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ロバートソン・ウォーカー計量

空間の計量は一様等方空間の場合,時間に依存する定数倍を除いて式 (2.2.15)により決まってしまうので,ワイルの要請と宇宙原理を同時に満 たす計量は

$\displaystyle ds^2 = -c^2 dt^2 + a^2(t) \left[ \frac{dr^2}{1 - K r^2} + r^2 \left(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2\right) \right]$ (B.3.17)

となる.これをロバートソン・ウォーカー計量 (RW計量)と呼ぶ.この 計量は宇宙論において最も重要なものの一つである.空間のスケールを決める $ a(t)$ はスケール因子(scale factor)というもので,空間の膨張や収縮を表わ すことになる.また,曲率$ K$ は一般に時間変化をしてもよいが,その場合で も動径座標$ r$ の再定義をすれば結局スケール因子の時間変化にくりこまれる ので,一般性を失なわずに$ K$ は定数であるとしてよい.このときの定数とし て,現在時刻$ t=t_0$ の曲率を採用すれば,現在時刻でのスケール因子は $ a(t_0) = 1$ という規格化をもつことになる.以下ではこの規格化を用いるこ ととする.

上の形は球面の面積で定義される動径座標$ r$ によって表示されるものである が,動径座標の定義を変えることにより,他の形にも書き 表わすことができる.まず,次の変数変換

$\displaystyle \bar{r} = \frac{2r}{1 + \sqrt{1 - K r^2}}$ (B.3.18)

により,ロバートソン・ウォーカー計量は

$\displaystyle ds^2 = -c^2 dt^2 + \frac{a^2(t)}{\displaystyle\left(1 + \frac{K}{...
...t[ d\bar{r}^2 + \bar{r}^2 \left(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2\right) \right]$ (B.3.19)

という形となる.この形から,RW計量は共形変換 (conformal transformation) $ g_{\mu\nu}(x) \rightarrow
\Omega(x)g_{\mu\nu}(x)$ により平坦な空間の計量と同じ形となるという 性質を持っていることがわかる.

スケール因子が$ a=1$ のとき,実際の測地的距離$ x$ は動径座標$ r$

$\displaystyle dx = \frac{dr}{\sqrt{1 - K r^2}}$ (B.3.20)

の関係にあるので,これを積分して得られる関数を $ r = {S_K}(x)$ とすると

$\displaystyle {S_K}(x) = \left\{ \begin{array}{ll} \displaystyle \frac{{\rm sin...
...tyle \frac{\sin\left(\sqrt{K} x\right)}{\sqrt{K}} & (K > 0) \end{array} \right.$ (B.3.21)

である.上の規格化ではこれは現在の宇宙での測地的距離を表している.した がってRW計量は

$\displaystyle ds^2 = -c^2 dt^2 + a^2(t) \left[ dx^2 + {S_K}^2(x) \left(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2\right) \right]$ (B.3.22)

という形にも表わすことができる.物質素片に固定された点は,原点からの測 地的距離がスケール因子に比例して増えていく.この座標$ x$ $ a=1$ となると きの,実際の測地的距離である.これを共動距離(comoving distance)という.

さて,上で採用した $ a(t_0) = 1$ とは異なる規格化もまた広く使われることが あるので,ここでコメントしておく.曲率がゼロでないとき,座標$ r$ に曲率 $ K$ の値による再定義 $ r
\rightarrow \vert K\vert^{-1/2} r$ を行なえば,

$\displaystyle ds^2 = -c^2 dt^2 + R^2(t) \left[ \frac{dr^2}{1 - k r^2} + r^2 \left(d\theta^2 + \sin^2\theta d\phi^2\right) \right]$ (B.3.23)

となる.ここで,

$\displaystyle k = \left\{ \begin{array}{ll} -1 & (K < 0)  0 & (K = 0)  1 & ...
...l} \vert K\vert^{-1/2} a(t) & (K \neq 0)  a(t) & (K = 0) \end{array} \right.,$ (B.3.24)

である.曲率がゼロでない場合には$ r$ は無次元化していて,曲率は離散的な 値,$ 0,\pm 1$ のみをとる.さらにスケール因子$ R(t)$ は長さの次元を持つ. したがって単位系を再定義しない限り現在値を$ 1$ に規格化することができな い.それは $ R(t_0) = \vert K\vert^{-1/2}$ となり,曲率のスケールはスケール因子の 現在値を通して入ってくることになる.このような規格化を用いる場合には注 意すべき事項である.


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