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事故の不思議な体験

以前、自分の車だけを壊してしまう事故にあったことがある。他人のものは何 も壊さず、誰も怪我をしなかったのは不幸中の幸いであった。その時の体験は、 すこし変わっている。

夕方車を運転していたところ、車内のジュースがこぼれた。それに気を取られ ていたところ、カーブにさしかかり、少々進路がずれてしまった。その道路の 脇には低い位置に岩が飛び出していてそれにぶつかってしまった。スピードは 遅くなかったため、その拍子に車がジャンプした。

私はその瞬間無重力状態を感じた。と同時に私は、ディラックのデルタ関数的 な撃力による上向きの加速度から推測される初期条件のもとで、古典論に基づ きニュートンの運動方程式を積分し、そのジャンプは1メートル以上のオーダー になるだろうと推測した。古典論を採用したのは、相対論的効果や量子論的効 果はこの危急の場合には問題を繁雑にする上、この場合よい近似で無視できる と考えられたからである。

また、その時体感された車体に対する回転モーメントテンソルから角運動量保 存則により推定すると、着地時には片側の前輪から着地することになるだろう との予測を得た。同時に、その運動エネルギーと回転エネルギーおよびポテン シャルエネルギーが、すべて前輪付近に対する変形エネルギーに変換された場 合のダメージをエネルギー保存則により推定したところ、車の損傷は避けられ ないと判断、車体よりも身体を守ることを優先させるべきだとの判断に達した のである。

着地後、エアバッグが指数関数的な時間発展により膨張していることを観測し、 そのデータをもとにエアバッグの最大体積を計算したところ、なんとか視界を 保つことができるという結論を得た。そして、視界が遮られないよう、視線を 上に向けた。その瞬間、フロントガラスのある点を中心に亀裂がフラクタル構 造をなしながら、べき指数が1より小さいべき関数的な成長スピードで発生す るのを観察したが、さしあたり重要度の低いと考えられたべき指数の値は求め なかった。フロントガラスの亀裂の間から、木が時速60kmで迫って来るのを観 測したため死ぬかと思ったが、変形後の前輪でもまだハンドルによるコントロー ルが多少は効くであろうと考え、ハンドルを約95度の角度にきり、激突をま ぬがれ幸い怪我ひとつなかったのである。

この間の時間は1秒以下であると思われるのだが、一生で最も頭の回転が早かっ たように思われる。


Takahiko Matsubara
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