現在の宇宙の大規模構造を調べるための直接的な方法は,銀河の空間的な分布 地図を用いることである.上で説明したように,銀河の分布は密度ゆらぎを反 映している.そこで銀河の空間分布地図を使ってその性質を調べることにより, 密度ゆらぎの情報を得ることができるのである.ここで銀河分布と密度ゆらぎ の関係においてバイアスという概念が重要になる.
銀河の大規模な空間分布を調べるためには、ひとつひとつの銀河の位置を測定 すればよい.多数の銀河の位置をひとつひとつ決めていく観測のことを銀河サー ベイという.地球から見て銀河の見える方向,すなわち天球面上での位置は容易 に測定することができる.天球面上の位置だけをカタログにしたものを撮像サー ベイという.図7.1は撮像サーベイによって得られた銀 河の天球面上での分布の例である.
だが,銀河の3次元的な空間分布を知るためには銀河までの距離 を測定する必要がある.銀河サーベイにおいて,銀河までの距離を推定するには,ハッブルの法則
銀河の赤方偏移は銀河からの光の強さを波長ごとに分解したスペクトルを取る ことで決定する.特定の原子や分子から出る光はある決まった波長を持ってお り,その波長はスペクトル中に輝線となって表れる.輝線の 波長は赤方偏移により本来の波長よりも長くなっている. 観測された輝線の波長と本来の波長の比から赤方偏移が決定される. ある輝線がどの原子, あるいは分子の輝線であるかは,複数の輝線の相互関係などによって定められ る.
銀河の天球面上の位置を測定するのに比べると,銀河のスペクトルを測定する のは容易ではない.天球面上の位置は空のある範囲を撮像することで複 数の銀河の位置を一度に決められるが,スペクトルは銀河ひとつひとつに分光 器を当てて測定する必要があるためである.さらにスペクトルを取るにはそれ なりに時間をかけて光を集めなければならない.このため多数の銀河の距離を 測定するには時間と労力がかかる.このため大規模な赤方偏移サーベイは通常, 何年もかかるプロジェクトになる.
1986年に発表されたCfA赤方偏移サーベイは銀河の数が約1100個であったが, 100Mpcにおよぶ大規模な構造を描き出した(図7.2).
このサーベイは天球面上のある細長い領域にある銀河の赤方偏移サーベイであ る.図の一番下に我々の銀河系があり,点のひとつひとつが各銀河に対応する. 扇型の半径方向は銀河の赤方偏移を表している.角度方向は天球面上での位置 を表す.天球面上での細長い領域のうち,長辺方向の位置が表されていて,短 辺方向への位置は問わずプロットされている.したがって,我々の銀河から見 て,半径方向へ薄くスライスした宇宙を見ていることになる.このようなプロッ トは赤方偏移サーベイによる銀河分布を図示するのによく使われ,コーン図と 呼ばれている.この図で半径方向の単位はkm/sで表されているが,これは赤方 偏移 を後退速度 で表したものである.近傍宇宙では,後退速度100km/s はちょうど1 Mpcに対応する.ここで は規格化されたハッブル定数である.図から,100Mpcのスケールに及ぶ構造が見て取れる.銀河がフィラメント状あ るいはウォール状に連なっていたり,また銀河がほとんどない大きなボイド領 域が存在する.当時,このような大規模な構造の存在は驚くべきことであった. 同時にこのような構造をつくり出すメカニズムを理解すべく,宇宙の構造形成 理論の研究は大きく進展したのである.
その後も,11,000個の銀河を調べたCfA2赤方偏移サーベイ,26,000個の銀河を 調べたラスカンパナス赤方偏移サーベイなどをはじめとして,いくつもの大規模な赤 方偏移サーベイが行われた.2003年に観測の終了した2dF赤方偏移サー ベイでは,25万個の銀河が調べられている.さらに2008年に観測終了予定の SDSS (Sloan Digital Sky Survey)は約100万個近い銀河の観測を目指している. SDSSは現在進行中であるが,すでに観測の済んでいる領域のSDSSのデータ だけでも現在のところ最大の銀河 赤方偏移サーベイカタログとなっている。図7.3はSDSS の描き出した銀河分布を表すコーン図である.
