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中性子 - 陽子比

弱い相互作用は中性子と陽子をお互いに入れ換えることができる.ニュートリ ノの脱結合のころには,弱い相互作用が効かなくなることによって,中性子と 陽子の数密度も固定されることになる.陽子$ p$ と中性子$ n$ は,初期には弱い 相互作用により,次の反応

$\displaystyle {\rm p} + {\rm e}^- \leftrightarrow {\rm n} + \nu_{\rm e},\quad {...
...{\rm e}^+,\quad {\rm p} + {\rm e}^- + \bar{\nu}_{\rm e} \leftrightarrow {\rm n}$    

によって平衡状態となっている.最後の反応は$ \beta$ 崩壊の反応である. $ \beta$ 崩壊の半減期は900秒程度であり,いま考えている時間スケールにくら べて十分長い.弱い相互作用の理論によれば,最初の二つの反応率はオーダー として,

$\displaystyle {\mit\Gamma}\sim \frac{{G_{\rm F}}^2 \left(1 + 3 {g_{\rm A}}^2\right) {k_{\rm B}}^5 T^5}{\hbar}$ (D.5.57)

で与えられる.ここで, $ g_{\rm A} =1.26$ は核子の擬ベクトル結合定数 (axial-vector coupling constant)と呼ばれるものである.すると,輻射 優勢期のハッブルパラメータと温度の関係式(4.2.31)から,

$\displaystyle \frac{{\mit\Gamma}}{H} \sim \left(\frac{T}{0.9 \times 10^{10} {\rm K}}\right)^3$ (D.5.58)

となる.すなわち,温度 $ T=0.9\times 10^{10} {\rm K}$ において陽子が中性 子へ転化する反応がなくなり,中性子数は増えなくなる.ただし,孤立した中 性子は$ \beta$ 崩壊によって,徐々に陽子へ転化することができる.

温度が $ T > 0.9 \times 10^{10} {\rm K}$ のときには反応が熱平衡であるか ら,中性子 - 陽子比は

$\displaystyle \frac{n_{\rm n}}{n_{\rm p}} = \exp\left[ - \frac{(m_{\rm n} - m_{...
...k_{\rm B} T} \right] = \exp\left( - \frac{1.5\times10^{10} {\rm K}}{T} \right)$ (D.5.59)

で表される.十分高温では当然この比は1であるが,反応が切れる $ 0.9\times
10^{10} {\rm K}$ までにこの比は1よりも小さくなっている.温度が $ T < 0.9
\times 10^{10} {\rm K}$ となると$ \beta$ 崩壊を別にすればこの比は凍結し ている.ここで,おおざっぱな見積もりとして,ちょうど $ T=0.9\times 10^{10} {\rm K}$ の時点で,熱平衡の場合の比が凍結するものと考えてみよ う.するとその値は

$\displaystyle \frac{n_{\rm n}}{n_{\rm p}} \sim e^{-1.5/0.9} \simeq \frac16$ (D.5.60)

となる.より正確な取り扱いをしても,この見積もりに近い値となる.時間が 経つと自由な中性子は$ \beta$ 崩壊によって徐々に陽子へ転化していくので, 次で見るように,中性子が陽子と結合して元素を合成し始める温度 $ 10^9\
{\rm K}$ までに,上の比は$ 1/7$ 程度に減少する.




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