように,理論によって計算されるパワースペクトルの観測値 との一致は非常によい.相関関数の場合と同様,バリオン音響振動の効果も見て 取れる.パラメータのフィットを含んでいるとはいえ,このように理論と観測 が一致するパラメータを選べるということは我々の構造形成の理論的理解が基 本的に正しいことを意味している.

フィットされているパラメータのひとつ $ \sigma^{\rm gal}_8$ はパワースペク トルの全体の振幅を表すもので,伝統的によく使われているものである. この量は,8$ h^{-1}$ Mpcの半径の球のなかに含まれる銀河の数のゆらぎの空間 的な分散の平方根で定義される. 具体的にパワースペクトルとの関係を導くため,点$ \bm{x}$ を中心とする半 径8$ h^{-1}$ Mpcの球に含まれる銀河の数を $ N_8(\bm{x})$ とする.すると

$\displaystyle N_8(\bm{x}) = \int d^3x' W_8(\vert\bm{x}- \bm{x}'\vert) n(\bm{x}')$ (G.1.20)

とかける.ここで$ W_8(r)$ $ r\leq 8 h^{-1}{\rm Mpc}$ のとき1, $ r < 8
h^{-1}{\rm Mpc}$ のとき0となるような,この球のウィンドウ関数である. いま,球の体積を $ V_8 = 4\pi(8h^{-1}{\rm Mpc})^3/3$ とすると, $ N_8(\bm{x})$ の空間的な平均値は $ \bar{N}_8 = \bar{n}V_8$ である.これを用 いると銀河の数のゆらぎは

$\displaystyle \delta_8(\bm{x}) \equiv \frac{N_8(\bm{x}) - \bar{N}_8}{\bar{N}_8}...
...rac{1}{V_8} \int d^3x' W_8(\vert\bm{x}- \bm{x}'\vert) \delta^{\rm (g)}(\bm{x}')$ (G.1.21)

となる.ここでウィンドウ関数と数密度ゆらぎのフーリエ展開を代入してゆら ぎの分散を求めると,

$\displaystyle (\sigma^{\rm gal}_8)^2 \equiv \frac{1}{V} \int d^3x \left\langle ...
...rac{1}{{V_8}^2} \sum_{\bm{k}} \left\vert W_{8,\bm{k}}\right\vert^2 P_{\rm g}(k)$ (G.1.22)

が得られる.ここで $ W_{8,\bm{k}}$ は球のウィンドウ関数のフーリエ係数で あり,具体的に計算すると
$\displaystyle W_{8,\bm{k}}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{1}{\sqrt{V}}
\int d^3x W_8(\bm{x}) e^{-i\bm{k}\cdot\bm{x}}$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{4\pi}{\sqrt{V} k^3}
\left(\sin kR_8 - kR_8 \cos kR_8\right)$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{V_8}{\sqrt{V}} \frac{3j_1(kR_8)}{kR_8}$ (G.1.23)

となる.ここで $ R_8 = 8 h^{-1}{\rm Mpc}$ ,また $ j_1(x) = (\sin x - x\cos
x)/x^2$ は一次の球ベッセル関数である.したがって,式 (7.1.22)の分散は

$\displaystyle \left(\sigma_8^{\rm gal}\right)^2 = \frac{1}{V}\sum_{\bm{k}} \left[\frac{3j_1(kR_8)}{kR_8}\right]^2 P_{\rm g}(k)$ (G.1.24)

で与えられる.したがって,パワースペクトル $ P_{\rm g}(k)$ の全体的な振幅 はこの分散に比例するのである.パワースペクトルの振幅以外の形は初期ゆら ぎと遷移関数により決定される.

初期ゆらぎの振幅の値について現状で信頼に足る予言をする理論はない.そこ でこのパラメータ $ \sigma^{\rm gal}_8$ は観測から決めるべき全く自由なパラ メータとなっている.つまり,このパラメータには宇宙論的な情報は含まれて いない.パワースペクトルに含まれている宇宙論的な情報は,もっぱらその形 にある.パワースペクトルの形は初期ゆらぎと遷移関数により決まっている. このため,パワースペクトルの形の中には, 初期ゆらぎのべき指数$ n$ ,ハッブル定数$ h$ ,物質成分の密度パラメータ $ \Omega_{\rm m}$ ,バリオンの密度パラメータ $ \Omega_{\rm b}$ ,ニュートリ ノの平均質量$ m_\nu$ など,構造形成の物理過程に根ざしたさまざまな情報が 含まれているのである.つまり,パワースペクトルや相関関数の観測を用いると, これらの基本的なパラメータを決定することができるのである.

バイアス

ここまで銀河分布から相関関数やパワースペクトルを求め,密度ゆらぎに対す るそれらの統計量との比較を説明してきた.銀河の数密度と物質の密度が比例 する場合には両者のゆらぎは一致するので,この比較は直接可能である.だが, 一般にこの比例関係が成り立っている理由はない.ピーク統計のところで述べ たように,銀河が密度ゆらぎのピークに形成されるというバイアスモデルでは, 線形領域でのバイアスはパワースペクトルを単に定数倍するという効果しかな いことを見た.したがって,パワースペクトルの振幅のみ影響を受け,その形 には影響しない.すなわち,銀河と密度ゆらぎのパワースペクトルをそれぞれ $ P_{\rm g}(k)$ $ P_{\rm m}(k)$ として, $ P_{\rm g}(k) = b^2 P_{\rm
m}(k)$ が成り立ち,$ b$ は定数である.このようなバイアスの性質を線形バ イアスという.線形バイアスにおいては,フーリエ空間で見て,線形領域にあ る物質密度のゆらぎ $ \delta_{\bm{k}}$ と銀河数密度のゆらぎ $ \delta^{\rm
g}_{\bm{k}}$ の間に,

$\displaystyle \delta^{\rm g}_{\bm{k}} = b \delta_{\bm{k}}$ (G.1.25)

の関係がある.相関関数はパワースペクトルのフーリエ変換なので,やはり 線形領域で同じく定数倍されるのみである.すなわち,銀河と密度ゆらぎの相 関関数をそれぞれ $ \xi_{\rm g}(r)$ $ \xi_{\rm m}(r)$ として, $ \xi_{\rm
g}(r) = b^2 \xi(r)$ が成り立つ.