SDSSの観測領域は天球面の約1/4にもおよび,もはやCfAサーベイなどのように 細長い領域ではない.したがってコーン図では全体を表しきれないため,この 図ではサーベイの一部の銀河のみをプロットしてある.この図の半径は 600 Mpcにもおよび,CfAサーベイの約6倍の深さがある.2dFサーベイやSDSSサーベイでは,通常の銀河のサーベイばかりでなく, 赤方偏移が 付近の遠方にある明るく赤い銀河だけを選び出すサー ベイや,赤方偏移が 付近のさらに遠方にあるクェーサーを選び出す サーベイが同時に行われている.このように現在では,近傍宇宙のみならず, 遠方宇宙の赤方偏移サーベイも勢力的に行われるようになっている.だが,赤 方偏移サーベイによってこれまでに観測された領域は観測可能な宇宙のうちご く一部である.SDSSにより赤方偏移が の近傍宇宙の様子はだいぶ明 らかになってきたが,さらに遠方宇宙に関しては広大な領域がまだ未観測のま ま残っている.光の速度が有限であることから,遠方宇宙をサーベイすること は昔の宇宙を見ることでもある.したがって,遠方の宇宙のサーベイでは, 広い宇宙の姿を描き出すだけでなく,宇宙の歴史をたどることができるのであ る.赤方偏移サーベイによって宇宙の姿を描き出す手法は将来に渡って今後も さらに重要になるであろう.
ここで気を付けなければいけない注意点として,赤方偏移サーベイで得られる 銀河の距離は実際には多少本来の位置からずれるということがある.これは各 銀河が膨張宇宙に対して膨張運動とは別に固有の運動をしていることからくる. 例えば,本来同じ距離にある2つの銀河があったとして,一方は我々の方へ向 かう速度を持ち,もう一方は我々から遠ざかる速度を持っているとする.この 場合,ドップラー効果により相対的に2つの銀河の赤方偏移は異なって見える ことになる.その典型的な速度は約300km/s程度である(銀河団中などではもっ と大きくなる).これは距離に直すと3 Mpc程度に対応する. したがって赤方偏移サーベイで得られる銀河地図は本来の銀河分布に比べて 視線方向へこのような変形を受けたものになる.本来の実際の空間における銀 河分布を実空間の銀河分布,赤方偏移で測られる銀河分布を赤方偏移空間の銀 河分布という.また,実空間と赤方偏移空間の間の変形を赤方偏移変形と呼ぶ. 構造形成の解析を行う場合には,この赤方偏移変形の効果は理論的に補正され て解析される.
銀河サーベイにより銀河の3次元的な点分布が明らかにされるが,これを宇宙 の構造形成理論と比較するには統計的に行う必要がある. そこでまずは,銀河の空間分布が全体としてどういう性質を持っているのかを特 徴づける統計量を定義する必要がある.この目的のために用いられる簡単な方 法のひとつは,銀河が空間的にどのように群れ集まっているかを表す2点相関 関数、あるいは簡単に相関関数と呼ばれる統計量である.
2点相関関数の定義は次の通りである.まず,距離 だけ離れた2点 , のまわりにそれぞれ取った微小体積 , の両方に銀 河が含まれる確率 を考える.ここでい う確率とは,距離 を固定しながら,この2点を空 間のいろいろな場所に取ってみたときの起こりやすさを意味している.もし, 銀河がお互いに無関係に全くランダムに分布しているならば,宇宙全体の銀河 の平均数密度を として,この確率は で与 えられる. だが,実際の銀河の分布は銀河団のようにお互いに銀河が群れ集まったり,あ るいはボイドのように銀河がお互いに離れあったりと,全くランダムな分布は していないため,確率はこの値からずれる.そのずれを
より実際的に相関関数を計算するときには銀河のペアを数え上げるという方法 が取られる場合が多い.つまり,あるひとつの銀河に着目し,その銀河を中心 として距離が と の間にあるような他の銀河の数 を数える.これ をなるべく多数の銀河を中心にして繰り返し,その平均値 を計 算する.この数は点 に銀河があるときにそこからベクト ル だけ離れた微小体積 のなかに銀河がある条件付確 率 をベクトル について角度積分 したもので与えられる.この条件付確率は と のまわりにあ る微小体積に同時に銀河が存在する確率 を, に銀河が存在する確率 で割り算し た で与えられる.したがっ て,
現在までに得られているSDSS赤方偏移サーベイの銀河分布から計算した比較的 小スケールの2点相関関数を図7.4に示す.
