「大規模構造における統合摂動論とバイアス効果」

松原隆彦

精密宇宙論の時代が本格的になってきた。最近ではPlanck衛星によるCMB観測に
よって、標準的な宇宙論モデルで驚くほどうまく宇宙を説明できることが示さ
れたが、ダークマターやダークエネルギーの正体がわからないなど、根源的な
謎は残されたままである。現在、大規模な銀河サーベイ観測などが精力的に行
われていて、今後は宇宙の3次元構造である大規模構造によって宇宙論を制限す
る研究が進んでいく。宇宙構造の解析には精密な理論が求められているが、そ
こには非線形構造形成や赤方偏移空間変形、バイアスなどの微妙な問題が存在
し、理論的に明らかにすべき重要な課題も多い。これらの問題にアプローチす
る一般的な手法として、「統合摂動論」という枠組みを最近提案して発展させ
ている。とくに、準非線形領域におけるバイアス効果の理論的な取扱いにはこ
れまで混乱が見られたが、統合摂動論により統一的な視点が与えられる。