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ザックス・ヴォルフェ効果

観測する質量なし粒子のエネルギーは天体などから放出されてから観測者に届 くまでに変化する.一様等方宇宙では,宇宙膨張による赤方偏移によって放出 されたときよりも小さくなる.さらに,宇宙の非一様性を考慮すると,ポテン シャルの空間的,時間的変化によってもエネルギー変化を受ける.質量なし粒 子が放出された時のエネルギーを$ E_{\rm e}$ , 観測者に届いたときのエネル ギーを$ E_{\rm0}$ とする.粒子が放出されたときのアフィンパラメータの値 を $ \lambda_{\rm e}$ , 粒子が観測されたときの値を $ \lambda_{\rm0}$ としよ う.物質の4元速度を$ u^\mu$ とすると,

$\displaystyle \frac{E_{\rm0}}{E_{\rm e}} = \frac{-P^\mu\left(\lambda_{\rm0}\rig...
...right)\right\vert _{\rm0}} {\left.\left(P^\mu u_\mu\right)\right\vert _{\rm e}}$ (M.2.18)

と表される.ここで,空間的速度を$ v^i$ とすると,線形摂動項を含む4元速度 は式(10.4.113)で与えられ,

$\displaystyle u_\mu = a\left(- 1 - A, v_i - B_i \right)$ (M.2.19)

である.したがって,線形摂動まででは,

$\displaystyle -P^\mu u_\mu = \frac{1}{a} + a \delta P^0 + \frac{1}{a}\left[A + n^i\left(v_i - B_i\right)\right]$ (M.2.20)

であるから,

$\displaystyle \frac{E_{\rm0}}{E_{\rm e}} = \frac{a(\tau_{\rm e})}{a(\tau_0)} \l...
...ert _{\rm e}^0 + \left. \left(A - n^i B_i\right) \right\vert _{\rm e}^0 \right]$ (M.2.21)

となる. ここで,スケール因子$ a(\tau)$ の引数であるコンフォーマル時間は摂動時空 において評価されているので,ゲージ依存している.このため例えば $ a(\tau_0)$ を規格化によって$ 1$ に置き換えてはならない.もし置き換えてし まうとゲージ依存した規格化をすることになってしまい,その後の結果もゲー ジ不変ではなくなってしまうからである.量 $ a^2 \delta P^0$ は式 (13.1.16)を積分することにより得ることができ,

$\displaystyle \left. a^2 \delta P^0 \right\vert _{\rm e}^0 = \left.\left(-2A + ...
...mbda_0} \left[ A' - n^i {B_i}' - n^i n^j {C_{ij}}' \right] \frac{d\lambda}{a^2}$ (M.2.22)

となる.右辺第二項の積分は摂動項のみであるから,積分経路が粒子の測地線 上であるという了解の下,線形近似の範囲で $ d\lambda/a^2 \rightarrow
d\tau$ と置き換えてよい.こうして結局

$\displaystyle \frac{E_{\rm0}}{E_{\rm e}} = \frac{a(\tau_{\rm e})}{a(\tau_0)} \l...
... e}}^{\tau_0} \left[ A' - n^i {B_i}' - n^i n^j {C_{ij}}' \right] d\tau \right\}$ (M.2.23)

となる.ここで,被積分関数は測地線上にあるために空間部分も$ \tau$ ととも に変化して,表面積分とはならないことに注意.非摂動項は,粒子が放出され た時のスケール因子に比例してエネルギーが減る効果を表す.これは以前導い た,宇宙膨張による赤方偏移の効果である.次の項は視線方向の速度によるドッ プラー効果によるエネルギーのずれである.ベクトル$ n^i$ は観測者の視線方向 を向いていて,観測者や粒子の放出源が共動座標に対してお互いに遠ざかるか 近づくかに応じてエネルギーの減少あるいは増加がおこる.次の項は,放出源 と観測者の場所での,ニュートンポテンシャルに対応する摂動$ A$ の値の差によっ て生じるエネルギー変化であり,重力的赤方偏移に対応する.この部分の寄与 は通常ザックス・ヴォルフェ効果(Sachs-Wolfe effect)と呼ばれるものである.また,最後の粒子の軌跡に沿った積分は,計 量の時間変化が粒子のエネルギーに変化を及ぼすことを示しており,これ は積分されたザックス・ヴォルフェ効果 (Integrated Sachs-Wolfe effect)と呼ばれる ものである.

このエネルギー変化の表式(13.2.23)をゲージ不変変数で書き表すこと を考えよう.まず,時間を指定したスケール因子はゲージ依存するので,ゲー ジ不変なスケール因子を作っておく.スケール因子のゲージ変換は

$\displaystyle a(\tau) \rightarrow a(\tilde{\tau}) = a(\tau) + a {\cal H} T$ (M.2.24)

であることから,次のゲージ不変なスケール因子を定義する:

$\displaystyle a^{\rm (GI)} \equiv a + a {\cal H} \left( B^{\rm (S)} + {C^{\rm (S)}}' \right)$ (M.2.25)

また, 摂動をテンソル型に分解して,式(13.1.13)を用いるこ とにより,
    $\displaystyle n^i B_i = -a^2 \frac{d B^{\rm (S)}}{d\lambda} +
{B^{\rm (S)}}' + n^i {B^{\rm (V)}}_i$ (M.2.26)
    $\displaystyle n^i n^j C_{ij} =
- a^2 \frac{d}{d\lambda}
\left(
n^i {C^{\rm (S)}}_{\vert i} + {C^{\rm (S)}}'
+ n^i {C^{\rm (V)}}_i
\right)$  
    $\displaystyle \qquad\qquad\qquad +\,
D + {C^{\rm (S)}}'' + n^i {{C^{\rm (V)}}_i}' +
n^i n^j {C^{\rm (T)}}_{ij}$ (M.2.27)

となる.これらを表式(13.2.23)に代入して,ゲージ不変量 (10.4.86), (10.4.93), (10.4.94)(10.4.135), (10.4.165)を用いて表すと,
    $\displaystyle \frac{E_0}{E_{\rm e}} =
\frac{a^{\rm (GI)}(\tau_{\rm e})}{a^{\rm...
... + \psi_i\right)
\right\vert _{\rm e}^0 -
\left. \Phi \right\vert _{\rm e}^0$  
    $\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad
+\,
\int_{\tau_{\rm e}}^{\tau_0}
\lef...
...\Psi' - n^i {\psi_i}' - n^i n^j {{C^{\rm (T)}}_{ij}}'
\right) d\tau
\Biggr\}$ (M.2.28)

となる.左辺は観測可能量であり,この表式ではゲージ不変であることが明ら かである.


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