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球対称モデル

ある点のまわりに質量が球対称に分布している場合を考え,その非線形成長を 考える.現実のゆらぎは必ずしも球対称ではないが,ゆらぎの非線形成長のお おまかなふるまいを調べる簡単なモデルとしては極めて有用である.また,こ の球対称モデルをもとに,さらに進んだ天体の構造形成モデルが考えられてい る.ここでは球対称な密度ゆらぎがあった場合のゆらぎの進化について述べる.

いま,物質に固定されたある球殻の半径の変化$ R(t)$ を追うことを考える.球 対称分布の場合,球殻にかかる力はその球殻の内部にある物質の質量$ M$ だけで 決まり,外部の分布には依存しない.球殻は物質に固定されているので$ R$ が変 化しても,内部に含まれる質量$ M$ は一定である.したがって,その運動方程式 は

$\displaystyle \frac{d^2\!R}{dt^2} = - \frac{GM}{R^2}$ (P.3.5)

となり,逆2乗則をもつ中心力場中の質点の1次元運動の方程式と同等である. 膨張宇宙に埋め込まれた球殻を考えると,その球殻は初期条件として外向きの 速度を持つ.このため,解のおおまかなふるまいは,球殻の全エネルギーの正 負によって次のようになる.すなわち,球殻の全エネルギーが負であるときに は,ポテンシャルエネルギーを振り切って運動することができない.運動エネ ルギーがゼロになった時点で膨張が止まり,その後収縮に転じる.そして最終 的には中心に戻って崩壊することになる.これは重力ポテンシャルに束縛され た,いわゆる束縛解である.一方,全エネルギーが正であればもはや運動エネ ルギーがゼロになることなく,減速しながら永遠に膨張しつづける.こちらは 重力ポテンシャルに束縛されていない,非束縛解である.

式(16.3.5)の解は初等的に求められる.まずこの方程式を一 回積分することで

$\displaystyle \left(\frac{dR}{dt}\right)^2 = \frac{2GM}{R} + 2E$ (P.3.6)

が得られる.ただし$ E$ は積分定数であり,$ E < 0$ は束縛解,$ E > 0$ は非束縛 解,にそれぞれ対応している.この式は初等的に積分でき,その解$ R(t)$ はパ ラメータ表示により
    \begin{displaymath}\left\{
\begin{array}{l}
R = A^2 (1 - \cos\theta) \\
\displa...
...qrt{GM}}(\theta - \sin\theta)
\end{array}\right.
\qquad (E < 0)\end{displaymath} (P.3.7)
    \begin{displaymath}\left\{
\begin{array}{l}
R = A^2 (\cosh\theta - 1) \\
\displ...
...rt{GM}}(\sinh\theta - \theta)
\end{array}\right.
\qquad (E > 0)\end{displaymath} (P.3.8)

となる.ここで$ A$ は積分定数である.この定数は球対称分布のどの球殻を選ぶ かという不定性に対応するので,とくにここで定める必要はない.

さて,宇宙のある点での密度ゆらぎ$ \delta$ はその点での密度$ \rho$ と宇宙全 体の平均密度 $ \bar{\rho}$ により $ \delta = \rho/\bar{\rho} - 1$ で与えられ た.いま球殻内の密度は $ \rho = M/(4\pi R^3/3)$ である.背景密度としては, 簡単のためアインシュタイン・ドジッター宇宙を考えると $ \bar{\rho}=
1/(6\pi G t^2)$ である.すると球殻内の密度ゆらぎに対応する量は

$\displaystyle \delta(t) = \frac{9GMt^2}{2 R^3} - 1 = \left\{ \begin{array}{ll} ...
...\sinh\theta - \theta)^2}{(\cosh\theta - 1)^3} - 1 & (E > 0) \end{array} \right.$ (P.3.9)

である.ここで最後の等式では式(16.3.7), (16.3.8)を代 入した.時刻$ t$ は式(16.3.7), (16.3.8)のそれぞれの 第2式によりパラメータ$ \theta$ と関係づけられている.

式(16.3.9)の非束縛解($ E > 0$ )は時刻とともに $ \delta = -1$ に際限 なく近づいていく.すなわちこれは初期の球殻内の密度が宇宙の平均密度より もわずかに小さい領域の進化に対応し,ボイド領域の形成とみなすことができ る.したがって,この場合は天体の形成には対応しない.一方,束縛解($ E < 0$ )は有限時間の間に密度が無限大になって崩壊する解である.だが,実際の宇 宙におけるゆらぎの崩壊においては,ここで無視している物質の粒子性や,圧 力あるいは速度分散によって密度が無限大になることはないと考えられる.そ のかわりに十分密度が高くなるとビリアル平衡に達して有限の半径を持つ広がっ た天体が形成されるであろう.そのような天体から熱が逃げて冷却すると、さ らに収縮して星や銀河などの天体になると考えられるのである.

束縛解において膨張がちょうど止まって収縮に転ずる転回点の時刻はパラメー タが $ \theta = \pi$ となる時点である.式(16.3.7)より,このときの 時刻と球殻の半径は

$\displaystyle t_{\rm turn} = \frac{\pi A^3}{\sqrt{GM}}, \qquad R_{\rm turn} = 2A^2$ (P.3.10)

である.また,この時点で密度ゆらぎは式(16.3.9)より,

$\displaystyle \delta_{\rm turn} = \frac{9\pi^2}{16} - 1 \simeq 4.55$ (P.3.11)

となる.

