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研究分野

松原隆彦, 2020年2月6日現在


私は、宇宙論の研究を行っている。宇宙論とは、この宇宙全体がどのようなものなのか、どのように始まり、どのようにして現在の宇宙の姿になってきたのか、将来はどうなるのか、などを研究する分野である。つまり、宇宙そのものの根源的な謎を科学的に明らかにしようとする。

宇宙論を科学的に研究するためには、現実の宇宙の詳細な観測事実をもとにして、理論構築をしていく必要がある。観測がなければ、宇宙論は机上の空論に陥りやすい。この観点から、私は観測事実を重視して宇宙論を研究してきた。

宇宙論研究のための観測としては、宇宙のできるだけ広い範囲を調べつくす手法、すなわち「サーベイ観測」と呼ばれる手法が重要となる。個々の天体を調べる伝統的な天文学の手法に比べて、格段に大規模なミッションとなる。だが、研究者だけでなく一般の人々の宇宙論への興味にも支えられて、近年では様々な種類のサーベイ観測が世界中で計画され、実行されている。

観測技術や装置の進展により、現在はサーベイ観測の全盛期とも言える時代である。私は、1990年代ごろからこうした時代の到来を予期して、大規模なサーベイ観測によって明らかになる宇宙論的な知見に注目し、理論的な研究を行ってきた。研究手法も多岐にわたる。紙と鉛筆による計算を主とする純粋に解析的な理論の構築から、中〜大規模計算機を用いたシミュレーションの数値解析、さらには実際の観測データを組み合わせた数値解析まで、幅広い手法を駆使して宇宙の謎に迫っている。

宇宙は非常に広い範囲で平均すると、極めて一様性が高く、あまり変化が見られない。一方、ある程度小さな範囲まで見ると、星や銀河の存在に代表されるように、非一様な状態になっている。宇宙の始まりに近いビッグバンの直後には、小さな範囲まで見たとしても、こうした非一様性は存在しなかったことが知られている。では、どのように非一様性が生まれ、そして、星や銀河ができたのか。その過程を「宇宙の構造形成」といい、重要な宇宙論的問題である。銀河や星ができて初めて私たち人間が存在できるので、宇宙の構造形成は私たちが生きている世界のすべての根源とも言える。

宇宙の構造形成の問題は、いわゆる非線形過程という、一般的に解くことが困難な問題に分類される。そこで、私は非常に大きな範囲で平均した宇宙が一様であることに着目し、スケールの大きな宇宙では非一様性が小さいことを利用した解析的手法の、「宇宙論的摂動論」を発展させることに力を注いだ。

この研究は、紙と鉛筆による計算を主な研究手段とするものである。最近では、コンピュータ代数と呼ばれる、代数計算をコンピュータによって行う手法も援用している。そして、宇宙の大規模な構造形成を摂動論により記述し、さらにその結果をサーベイ観測に応用することを目的にした理論的定式化を行った。その方法を「統合摂動論」と名付けた。この手法を述べた原論文は世界中の研究者に広く引用され、宇宙の大規模構造における様々な問題に応用されている。

また、宇宙の構造は、ダークマターとバリオンからなる物質に対する密度ゆらぎから生じる。密度ゆらぎの統計的性質によって宇宙構造を定量的に特徴づけることができる。密度ゆらぎの統計量を求めることは宇宙モデルを選別するのに欠かせない。密度ゆらぎは一般的な確率場の一種である。宇宙論への応用を念頭において、確率場の統計量に関する数学的性質に対する理論的研究も行っている。

この他にも、宇宙の構造形成の解析的研究を幅広く行ったが、ダークエネルギーを大規模構造から制限できるという可能性を世界に先駆けて指摘した研究はかなり有名となり、その論文は現在でも広く引用され続けている。また、その基本的な原理は、世界的な銀河サーベイの解析に応用されていて、日本のすばる望遠鏡を用いる将来計画にも取り入れられている。

解析的な理論構築とは相補的な研究手法として、コンピュータ・シミュレーションや観測データを用いた数値解析も行った。特に、史上最大の銀河探査観測プロジェクトであるスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)にも関わるなどした。こうして、現在の宇宙論では標準になっている「宇宙項入りコールドダークマターモデル」の確立に寄与した。

論文や著作などのリストについては宇宙論の研究論文等を参照してください。
Takahiko Matsubara
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