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研究テーマの見つけ方

研究テーマには自分が最も興味あるテーマを見つけるべきである。そして、 研究テーマとしては解決可能なものであることが重要である。特に学生は一定 期間の間に成果を出さなければならないので、解決の見通しの悪い大問題をテー マに選ぶのは適切ではない。また、あまり古い問題は、解決できる問題はすで に解決され、難しい問題しか残っていないことが多いので、現在進行形で進ん でいるテーマの方が研究しやすい。あまり流行を追うのもよくないが、誰も興 味を持っていない問題をテーマにしても、特に無名の学生の場合には無視され てしまうことが多い。そのためには、現在どのようなテーマが世界で進んでい るのかをよく知り、比較的多くの人が興味を持っている話題がなにかを見極め、 その上で自分が本当に興味を持て、寝食を忘れてでも研究したい、と思えるテー マを自分で探し出す必要がある。自分の興味が自分でもわからないまま指導教 官に研究テーマを与えてもらっても、結局興味がわかないどころか、テーマの 持つ意味を理解できずにルーチンワークに陥るケースが多い。マスターの学生 ではテーマを与えてもらう場合も多いだろうが、自分がどのようなところに興 味を持っているのか、あるいは持てそうなのかをよく考えてから指導教官に相 談する必要がある。そして、常に自分の行っている仕事がその研究分野の中で どのような意味を持つのかを自分自身でよく考え続けなければならない。ドク ターの学生では、アドバイスを受けながらでも、テーマ探しは自分で行う必要 がある。そしてそのテーマを自分自身の手で研究として結実させる能力を示す ことが学位取得の基準である。

以下には、宇宙論の学生を念頭において、研究テーマ探しのヒントを与え る。もちろん、決まった方法があるわけではないので、以下は最小限知ってお くべき事柄である。

学部程度の数学と物理の基本を身につけたら、まずは宇宙論の基本的な考 え方を定評ある教科書 などでしっかりと学ぶ。宇宙論の基本を深い理解をもって、着実に押さえ る必要がある。このことなしに量を読みこなすだけでは、単なる知識は増える かもしれないが、いつまで経っても研究を行うレベルに達することはできない。 計算を自分の手で再現しつつ読むことは最低限必要である。その上で計算の意 味をよく理解しなければならない。場合によっては1ページ読むのに丸一日、 あるいはそれ以上かかることもあるかもしれないが、かえってそういう経験こ そが研究を行う上での血肉となる。わからないことがあれば自分で文献を調べ、 さらに自分の頭でとことん考え,また友人と議論する.その上でどうしてもわ からなければ専門家や教官などに質問すればよい。だがここで、一回読んでわ からないからとすぐ専門家に質問しに行くのでは,研究に必要な思考能力を高 めることにはならないので、まずは十分調べたり考えたりする(調べればすむ ようなことを調べずに安易に質問するとうんざりされるだろう。逆によく考え て問題点がはっきりしていれば喜んで議論してくれるだろう。).研究とはす でにわかっていることを自分の知識として増やすことではない.誰にも知られ ていないことを新たに人類の知識として積み上げることである。ここで、何で も自分でとことん考えるという習慣は研究者にとっての必須の資質であるから、 十分トレーニングを積む必要がある。そういう習慣の中から研究のテーマが見 つけ出されるのである.

宇宙論の最新の進展は非常に速く、教科書に書かれている内容は必ずしも 最新ではない。そこで、教科書で基本を身につけたら、最新の進展をレビュー 論文などで補足するのがよいであろう.レビュー論文専門の雑誌として

Annual Review of Astronomy and Astrophysics (ARA&A) (Nonprofit Publisher of the 'Annual Review of'(TM) Series)
Physics Reports (Elsevier)
Reviews of Modern Physics (The American Physical Society)

