格子時空における3次元量子重力 (Master Thesis)

Authors:
松原 隆彦
Journal:
素粒子論研究 85 (1992), No.6, pp.136-235.
Abstract:
量子重力という困難な問題に対処するには、問題をなるべく扱いやす くしたモデルから研究するべきである。格子時空は、無限大の時空の 自由度を有限に減らし、時空の量子化を遂行できる可能性を持ってい る。本論文の前半において、格子時空の基本的な問題を考察した。3 次元において、 Reggeは連続時空のBianchi恒等式が格子時空において も成り立つことを示したが、本論文では、その議論を一般の次元へ拡 張した。また、格子重力の作用 (action)は、連続理論の Einstein-Hilbert作用から導けることが知られているが、作用の境界 項についても同様の計算ができることを示した。Hartleと Sorkinによ る似た計算があるが、本論文のものはそれより一般的である。

ところがそのような単純化によっても、重力場は簡単には量子化で きない。そういうときにはまず、時空の次元を減らしたモデルを研究 し、量子重力の本質を見抜くことが必要であろう。それが3次元量子 重力を考える意味である。

本論文の後半においては、3次元格子重力の量子化の問題を述べた。 この問題の興味深いところは、それが角運動量の理論に現われる 6j-symbolとの結びつきが存在するところにある。6j-symbol(正しく はq-変形された6j-symbol)の性質を巧みに用いることにより格子時空 上に位相不変量を構成できることが、最近TuraevとViroにより証明さ れたのだが、その量は重力場の量子論的分配関数と見なせるらしいこ とがわかっている。Turaev-Viroによる不変性の証明は、数学的に少々 込み入っている。その理由は、証明の手段としてAlexander移動という ものを用いたことにある。ところが最近、数値計算に関連して用いら れていた $(k,l)$ 移動というものが、Alexander移動と等価であるこ とが明らかになった。そこで、本論文において、$(k,l)$ 移動を用い てTuraev-Viro不変量の不変性の証明を行なった。その結果、証明は非 常にすっきりしたものになることがわかった。さらに不変性の本質は、 6j-symbolの2つの性質にあることがはっきりした。これは、時空の分 割によらない量を作るのに必要不可欠の性質であり、この性質をもつ ものさえあれば、4次元に対しても同様な量が作れることがわかった。


Takahiko Matsubara
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