宇宙論的自己重力多体系における高次相関関数
- Authors:
- 松原 隆彦
- Journal:
- 日本物理学会誌 Vol.49, No.5, pp.373-376.
- Abstract:
- 近年の観測の進歩によりかつてないほど広範囲の銀河分布が明らかに
なってきた。通常、宇宙は大きなスケールでは一様・等方であると思われてい
る(宇宙原理)。だが、少なくとも観測されたスケール、〜100 Mpc〜
$10^{19}$km、では一様からは程遠く、豊かな構造を持っていることがわかっ
てきた$^{1,2)}$。広範囲の銀河分布は宇宙全体の歴史を反映しているため、
観測衛星COBEにより先年発見された宇宙の背景輻射のゆらぎ$^{3)}$と共に、
我々の宇宙の成立過程を大域的に知るための重要な情報源となっている。特に
宇宙の大規模構造は宇宙ができた時の情報を多く含んでおり、これからの観測
の進歩と共に新たなる重要な知見が明らかになってくると考えられる。
現在の宇宙の構造形成に対しては、宇宙初期に存在した小さなゆらぎが自己重
力により大きく増幅されて形成されたとする見方(重力不安定説)が有力であ
る。この理論はわれわれの興味あるスケールで非線形性が本質的であり、その
解析には数値計算が広く用いられている。大規模構造の観測と理論の比較には、
銀河分布の最低次の相関、2点相関、を用いてなされることが多い。これによ
り理論の正否はある程度判定できるが、より精密な比較にはより高次の相関を
用いることが必要である。高次相関を精度良く定めるには十分多量のサンプル
を必要とする。銀河分布の観測が次々と進みつつある現在、銀河の高次相関が
ますます明らかになりつつある。銀河の高次相関を調べることにより、2点相
関ではわからなかった初期条件等に対する制限が得られる。
我々はこの観点から、高次相関関数に対する理論の予測を数値解析により詳し
く調べた$^{4,5)}$。本稿ではまず、宇宙論的自己重力多体系において高次相
関関数がどのような振舞いをするのかについて観測的および理論的示唆を紹介
する。そして我々の得た数値解析の結果を紹介することにする。
Takahiko Matsubara
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