などがあり、役立つ論文が多数掲載されている。

基本を押さえた上で、研究を行える最低のレベルに到達するためには日頃 から最新のオリジナル論文を読む必要がある。最新の研究は学術雑誌に掲載さ れる論文によって知ることができる。宇宙論関連のオリジナル論文は、

The Astrophysical Journal (ApJ),
The Astrophysical Journal Letters (ApJL),
The Astrophysical Journal Supplements (ApJS) [以上アメリカ天文学会刊行]
Physical Review D (PRD),
Physical Review Letters (PRL) [以上アメリカ物理学会刊行]
Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (MNRAS) [イギリス王立天文学会刊行]
Astronomy & Astrophysics (A& A) [ヨーロッパ物理学会刊行]
Journal of Cosmology and Astroparticle Physics (JCAP) [Institute of Physics]
Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ) [日本天文学会刊行]
Progress of Theoretical Physics (PTP) [基礎物理学研究所、日本物理学会共同刊行]
Nature (Nature Publishing Group)
Science (American Association for the Advancement of Science)

などの学術雑誌によく掲載される。さらに以下のサイトでこれら出版論文 の著者やタイトルの一部などから論文を検索できる:

ADS abstract service ( 日本ミラーサイト)

学術雑誌に掲載前、あるいは投稿中の論文の原稿をプレプリントとして配 る習慣が以前からあり、昔は郵送によってこれが行われていたが、現在ではプ レプリント配布専門のWEBサイト

http://arXiv.org/ (日本ミラーサイト:http://jp.arXiv.org/)

で行われている。最も最新の研究を知るためには、このプレプリントを読 む必要がある。研究を行う者にとって、このサイトで配布されるプレプリント を毎日チェックすることは常識となっている。このためには新しいプレプリン トのタイトルとアブストラクトを毎日電子メールで配信してくれるサービス

http://arxiv.org/help/subscribe (日本ミラーサイト: http://jp.arXiv.org/help/subscribe)

に登録する.学術雑誌には査読にパスした論文のみが掲載されるので、内 容のおかしな論文を読まされることは少ない(がゼロではない)。プレプリン トは誰でも投稿できるので、中にはナンセンスな論文も混ざっているが、とに かく最新である。いずれにしても、論文が意味のある内容のものかどうかは、 最終的に自分で判断しなければならないことに変わりはない。こうしてみると 大量の文献を読まなければならず、果たして可能なのかと思うかも知れない。 実際、毎日大量に流れてくるプレプリントをすべて読むことは不可能であり、 研究者はタイトルやアブストラクトから判断して自分にとって必要なものを選 んで読んでいる。どれが自分にとって必要なのかを見極めることは経験を積め ばできるようになる。はじめは興味のわいたタイトルの論文を読んでみるとい うことから始めればよい。名の通った人の論文を読むというのも一つの方法で ある。オリジナル論文は教科書などと違って一般的な事柄や式の導出などはあ まり丁寧に書かれてはいない。よく理解できないところがあれば引用文献をあ たり、さらにわからなければ理解できるところまで次々に文献をさかのぼって いく必要がある。

こうして最新の研究をチェックした上で、それらを土台にしながら世界中 の誰にもいまだ知られていない科学的知見や方法を発見、発明あるいは開発す ることが「研究をする」ということである。論文を読み、その上で疑問が湧い たら文献をあたり、また自分でとことんそれについて考える.それを繰り返し ているうち、まだ誰も答えを持っていないような問題があることに気が付くで あろう.そして,自分でその答えを見いだしてみたくなるであろう.それが, 自分の現在の能力で解決可能な問題であれば解決して答えを見いだす.自分に ない能力を必要とする場合は勉強して身につける。そうして得られた結果に学 問的意義があるならば論文にまとめて、研究が完了する.宇宙の成り立ちとい う魅力的なテーマに関してそれが成し遂げられたときの喜びは、たとえそれが 小さな進歩であったとしても、他に比することのできるものがない。世界に影 響力を持つ研究が成し遂げられればなおさらのことである。


Takahiko Matsubara
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