この図では赤方偏移変形は理論的に補正されていて,実空間における銀河の2 点相関関数が計算されている.この図に表されている黒丸と誤差棒は観測値に 対応する.CfAサーベイの観測の頃から非線形領域の2点相関関数はべき則 でよくフィットすることが知られていた.ここでパラメー タ は相関関数の値が1になる距離を表していて,相関長と呼ばれる.また, パラメータ は相関関数が距離の関数としての変化を表すべき指数であ る.このパラメータの値が大きいほど相関関数は距離とともに速く減少する. SDSSサーベイの相関関数によってフィットしたべき則の相関関数は図中の直線 で示されており,そのパラメータの値は , とフィットされている.さらに図をよく 見てみるとわかる通り, 付近のスケールでべき則からず れていることもわかる.このようなべき則からのずれはSDSSサーベイのような 大規模な赤方偏移サーベイではじめて明らかになったものである.
上の相関関数はほとんど非線形領域から凖線形領域のものであったが,SDSSサー ベイにおいては明るい銀河のみを選び出す赤方偏移サーベイも行っており,こ れは通常の銀河のサーベイよりも広い体積を調べられる.そのサーベイに よって,より大スケールの線形領域の2点相関関数を示したのが図 7.5である.
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ここまで,点分布である銀河の分布から相関関数を求める方法を説明した.と ころが,我々が本当に知りたいのは銀河がトレースしている密度ゆらぎの性質 である.このため,相関関数は密度ゆらぎの場 とどのような 関係にあるのか考える必要がある.密度ゆらぎは連続的な場であるから,それ に対応して,銀河の数密度の場 という概念を導入する.この場は 点 のまわりの局所的な平均密度を表すものとする.すると,ある 点 のまわりの微小体積 中の銀河の数の平均 値 は,この体積中に銀河が存在する確率を与える.なぜなら, 銀河は同じ位置に2つ以上存在できないので,微小体積中の銀河の数は必 ず0か1になるからである.
この数密度場の概念を使って2点相関関数を表してみる.距離 だけ離れた 点 , のまわりの微小体積 , 中に同時 に銀河が含まれる確率は となる. これを2点間の距離 を固定してさまざまな場所で 平均したものは,式(7.1.2)により,2点相関関数で表され る:
相関関数は式(6.6.124)で定義したパワースペクトルと密接
な関係がある.実際,式(7.1.7)の相関関数に,式
(6.6.122)のフーリエ展開を代入してから式
(6.6.124)を用いると,
構造形成の線形理論においては密度ゆらぎの統計的性質とし て相関関数よりもパワースペクトルのほうが取り扱いやすい. したがって,理論的に予言されたパワー スペクトルをフーリエ変換することによって相関関数を導けば,直接観測と比 較することができる.ただし,非線形領域においてはパワースペクトルはもは や理論的に特に取り扱いやすいわけではなく,数値シミュレーションによって 直接相関関数を計算して観測と比較するということも行われる.
銀河分布から相関関数を求める代わりに,直接パワースペクトルを求めるとい うことも行われる.パワースペクトルは相関関数と違って実空間の統計量では ないので,その方法は一通りではない.ここでは最もオーソドックスな方法を 簡単化して説明する.
