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カタカナ問題について

英語圏の国へ行くと誰でも思い知らされることに、日本式の英語の発音が 全く通じないということがある。特に、カタカナになっている英語を不用意に 発音すると、聞きかえされる経験を持っている人も多いだろう。最近は英語の 表記に忠実にカタカナにする傾向があるが、あまり意味が感じられない。例え ば「ダイアモンド」がある。これは、前はよく「ダイ『ヤ』モンド」と書いて いたものだ。多少、「ダイアモンド」の方が元の発音に近いのだろうが、結局 どっちにしても、このまま読んだのでは英米人には通じない。それなら日本人 に発音しやすい「ダイヤモンド」の方が自然で優れていると思うのだが、どう だろうか。我々はカタカナ語は日本語であるということをしっかり認識し、原 語の発音に擦り寄ったりせず、日本語として自然な発音で表記もしたほうがい いのではないだろうか。

例えば、ある車の評論家はイギリス車の「ジャガー」を「ジャグワ」ある いは「ジャギュア」と書くそうである。これは上の過ちに完全にはまった例と 言えよう。単に読みにくい、言いにくいだけである。また、他の言いにくい例 として、「シミュレーション」(simulation) というのがある。日本では多く の人が実際には「シュミレーション」と発音している。そして実際に文字でも シュミレーションと書く人がいるが、これを単なる間違いであると言うべきで はないだろう。書くときだけシミュレーションと書くのは不自然である。だい いち、「シ」も「シュ」も原音の "si" とは違う。どっちかというと「スムレー ション」の方が近いがこう書いてもなんのことやらわからないし、日本語の中 で原音の発音をしているわけでもない。日本語の中ではより言いやすいシュミ レーションを使い、言文一致の原則により、シュミレーションと書くべきであ ろう。

その意味では昔のカタカナ語を見直すべきであろう。今では駅は「ステー ション」というが、昔は「ステンショ」である。「ステンショ」と言ったほう が発音しやすいし、日本語にぴったりはまるであろう。テレビ朝日のニュース 番組は「ニュースステンショ」に名前を変えるべきである。パソコンよりすこ し上位のコンピュータは「ワークステンショ」であろう。宇宙に住む場所はも ちろん、「宇宙ステンショ」である。

同様にチェックはチッキ、ビーフステーキはビフテキ、タイムはタンマ、 ガールはギャルであり、バイリンガルはバイリンギャルである。帽子はシャッ ポであり、私の田舎の近所のおじさんはロープのことをロップという。ビッグ はビック、インディアンはインデヤンであり、カリフォルニアはカリホルニヤ、 ストライクアウトはストラックアウト、また、シャンソン歌手はシャンション 歌手である。ちょっと違うのもあるが。

ところで、話題は変わるが、最近、わ行の衰退が著しい。「ゐ」や「ゑ」 は完全に姿を消してしまった。ウヰスキーはウィスキーになり、ウヱーブは ウェーブに取ってかわられてしまった。ひらがなの世界で「を」はまだがんばっ ているが、これも話すときは「お」になってしまっている。カタカナ語の世界 ではすでに「ヲ」を見かけることは少ない。このわ行の衰退はサザエさん界に 大きな影響を及ぼし、「サザヱさん」のみならず、「カツヲ」や「タラヲ」を 始め、その被害は甚大である。これでは、「ワ」がこれからも存続するか怪し い状況であり、ワカメに被害が及ぶのも時間の問題である。そんなことはない だろう、と思う方もいらっしゃるかもしれないが、実際、数学者の「ガロワ」 は「ガロア」になってしまったので、注意が必要だ。ちびまる子ちゃんのハナ ワ君も、うかうかしてはいられず、「ハナア君」にならないように気を付ける べきだろう。ウルトラマンも、「シュアッチ」などと言っている場合ではなく、 正しいウルトラマン語の「シュワッチ」を見直し、ワカメちゃんやハナワ君と 手をとりあって共に「ワ」の保存に努めるべきであろう。

「ヰ」や「ヱ」は 英語の "wi", "we" を一文字で表せるという便利なもの なのだが、なぜ消えてしまったのだろうか? 今では「ウィ」とか「ウェ」と か二文字も使わねばならなくなってしまい、資源を無駄に使い、環境にやさし くないのである。そのようなものはまだあった。「ジ」と「ヂ」は今では同じ 発音であるが、以前は「ヂ」は「ディ」と発音するときに使われていたのであ り、便利だったのである。名古屋の駅前にある「大名古屋ビルヂング」は、は じめはダサい名前だと思ったものの、実は理にかなった極めて正しい名称だっ たことを認識するのである。

すると我々は、ダ行の衰退にも思い当たることになるのである。「ヂ」と 「ヅ」は壊滅的な状況である。もともと、タ行の「チ」や「ツ」は、ローマ字 で"ti", "tu" と書いてみるとわかるように本来「ティ」や「トゥ」と発音す るべきものがなまってしまったのである。それはそれでいいのだが、濁音になっ た「ヂ」(di) や「ヅ」(du) は、ザ行の「ジ」や「ズ」と同じ発音になってし まい、いわれのない差別を受けているのだ。「ヂ」と「ヅ」の生き延びる道は、 本来の発音である「ディ」と「ドゥ」に戻ることであろう。ビルヂングはもち ろん、自動車ヂーラー、コンパクトヂスク、ハンヂーカム、ヒンヅー教、ヅー イトユアセルフ、など、復権の場所は大きく広がっているであろう。

それでも、「ドゥ」は「ディ」に比べると使われる頻度はそれほど多いと はいえず、これだけでは「ヅ」の衰退を止められないかもしれない。「ヅ」の 衰退を防ぐにはさらに「ド」の領域まで攻めこむことが必要であろう。例えば、 ドイツ。もともとドイツ(Deutschland)「ド」は「ドゥ」に近い。これは「ヅ イツ」とできるだろう。同様に、ハンドは「ハンヅ」、バンドエイドは「バン ヅエイヅ」、インドはインヅ、など応用は広い。ドラえもんも例外ではない。 彼は「ヅラえもん」であり、彼の好物はもちろん、「ヅラやき」である。この 場合、間違っても「ヅ」を「ズ」と発音しないようにしたい。

なんとなくダサい、と思うのは慣れてないせいである。慣れれば自然にス テンショビルヂングの店にシャンションとヅラえもんのヂーブイヂーをチッキ しに行くこともできるようになるであろう。

2000年5月25日


Takahiko Matsubara
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