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線形成長と非線形成長

宇宙の初期にはあらゆるスケールにおいてゆらぎが十分小さかったため,ゆら ぎの変数について2次以上の項を無視する線形理論によってゆらぎの進化を調べ ることができた.線形理論ではフーリエ変換によってゆらぎを各波数ごとに分 解することで,ゆらぎの発展方程式がそれぞれの波数ごとに独立な方程式系と なる.各波数のゆらぎの成長はそれぞれまったく独立に求めることができると いう大きな利点がある.こうしてゆらぎの線形成長を求めることは遷移関数を 求めることに帰着する.遷移関数の計算には多少複雑な数値積分を必要とする ものの,その評価において原理的な困難は存在しない.

一方,ゆらぎが大きくなってその値が$ 1$ に近くなるか$ 1$ を超えるようになる ともはや線形理論が正しくなくなる.この場合にはフーリエ変換によってゆら ぎを分解しても,異なる波数に属するゆらぎの成分がお互いに関係しあい,そ の一般的な成長を解析的に取り扱うことはできなくなってしまう.このため, 非線形領域におけるゆらぎの理解は線形領域に比べて難しいものとなる.現在 の宇宙においてほぼ$ 10$ Mpc以下のスケールは非線形領域にあり,これより小さ な天体や構造の形成は線形理論で取り扱うことはできない.星や銀河の形成は 完全な非線形領域で起こっている.銀河団も線形理論では取り扱えない.

これら非線形な構造は線形成長により徐々に大きくなってきたゆらぎが$ 1$ を越 えることによって非線形成長して形成される.ハリソン・ゼルドビッチスペク トルによる初期ゆらぎとコールドダークマターによって支配される標準的な構 造形成のシナリオのもとで,密度ゆらぎのパワースペクトルは 式(6.6.147)の形をしているので,式(6.6.136)で与えられる無次 元化されたパワースペクトルは単調増加関数となる.物質優勢期にパワースペ クトルは時間とともに一様に増加するので,波数$ k$ の大きい短波長側のゆらぎ から順に非線形領域に入っていく.つまり,小さな構造ほど早い時期に形成さ れる.このため,天体の形成は,星 $ \rightarrow$ 銀河 $ \rightarrow$ 銀河団, というように進んでいく.

このように天体の形成過程にはゆらぎの非線形成長が本質的な役割をしている. このため,天体の形成の理解には非線形成長を理解することが必要になる.こ の問題に対して一般的な解析解を求めることはできないため,なんらかの近似 を用いなければならない.以下では,いくつかの非線形領域に対する近似法を 述べる.




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