次へ: ザックス・ヴォルフェ効果
上へ: 摂動宇宙における観測
前へ: 摂動宇宙における観測
目次
索引
質量なしの粒子の測地線方程式
十分遠い宇宙の観測には可視光,電波,X線,ガンマ線などの電磁波,つまり,
光子や,あるいはニュートリノなどの極めて微小な質量の粒子などを地球付近
で捕らえることによりなされる.質量の大きな粒子は天体などから地球付近へ
飛んで来る間にほかの天体などに重力的に捕まってしまうので,必然的に質量
の十分小さな粒子しか十分遠い宇宙の観測には適さない.これまでほとんどの
場合光子を用いて宇宙の観測がなされてきているが,ニュートリノを用いた観
測も行われるようになりつつある.さらには将来重力波も用いられるようにな
ると考えられる.
質量の十分小さな粒子は,他の粒子との相互作用がなければ,天体などを出発
した後,質量なしの粒子の測地線に沿って進んでくる.その進路は一様宇宙で
は地球からの動系方向に真っ直ぐ進み,その距離に応じて宇宙膨張による赤方
偏移を受けるだけであった.だが,実際の粒子は宇宙のゆらぎから生ずる重力
場によって余分な赤方偏移を受け,さらに曲がりながら進んで地球まで届くこ
とになる.
そこで,線形摂動論の範囲内で,非一様な宇宙の中を進んでくる質量なし粒子
の測地線を調べてみよう.第9章と同様に,摂動計量を
|
(M.1.1) |
とおく.ここで,
は一様等方3次元計量
(10.2.2)であり,
,
,
が計量の摂動である.以下,摂
動の一次のみ残し,線形摂動論の範囲内で考えることにする.また,
は
コンフォーマル時間である.ここで,質量なし粒子のアフィンパラメータ
をとして,その4元運動量を
としよう.
4元運動量はヌル的であるから,
|
(M.1.2) |
である.さらに,質量なし粒子の測地線方程式は,
|
(M.1.3) |
で与えられる.
さて,クリストッフェル記号は式(10.2.14)-(10.2.19)によって
与えられる.また,4元運動量を
|
(M.1.4) |
のように非摂動部分と線形摂動部分に分けておく.すると,まず非摂動計量に
ついて式(13.1.2)は
|
(M.1.5) |
となり,また,測地線方程式(13.1.2)の時間成分,空間成分はそれぞ
れ
|
|
|
(M.1.6) |
|
|
|
(M.1.7) |
となる.ここで,第9章と同様ダッシュはコンフォーマル時間につ
いての微分,また,
である.これらの方程式
(13.1.5), (13.1.6), (13.1.7)を満たす解
は,
|
(M.1.8) |
で与えられる.ただし
は定数,また,
は測地線の空間的な方向
を表す3次元ベクトルで,次の方程式
|
(M.1.9) |
の解である.すなわち,このベクトルは3次元空間の直線の接線を表す単位ベ
クトルである.これは空間座標のみの関数であり,
をみたす.以下 では,アフィンパラメータをスケールして
とおくことにする.この場合
はもはや4元運動量そのものではなく
それに比例するベクトルを表す.
つぎに,線形摂動を考える.すると,式(13.1.2)は
|
(M.1.10) |
となり,また,測地線方程式(13.1.3)の時間成分,空間成分はそれぞ
れ
となる.ここで,式(13.1.11)の導出には式(13.1.10)を用
いている.
さて,我々に観測される質量なし粒子の測地線は必ず我々のいる場所に到達し
なければならない.我々のいる場所を原点にとって,背景時空の空間座標とし
て,共動距離
を動系座標とする球座標表示
をとれ
ば,その計量は式(10.2.2)で与えられる.このとき,非摂動的な測地線
は原点から放射状にまっすぐ延びた線である.したがって,3次元ベクトル
は
で与えられる.以下,
はこのような動系方向,すなわち,視線方向をを向いた定ベクトルであ
るとする.このとき,このベクトルは非摂動時空における測地線に沿って一定
で,
である.ここで,
だか
ら,粒子の世界線に沿ったコンフォーマル時間
は,アフィンパラメータ
と非摂動レベルで
と関係している.また,
|
(M.1.13) |
が成り立つ.これにより,
|
(M.1.14) |
となる.さらに,式(13.1.9)と
より,
であるM1.すると,
|
(M.1.15) |
となる.
これらの事実を用いて,式(13.1.11)および(13.1.12)を変
形すると,
となる.これが観測者にむけて放出された質量なし粒子の,摂動計量を用いて
表した測地線方程式である.
Footnotes
- ...であるM1
- これはRW計量の空間
部分(10.2.2)の形と
によっても直接示せる.
次へ: ザックス・ヴォルフェ効果
上へ: 摂動宇宙における観測
前へ: 摂動宇宙における観測
目次
索引
All rights reserved © T.Matsubara 2004-2010
visitors, pageviews since 2007.5.11