位相情報を用いた宇宙の構造解析 I: 解析的公式

松原隆彦（名大理）

構造解析の諸問題に対して、フーリエ解析は一般的に強力な方法である。宇宙
の構造解析においても、大規模構造、CMBゆらぎなどの構造を統計的に特徴づ
ける第一の方法としてフーリエ解析が用いられ、分布のパワースペクトルを用
いて構造の物理的解釈が行われる。よく知られているように、パワースペクト
ルは分布がランダムガウス場であるときにのみ完全な統計的情報を含んでいる。
パワースペクトルはフーリエ係数の振幅の2乗期待値であるため、位相に対す
る情報を含んでいない。ランダムガウス場の位相はランダムに分布することが
数学的に知られているが、非ガウス場には位相にもクラスタリングの情報が含
まれているはずである。ところが、どのような形で位相に情報が含まれている
のか、これまでのところ現象論的な数値解析の他には理解が全く進んでいなかっ
た。今回、解析的にどのような形でクラスタリングの情報がフーリエ位相に含
まれているのかを初めて明らかにし、非ガウス性の古典的指標である高次相関
関数との数学的関係を明らかにした。これによってフーリエ位相に含まれる統
計的情報を引き出すための具体的な方法が自然に導かれる。

宇宙論においては、宇宙の初期の密度ゆらぎがガウス的であったとしても、そ
の後の非線形成長によって引き起こされる構造の非線形性により、銀河分布や
(２次的効果としての）CMBゆらぎなど、観測量としての分布に非ガウス性をも
たらす。この非ガウス性は宇宙の力学的進化の情報を含んでいるため、その解
析は宇宙論において重要な課題である。だが非ガウス性を特徴づける方法は一
意的ではない。今回の結果は非ガウス性を解析するための、これまでにない全
く新しい方法を提供する。

本講演では主に新たに得られた解析的公式とその意味を説明し、続く日影氏の
講演では具体的に大規模構造の解析への応用を取り扱う。