線形領域では,ピークモデルの場合に限らず,バイアスの詳細によらずにかな り一般的な条件のもとで,バイアスは線形バイアスになることが示される.線 形領域での構造形成は力学的にも取り扱いやすい上,不定性の大きな銀河形成 の詳細に立ち入ることなしにひとつのバイアスパラメータ$ b$ で取り扱えると いう利点もあるのである.

線形バイアスの場合でも,バイアスパラメータを理論的に決めることは難しい. ピークモデルにおいてはどのようなピークを選ぶかということに直接依存して いたことを思い出そう.一般にバイアスパラメータの値は銀河形成の詳細に依 存する.この問題は現代でもまだ不明の点が多い.将来的に銀河形成の理解が 進めばこのパラメータを理論から決めることもできるようになるかもしれない が,現在では,観測的に決めるべき不定パラメータとなっている.

線形領域でバイアスパラメータはパワースペクトルの振幅を定数倍するだけと いうことは,これはパラメータ $ \sigma^{\rm gal}_8$ と働きが同じである. 密度ゆらぎの振幅のパラメータ $ \sigma^{\rm m}_8$ を式 (7.1.24)と同様に密度ゆらぎのパワースペクトルによって 定義すると, $ \sigma^{\rm gal}_8 = b \sigma^{\rm m}_8$ が成り立つ.つま り,銀河の観測によって決められる振幅は密度ゆらぎの振幅とバイアスの積で 与えられ,この両者は区別できない.両者ともに理論的に決まらない パラメータであるから,銀河サーベイでは通常振幅は完全に自由に決められる. バイアスをゆらぎの初期振幅から区別するためには,赤方偏移変形の効果を利 用したり,またはパワースペクトルや相関関数以外の統計量を用いたりするこ とで可能であることが知られている.あるいは宇宙背景放射のゆらぎの観測を 使って物質のゆらぎの振幅 $ \sigma^{\rm m}_8$ を決めることができるので,この 場合にはバイアスパラメータを分離して決められる.

バイアスは銀河形成の条件から表れるため,銀河の種類によってバイアスパラ メータの値も異なりうる.例えば楕円銀河は銀河団の中心部に多く存在し, 渦巻銀河はそれよりも広がって存在することが知られている.つまり,楕円銀河の方 が渦巻銀河よりも強く群れ集まっていることになり,したがって相関関数やパ ワースペクトルは楕円銀河の方が大きくなるはずである.ここで,2dFサーベ イにおいて銀河を赤い銀河と青い銀河の2種類に分類し,それぞれのパワース ペクトルを示したのが図7.7である.

図 7.7: 2dF赤方偏移サーベイによる異なる種類の銀河によるバイアスの違い (Cole et al. 2005より転載).赤い銀河は黒丸,青い銀河は白丸に対応し,実 線は $ \Omega _{\rm m}h=0.168$ , $ \Omega _{\rm b}/\Omega _{\rm m} = 0.17$ を 仮定した線形モデルで,振幅は適当に合わせてあり,畳み込みの効果も含まれ ている.
\includegraphics[height=18pc]{figs/fig_bias.eps}
おおまかに赤い銀河は楕円銀河に対応し青い銀河は渦巻銀河に対応すると考え ることができる.すると図で赤い銀河の方がパワースペクトルの値が大きくなっ ていることが理解できる.また、広いスケールに渡って両方のパワースペクトルは形 が同じである.これは赤い銀河のバイアスパラメータ $ b_{\rm red}$ と青い銀 河のバイアスパラメータ $ b_{\rm blue}$ が異なり,それぞれ密度ゆらぎのパワー スペクトルの $ {b_{\rm red}}^2$ 倍と $ {b_{\rm blue}}^2$ 倍になっていること を示している.こうして線形領域では,用いる銀河の種類によらずに密度ゆら ぎのパワースペクトルの形を決めることができるのである.

一方で,非線形領域におけるバイアスは単純ではない.この領域ではどのよう な条件のもとに銀河ができるのかという銀河形成の詳細が深く絡み, まだ不明な点が多い.この領域ではバイアスはひと つのバイアスパラメータだけで特徴づけることができなくなる.例えば,銀河と密度ゆ らぎのパワースペクトルの比でバイアスパラメータを定義したとしても,非線 形領域ではスケールによってその比が変化する.すなわち,バイアスパラメー タが定数でなく,スケール依存するようになる.さらに銀河の数密度のゆらぎ と物質の密度ゆらぎとは単純な比例関係でとらえることはできなくなる.すな わち非線形バイアスとなる.さらにまた,線形バイアスでは銀河の数密度が物 質の数密度で決定的に決まっていたが,非線形領域ではこの性質も崩れる.こ れを現象論的に扱う確率的バイアスというものも考えられている.いずれにし ても非線形領域においてバイアスは複雑にふるまうのでその取り扱いには注意 が必要である.この問題は将来,銀河形成論の進展に伴って徐々に明らかになっ ていくものと考えられる.


next up previous contents index
次へ: . 上へ: 宇宙論と観測 前へ: 宇宙論と観測   目次   索引

All rights reserved © T.Matsubara 2004-2010
visitors, pageviews since 2007.5.11