密度ゆらぎのパワースペクトルに関しては節6.6.2で説明 した.式(6.6.120)で与えられるゆらぎのフーリエ変換を考 えると,その逆変換は
ただし,ここで問題点がひとつある.それは,銀河サーベイの全体の体積が有 限であることである.理論的には全体の体積 は十分大きなものと考えてい る.したがって,式(7.1.11)のフーリエ係数 はその波数のスケールよりもずっと大きな体積 で積分しなければならない.だが,観測ではかならず有 限の体積でしか積分できないので,理論的に予言されるパワースペクトルと観 測で測定されるパワースペクトルに食い違いが生じるのである.特に,観測体 積が複雑な形をしている場合にその効果が著しい.
この食い違いがどのように生じるのかを式で考えてみる.まず,サーベイの体 積を表す次のような関数
この体積中で式(7.1.11)の積分を銀河の数密度に対して行 うと,サーベイの有限体積中のみから見積もられるフーリエ係数として,
ウィンドウ関数のフーリエ係数 は式(7.1.15) の逆変換
もし,サーベイの体積がでこぼこであったり,一部で小さな体積が抜けていた りと,サーベイ体積の形が空間的に複雑に変化している場合は,その変化のス ケールまでウィンドウ関数 がゼロに近づかない.この場合には畳 み込みの影響は比較的短いスケールにまでおよび得る.
図7.6は2dFサーベイから求めたパワースペクトルである.
黒丸と誤差棒が観測値に対応する.図のパワースペクト ルは赤方偏移空間における銀河分布から直接求めたもので,赤方偏移変形は補 正されていない.また,もちろん畳み 込みの影響も含まれている.そこで,この観測値を理論と比較するに際しては, 理論値にこれら赤方偏移変形と畳み込みの効果を加える必要がある.ここでプ ロットされているスケールは線形領域に対応するので,これらの効果を理論的 に含めることはそれほど難しくない.そのように得られた理論曲線が実線で表さ れている.ここで理論のパラメータは観測値に合うようにフィットされていて, それらの値が図中に示してある.実線に対応するモデルの,畳み込みをする前 のパワースペクトルは破線で表されている. 図から見て取れるように,理論によって計算されるパワースペクトルの観測値 との一致は非常によい.相関関数の場合と同様,バリオン音響振動の効果も見て 取れる.パラメータのフィットを含んでいるとはいえ,このように理論と観測 が一致するパラメータを選べるということは我々の構造形成の理論的理解が基 本的に正しいことを意味している.フィットされているパラメータのひとつ はパワースペク トルの全体の振幅を表すもので,伝統的によく使われているものである. この量は,8 Mpcの半径の球のなかに含まれる銀河の数のゆらぎの空間 的な分散の平方根で定義される. 具体的にパワースペクトルとの関係を導くため,点 を中心とする半 径8 Mpcの球に含まれる銀河の数を とする.すると
初期ゆらぎの振幅の値について現状で信頼に足る予言をする理論はない.そこ でこのパラメータ は観測から決めるべき全く自由なパラ メータとなっている.つまり,このパラメータには宇宙論的な情報は含まれて いない.パワースペクトルに含まれている宇宙論的な情報は,もっぱらその形 にある.パワースペクトルの形は初期ゆらぎと遷移関数により決まっている. このため,パワースペクトルの形の中には, 初期ゆらぎのべき指数 ,ハッブル定数 ,物質成分の密度パラメータ ,バリオンの密度パラメータ ,ニュートリ ノの平均質量 など,構造形成の物理過程に根ざしたさまざまな情報が 含まれているのである.つまり,パワースペクトルや相関関数の観測を用いると, これらの基本的なパラメータを決定することができるのである.
