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天文学と宇宙論

誰しもこの宇宙がなぜ存在するのか,またそもそも宇宙とはどのようなものな のかと疑問に思ったことがあるだろう.宇宙論 (Cosmology)はこの素朴な疑問を原動力として発展している 研究分野である.科学が発展する以前にはこのような疑問は宗教的,哲学的対 象であったため,宇宙に関しては推測に基づいたあいまいな描像しか得られて いなかった.現代においては物理学などをもとにした科学的研究対象となり, 科学技術の進歩に支えられて大きく発展している.

一方で,天文学(Astronomy) はもともと天体の運行などの現象を記述する現象論的なものであった.現代で はやはりさまざまな天体現象を物理学などをもとに記述する科学的研究対象と なっている.古くからの天文学に対して,物理学に基づいて天体現象を研究す る分野は天体物理学 (Astrophysics)とも呼ばれる.天文学の対象は星や太陽, 惑星から始まり,銀河系,銀河団,超銀河団,宇宙の大規模構造へとその対象 を広げてきた.これは科学技術の進歩によってより広い宇宙の姿を観測するこ とができるようになってきたためである.宇宙の大きな構造が明らかになるに つれ,その構造をもたらした宇宙全体の振る舞いを定量的に研究できるように なり,宇宙論の研究も発展してきた.現在でも宇宙の観測はさらに広がりつつ あり,大きな発見が相次いでいる.

宇宙論は,素粒子論や相対性理論などの基礎物理学の分野と有機的な結び付い て相互に発展するという面がある.現代宇宙論は時空を記述する基礎理論とし ての一般相対性理論,素粒子や原子の基本性質を記述する基礎理論としての素 粒子論や原子核理論にその基盤を置いている.これら基礎物理学の分野は比較 的古くから発展し,地球上で行える実験はほぼ理論的に説明可能な段階にまで 達してきている.宇宙論的な問題に対してこれらの基礎理論を適用し,観測さ れているような宇宙の振る舞いを説明できるかどうかを調べることで,我々の 得ている基礎理論が普遍的なものなのか,あるいは修正されてより基本的な理 論に取って代わられるべきなのかを判定する手段ともなり得るのである.相対 性理論の応用の場としての宇宙論は相対論的宇宙論(Relativistic cosmology)と呼ばれ,素粒子論の応用の場と しての宇宙論は素粒子論的宇宙論と呼ばれる.これらの分野は基礎理論を宇宙論に応用すると いう面に重点があるが,逆に宇宙論的な観測をもとにしてこれら基礎理論を検 証しようとする観測的宇宙論 (Observational cosmology)という分野があ る.これらの各分野はもちろん独立したものではなく,相互に密接に関 係して発展している.典型的な例として,宇宙のダークマター問題やダークエ ネルギー問題など,これまでの標準的な基礎理論では理解の困難な問題が観測 的宇宙論によって提起され,基礎物理学全般に大きな影響を及ぼしている.




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