宇宙は膨張しています。宇宙のなかにある物質は万有引力によってお互いに引 き合います。このため、宇宙の膨張はだんだんと遅くなっていくはずで、以前 の標準的な考え方ではそのように考えられてきました。ところが、最新の観測 によると、実は現在の宇宙の膨張は加速していることがわかってきました。 宇宙が加速するためには空間を反発させる力が必要です。万有引力は引き合う 力ですから、これは普通にはありえないですね。空間が反発するには何か私た ちの知らない機構があるはずです。
まだ宇宙の膨張や加速などが知られていなかったころのことですが、重力 の新しい理論を作ったアインシュタインは自分の発見した方程式を用いて宇宙 を記述するモデルを作りました。すると、宇宙は膨張しているか収縮している かのどちらかであるべきだということがわかりました。彼は宇宙は静止してい るはずであって、自分の方程式が間違っていると考えました。そこで「宇宙定 数」というものを自分の方程式に付け加えて修正し、静止する宇宙を作って見 せたのです.皮肉なことにその後、宇宙は実際に膨張していることが観測によっ て示されました。アインシュタインはそれを聞いて自分の加えた修正は間違い だったとして取り下げたのです。
この宇宙定数は宇宙が重力によって収縮しようとするのを止めるために付 け加えられたものですから、空間を反発させる力となります。したがって、最 新の観測で見つかってきた宇宙の加速膨張は、このアインシュタインの宇宙定 数を使うと説明できるのです。こうして一度取り下げられた宇宙定数が近年ま た脚光を浴びてきたのです。今度は宇宙を静止させるためではなく、加速させ るものとして。
ところが、この宇宙定数は方程式に手で付け加えたものですから、理論的 にはあまり気持ちのいいものではありません。この定数が表れる理由を考えて みるとかなり不自然な値をもっていることがわかりました。自然の定数として はあまりに値が小さすぎるのです。
その理由はいまだに明らかになっていません。現在、宇宙定数の値がこの ように不自然なものである理由がさまざまに研究されています。宇宙定数では なく、圧力がマイナスになるような通常とは異なる物質が宇宙を加速させてい るのではないかという考えもいろいろと出されています。そのような物質は全 く誰も見たことはありませんが、理論的には圧力がマイナスになる物質がもし あれば重力が反発力として働きます。
宇宙を加速させる原因が宇宙定数であるとしても、あるいは圧力がマイナ スの物質であるとしても、まだ私たちの知らないエネルギーが空間に一様に広 がっていることになります。この未知のエネルギーのことを「ダークエネルギー」 と呼びます。その正体はまだ全く明らかになっていないのです。まさに現代物 理学のミステリーというべきものです。