ここまで銀河分布から相関関数やパワースペクトルを求め,密度ゆらぎに対す るそれらの統計量との比較を説明してきた.銀河の数密度と物質の密度が比例 する場合には両者のゆらぎは一致するので,この比較は直接可能である.だが, 一般にこの比例関係が成り立っている理由はない.ピーク統計のところで述べ たように,銀河が密度ゆらぎのピークに形成されるというバイアスモデルでは, 線形領域でのバイアスはパワースペクトルを単に定数倍するという効果しかな いことを見た.したがって,パワースペクトルの振幅のみ影響を受け,その形 には影響しない.すなわち,銀河と密度ゆらぎのパワースペクトルをそれぞれ , として, が成り立ち, は定数である.このようなバイアスの性質を線形バ イアスという.線形バイアスにおいては,フーリエ空間で見て,線形領域にあ る物質密度のゆらぎ と銀河数密度のゆらぎ の間に,
線形領域では,ピークモデルの場合に限らず,バイアスの詳細によらずにかな り一般的な条件のもとで,バイアスは線形バイアスになることが示される.線 形領域での構造形成は力学的にも取り扱いやすい上,不定性の大きな銀河形成 の詳細に立ち入ることなしにひとつのバイアスパラメータ で取り扱えると いう利点もあるのである.
線形バイアスの場合でも,バイアスパラメータを理論的に決めることは難しい. ピークモデルにおいてはどのようなピークを選ぶかということに直接依存して いたことを思い出そう.一般にバイアスパラメータの値は銀河形成の詳細に依 存する.この問題は現代でもまだ不明の点が多い.将来的に銀河形成の理解が 進めばこのパラメータを理論から決めることもできるようになるかもしれない が,現在では,観測的に決めるべき不定パラメータとなっている.
線形領域でバイアスパラメータはパワースペクトルの振幅を定数倍するだけと いうことは,これはパラメータ と働きが同じである. 密度ゆらぎの振幅のパラメータ を式 (7.1.24)と同様に密度ゆらぎのパワースペクトルによって 定義すると, が成り立つ.つま り,銀河の観測によって決められる振幅は密度ゆらぎの振幅とバイアスの積で 与えられ,この両者は区別できない.両者ともに理論的に決まらない パラメータであるから,銀河サーベイでは通常振幅は完全に自由に決められる. バイアスをゆらぎの初期振幅から区別するためには,赤方偏移変形の効果を利 用したり,またはパワースペクトルや相関関数以外の統計量を用いたりするこ とで可能であることが知られている.あるいは宇宙背景放射のゆらぎの観測を 使って物質のゆらぎの振幅 を決めることができるので,この 場合にはバイアスパラメータを分離して決められる.
バイアスは銀河形成の条件から表れるため,銀河の種類によってバイアスパラ メータの値も異なりうる.例えば楕円銀河は銀河団の中心部に多く存在し, 渦巻銀河はそれよりも広がって存在することが知られている.つまり,楕円銀河の方 が渦巻銀河よりも強く群れ集まっていることになり,したがって相関関数やパ ワースペクトルは楕円銀河の方が大きくなるはずである.ここで,2dFサーベ イにおいて銀河を赤い銀河と青い銀河の2種類に分類し,それぞれのパワース ペクトルを示したのが図7.7である.
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一方で,非線形領域におけるバイアスは単純ではない.この領域ではどのよう な条件のもとに銀河ができるのかという銀河形成の詳細が深く絡み, まだ不明な点が多い.この領域ではバイアスはひと つのバイアスパラメータだけで特徴づけることができなくなる.例えば,銀河と密度ゆ らぎのパワースペクトルの比でバイアスパラメータを定義したとしても,非線 形領域ではスケールによってその比が変化する.すなわち,バイアスパラメー タが定数でなく,スケール依存するようになる.さらに銀河の数密度のゆらぎ と物質の密度ゆらぎとは単純な比例関係でとらえることはできなくなる.すな わち非線形バイアスとなる.さらにまた,線形バイアスでは銀河の数密度が物 質の数密度で決定的に決まっていたが,非線形領域ではこの性質も崩れる.こ れを現象論的に扱う確率的バイアスというものも考えられている.いずれにし ても非線形領域においてバイアスは複雑にふるまうのでその取り扱いには注意 が必要である.この問題は将来,銀河形成論の進展に伴って徐々に明らかになっ ていくものと考えられる.