next up previous contents index
次へ: トムソン散乱における偏光の取り扱い 上へ: 膨張宇宙における光子と電子の相互作用 前へ: 宇宙の熱平衡化   目次   索引

スニャーエフ・ゼルドビッチ効果

宇宙の晴れ上がり以後でも,その後の構造形成によって電子の温度が背景放射 よりも十分高い場所ができれば,そこでは逆コンプトン散乱によって背景放射 光子を熱することができる.この現象は実際に,リッチな銀河クラスター中で 実現されていて,そこでは銀河間ガスが高温なプラズマ状態となっている.こ のように銀河クラスターを通り抜けてきた背景放射光子は平均的なエネルギー が高くなっている.この効果をスニャーエフ・ゼルドビッチ効果 (Sunyaev-Zel'dovich effect)と呼ぶ.

クラスター中の電子の温度は背景放射の温度よりも十分高温となっているので, 式(9.3.101)の$ T_e$ を含む項以外を無視することができ,カンパニエー ツ方程式(9.3.105)は

$\displaystyle \frac{\partial f}{\partial y} = \frac{1}{x^2} \frac{\partial}{\partial x} \left( x^4 \frac{\partial f}{\partial x} \right)$ (I.3.127)

と近似される.ここで新たな $ \xi \equiv \ln x + 3y$ を定義し,独立変数の 組$ (x,y)$ $ (\xi,y)$ に変換すると,

$\displaystyle \frac{\partial f}{\partial y} = \frac{\partial^2 f}{\partial \xi^2}$ (I.3.128)

となるが,これはよく知られた拡散方程式の形である.一般解はグリーン関数 の方法にフーリエ変換を用いることによって求まり,

$\displaystyle f(\xi,y) = \frac{1}{\sqrt{4\pi y}} \int_{-\infty}^{\infty} ds e^{-(\xi - s)^2/4y} f(s,0)$ (I.3.129)

で与えられる.独立変数を$ (x,y)$ に戻して変数変換すると,

$\displaystyle f(x,y) = \frac{1}{\sqrt{\pi}} \int_{-\infty}^{\infty} ds e^{-s^2} f\left(e^{-2s\sqrt{y} + 3y} x, 0\right)$ (I.3.130)

となる.これが式(9.3.127)の一般解である.背景放射のスペクトルは 観測的には極めてプランク分布によく一致する.クラスターの外では電子の温 度と光子の温度は等しいから,銀河クラスターへと入って来る背景放射光子の 初期分布$ f(x,0)$ は温度$ T_{\rm e}$ のプランク分布

$\displaystyle f(x,0) = \frac{1}{e^x - 1} \equiv f_0(x)$ (I.3.131)

としてよい.この初期条件において式(9.3.130)を数値的に積分すれば クラスターを通り抜けてきた光子の分布関数が求まる.

式(9.3.130)をさらに変形することにより,

$\displaystyle f(x,y) = \frac{1}{\sqrt{\pi}y} \int_{-\infty}^{\infty} ds e^{-s^2/y} f\left(e^{-2s + 3y} x, 0\right)$ (I.3.132)

となる.ここで,コンプトン化パラメータ$ y$ が小さい$ y \ll 1$ のときはこの 表式に$ y \ll 1$ における最急降下法を適用し,近似式を評価することにより,

$\displaystyle f(x,y) \simeq f_0(x) + \frac{y}{x^2} \frac{\partial}{\partial x} \left( x^4 \frac{\partial f_0}{\partial x} \right)$ (I.3.133)

を得る.この式は式(9.3.127)からも直接理解できる.したがって,初 期分布の式(9.3.131)により,
$\displaystyle \frac{\Delta f(x,y)}{f_0}$ $\displaystyle \equiv$ $\displaystyle \frac{f(x,y) - f_0(x)}{f_0(x)} \simeq
\frac{y}{x^2 f_0} \frac{\pa...
...tial x}
\right) =
\frac{x y e^x}{1 - e^x} \left[\frac{x}{\tanh(x/2)} - 4\right]$ (I.3.134)
  $\displaystyle \rightarrow$ \begin{displaymath}\left\{
\begin{array}{ll}
-2y & (x \ll 1)\\
x^2 y & (x \gg 1)
\end{array}\right.\end{displaymath} (I.3.135)

となる.光子のエネルギーの小さなレイリー・ジーンズ領域では$ x\ll 1$ の近 似が成り立ち,このとき $ f\propto T$ となるから,

$\displaystyle \frac{\Delta T}{T} = -2y$ (I.3.136)

となる.これはエネルギーの低い光子が熱い銀河間ガスによってエネルギーの 高い状態へ叩き上げられ,長波長側の光子が減り,有効的な温度が下がってし まうことを表している.これはあくまで有効温度が下がるのであり,短波長側 では逆に輝度が増えて光子の平均エネルギーは上がっている.つまり黒体放射 スペクトルからずれるのである.


next up previous contents index
次へ: トムソン散乱における偏光の取り扱い 上へ: 膨張宇宙における光子と電子の相互作用 前へ: 宇宙の熱平衡化   目次   索引

Copyright©2004-2010Takahiko Matsubara, All rights reserved.
visitors, pageviews since 2007.5.11