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ブレアの魔女

メリーランド州の中北部、ボルチモアから1時間少しの所にバーキッツビルと いう小さな町があるが、そこは以前ブレアという名前の町だった。

1785年2月、当時のブレアで、エリー・ケドワードという女性が、子供た ちを家に誘い込み、血を吸い取ったとして、7人の子供たちに訴えられた。町 の魔女裁判で彼女は有罪となり、とても厳しい冬の森の中へ置き去りにされ、 おそらく死んでしまった。一年後の冬、彼女を訴えた子供たち全員と、町の中 の子どもたちの半数が忽然と姿を消してしまった。町の人たちは呪いを恐れて、 ブレアの町を捨て去り、二度とエリー・ケドワードの名前を口にしないことを 誓った。それから38年後、もともとブレアの町のあった場所にバーキッツビル という町ができた。

1825年8月、バーキッツビルの近くで、10歳の女の子、アイリーン・トリー クルが青白い女の手につかまれてタッピーイースト小川の中へ引きずり込まれ たのを11人の人たちに目撃された。彼女の遺体は発見されず、その後13日間、 その小川は油っぽい小枝の束で詰まっていたという。1886年には8歳のロビン・ ウィーバーが行方不明となり、すぐに捜索隊がいくつか出された。この子ども は戻ったのだが、捜索隊のひとつが帰ってこなかった。一週間後、彼らの遺体 がコフィン岩という場所で見つかったが、ある人の手が違う人の足に縛られる というようにつながれて、完全に内臓を抜き出されていた。手や顔に奇妙な印 が彫られていたという。これを見つけた捜索隊が助けを呼びに町へ行き、また 戻ってきたときにはその遺体は姿を消していた。

1940年11月から1941年にかけての7ヶ月の間に、バーキッツビル付近で合 計7人の子どもが誘拐された。1941年5月、隠遁生活を送っていたラスティン・ パールという男が町に現れて、人々に「最終完了」をしたと言ってまわった。 警察がこの男のあとをつけ、隠遁していた森の中にある家を調査したところ、 行方不明になっていた7人の子供たちの遺体が地下室で見つかった。子供たち は儀式的に殺され、内臓が取り出されていた。この隠者はこの残虐行為を細部 に渡って認め、これは森の中に住む「老女幽霊」のために行った、と主張した。 彼はこの殺人事件の前、森の中で長く黒いフードのついたマントを着た女の姿 を見かけたが、呼んで追いかけると姿を消してしまったという。そして、ある とき老女の声が頭の中で聞こえるようになった。その声は彼に命令しはじめ、 気がつくとそれに従っていたという。最初は意味のないこと、例えば地下室で 一週間眠るというようなことだった。そしてあるときバーキッツビルへ行って 子どもを誘拐し殺せと命令されて、それに従い、結局7人の子どもを殺した。 ある夜、マント姿の何者かが彼の部屋に入ってきた。暗くてよく見えなかった が、それが誰かはわかっていた。聞きなれた老女の声で、もう終わったので、 次の日に町へ行って彼がやったことをみんなに言え、と言われた。そうすれば もう自分は彼の前に現れないと言い、その何者かは消え去ったという。ラスティ ンは結局逮捕され、絞首刑となった。

この魔女伝説に題材を取ったスリラー映画、「The Blair Witch Project」 がこの夏、アメリカで大人気となっている。「1994年10月21日、ヘザー・ドナ ヒュー、ジョシュア・レオナード、マイケル・ウィリアムスの3人は、『ブレ アの魔女』という伝説についてのドキュメンタリーフィルムを撮影するためブ ラックヒルズ森へ入っていったが、二度と戻ってこなかった。一年後、彼らの フィルムが発見された。」というスクリプトから始まるこの映画はその遺留品 のテープそのものである。超低予算で作られていて、恐い映像は全く出てこな い。にもかかわらず、というかそれだからこそ、この映画は心理的にかなり恐 い画期的な映画である。監督はとても貧乏で、自宅の水道が止められてしまう ほどだったが、家庭用ビデオと白黒の16mmフィルムで安価な制作が可能であっ た。結局この作品は評価を得て、億単位の契約に至っている。

1999年8月3日


Takahiko Matsubara
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