また,崩壊する時刻は $ \theta = 2\pi$ となる時点で,そのときの時刻と球殻の 半径は

$\displaystyle t_{\rm coll} = \frac{2\pi A^3}{\sqrt{GM}}, \qquad R_{\rm coll} = 0$ (P.3.12)

であり,ゆらぎは発散する.

ここで,この球対称なゆらぎは完全に半径ゼロまで崩壊せずに,最終的にビリ アル平衡に達し,半径 $ R_{\rm vir}$ の天体になると考えてみる.ここまでどの 半径の球殻を選ぶかは任意であったが,最終的にビリアル平衡に達した天体の 質量を含むような球殻をとってあるものとしよう.すなわちこの天体の質量 を$ M$ とする.ビリアル定理によると,この天体の運動エネルギー $ K_{\rm
vir}$ とポテンシャルエネルギー $ U_{\rm vir}$ の間には $ 2 K_{\rm vir} +
U_{\rm vir} = 0$ の関係が成り立つ.また,球殻の転回点の時刻 $ t_{\rm
turn}$ におけるポテンシャルエネルギーを $ U_{\rm turn}$ とする.この時刻 では運動エネルギーがゼロである.したがってエネルギー保存則によ り $ K_{\rm vir} + U_{\rm vir} = U_{\rm turn}$ が成り立つ.これら2式か ら $ K_{\rm
vir}$ を消去して, $ U_{\rm vir} = 2 U_{\rm turn}$ が導かれる.ポ テンシャルエネルギーは半径に反比例するから,結局 $ R_{\rm vir} = R_{\rm
turn}/2=A^2$ が得られる.すなわち最終的にビリアル平衡に達した天体の半 径は転回点の半径のちょうど$ 1/2$ である.

球殻の半径がちょうど $ R_{\rm vir}=A^2$ になるのは $ \theta = 3\pi/2$ の時点 である.ただし,球殻が $ R_{\rm vir}$ に達したときにすぐにビリアル平衡に達 するとは考えられない.少なくとも半径 $ R_{\rm vir}$ を粒子が自由落下して中 心部分に到達する程度の時間が必要である.したがって,何の抵抗も受けずに 球殻が中心まで落ちる時刻である $ t_{\rm coll}$ に平衡状態になったものと考 えてもよいであろう.このときの密度ゆらぎの値は

$\displaystyle \delta_{\rm vir} = \frac{M/(4\pi {R_{\rm vir}}^3/3)}{\bar{\rho}(t_{\rm coll})} - 1 = 18 \pi^2 - 1 \simeq 177$ (P.3.13)

で与えられる.すなわち,球対称モデルでは,重力崩壊してビリアル平衡になっ た領域の密度ゆらぎは形成時点で約177であることになる.

ここで線形理論との対応関係を導いておくと有用である.球対称モデルでは非 線形なゆらぎの成長まで追うことができたが,その初期の段階ではゆらぎが小 さいので線形理論と一致するはずである.式(16.3.9)により, ゆらぎ$ \delta$ と時刻$ t$ をパラメータ$ \theta$ で展開することにより

    $\displaystyle \delta = \frac{3}{20}\theta^2 + {\cal O}(\theta^4)$ (P.3.14)
    $\displaystyle t = \frac{A^3}{6\sqrt{GM}} \theta^3 + {\cal O}(\theta^5)$ (P.3.15)

となる.したがって,最低次の近似で $ \delta \propto t^{2/3}$ となって, 式(6.3.46)で与えられた,アインシュタイン・ドジッター宇宙における 線形理論の成長解に一致する.この最低次の項が線形理論のゆらぎを表してい るので,これを $ \delta_{\rm L}$ とおく.係数も含めて,具体的には

$\displaystyle \delta_{\rm L}(t) = \frac{3}{20} \left(\frac{6\sqrt{GM}}{A^3} t \right)^{2/3}$ (P.3.16)

である.ゆらぎが小さい $ \delta \ll 1$ のときは式(16.3.9)の球対称 解も式(16.3.16)の線形近似もほぼ同じであるが,非線形領域へと入る にしたがって両者はずれていく.

ここで,球対称ゆらぎ$ \delta$ も線形ゆらぎ $ \delta_{\rm L}$ も時間の単調増 加関数であることに注意すると,両者の間に対応関係が付けられることになる. この関係をいったん導いておけば,線形ゆらぎの値から実際の非線形ゆらぎの 値を推定することができるようになる.この関係は 式(16.3.16)に式(16.3.7)あるいは 式(16.3.8)の$ t$ を代入した式と,式(16.3.8)を使えばパラ メータ$ \theta$ を媒介変数として与えられる.特に転回点と崩壊点の時刻にお ける線形ゆらぎの値は

    $\displaystyle \delta_{\rm L}(t_{\rm turn}) =
\frac{3(6\pi)^{2/3}}{20} \simeq 1.06$ (P.3.17)
    $\displaystyle \delta_{\rm L}(t_{\rm coll}) =
\frac{3(12\pi)^{2/3}}{20} \simeq 1.69$ (P.3.18)

となる.

この対応は球対称ゆらぎのときにしか正しくないが,一般のゆらぎの成長に対 しても非線形天体の形成時期を線形理論から見積もるモデルとして活用されて いる.つまり,一般の初期条件によるゆらぎの成長に対しても,線形理論によっ て成長させたゆらぎが1.69になった時点を天体形成時期とみなすというモデル がよく使われる.このモデルは後で述べるプレス・シェヒター理論でも用いら れている.なお,ここではアインシュタイン・ドジッター宇宙を考えたが,一 般の宇宙モデルに拡張してもこの1.69という数字はあまり変わらない.


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