次へ: 諸成分ゆらぎの進化 I: 超ホライズンスケール
上へ: 摂動の線形成長
前へ: 2成分系のゆらぎの成長
目次
索引
Subsections
宇宙の諸成分の間には一般に重力以外にも相互作用があるため,ゆらぎの成長
を正確に取り扱うにはこれらの相互作用を考慮に入れる必要がある.さらに、
流体として表すことが不適当なニュートリノなどの成分も存在する.これらの
ゆらぎの成長はボルツマン方程式により記述され,線形摂動に対しては式
(10.8.268)で与えられる.以下,宇宙の諸成分についてのゆらぎの成
長を記述する式を導く.以下簡単のために曲率は無視できるものとして
の場合を考え,摂動量は波数ベクトル
で平面波展開されたモードを
考える.
コールドダークマターは他の物質と重力以外の相互作用しない.また,定義に
よって圧力と自由運動の無視できる非相対論的粒子である.従って圧力のない
完全流体として記述できるので,特に簡単である.そのゲージ不変ゆらぎは,
スカラー成分について式(10.7.236), (10.7.237)により
|
|
 |
(L.4.113) |
|
|
 |
(L.4.114) |
に従う.ここで,添字
はコールドダークマター(cold dark matter)を表す.
次にゼロ質量,あるいは無視できるほど小さい質量のニュートリノを考える.
ニュートリノは重力以外には弱い相互作用しか受けず,早くから脱結合して実
質的に無衝突粒子となる.ゼロ質量の場合相対論的無衝突粒子となり,自由運
動が大きくなって流体近似は使えない.そこでボルツマン方程式によることに
なる.いま衝突項はないので,非摂動ボルツマン方程式(10.8.268)は,
 |
(L.4.115) |
である.ここで添字
は(ゼロ質量の)ニュートリノを表す.つまり,
は時間的に一定になり
のみの関数となる.式
(10.8.276)-(10.8.279)により,非摂動のエネルギー密度
と圧力
は
 |
(L.4.116) |
で与えられる.ボルツマン方程式の摂動部(10.8.291)はフーリエ空間に
おいて
![$\displaystyle {\delta f^{\rm (GI)}_\nu}' + i {\mbox{\boldmath$k$}}\cdot{\mbox{\...
..., {\mit\Phi}+ {\mit\Psi}' \right] q \frac{\partial \bar{f}_\nu}{\partial q} = 0$](img3917.png) |
(L.4.117) |
である.摂動量についての巨視的変数は,式(10.8.280)-(10.8.283)
により
|
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(L.4.118) |
|
|
 |
(L.4.119) |
|
|
![$\displaystyle {\mit\Pi}_\nu^{\rm (S)} =
- \frac{9}{2k^4}
\frac{c}{\bar{\rho...
...ot{\mbox{\boldmath$n$}}\right)^2 -
\frac13 k^2\right]
\delta f^{\rm (GI)}_\nu$](img3920.png) |
(L.4.120) |
で与えられる.これらの表式において右辺の
の動径方向の積分がすべて同
じ形をしていることに注目し,分配関数から次の積分を定義する:
 |
(L.4.121) |
するとボルツマン方程式(12.4.117)は
 |
(L.4.122) |
となる.ここで
は波数ベクトル
と運動量の方向ベクトル
の間の方向余弦である.この方程
式により,質量ゼロのニュートリノのゆらぎの発展が記述される.
この方程式はまだ引数が多いので,実際に数値積分などによって解を求めるの
には適していない.そこでこの方程式を常微分方程式に帰着させることを考え
よう.ここで,もし初期条件において分配関数が
にしか依存しない,す
なわち,分配関数の運動量の方向依存性が波数ベクトル
の方向に対
して軸対称であるならば,対称性からその軸対称性が保たれる.宇宙の等方性
によりそのような初期条件は自然なものであるから,これより
は
を通じてのみ分布関数に依存するものとする.そこで,式
(12.4.121)をさらにルジャンドル展開 する:
 |
(L.4.123) |
ここで
はルジャントル多項式で,最初の3つは
,
,
である.直交性
 |
(L.4.124) |
を使えば逆変換は
 |
(L.4.125) |
となるので,式(12.4.118)-(12.4.120)から,
 |
(L.4.126) |
と対応する.ただしここで,
はニュートリノの密度ゆらぎである.
ボルツマン方程式(12.4.122)に対してルジャンドル展開
(12.4.123)を代入し,ルジャンドル多項式の漸化式
 |
(L.4.127) |
を用いてから各多重極の次数
を比較することにより,
|
|
 |
(L.4.128) |
|
|
 |
(L.4.129) |
|
|
![$\displaystyle {F_{\nu l}}' -
\frac{k}{2l+1} \left[ l F_{\nu (l-1)} - (l+1)F_{\nu (l+1)}\right] = 0,
\qquad (l \geq 2)$](img3937.png) |
(L.4.130) |
という発展方程式を得る.この方程式系は各フーリエモードごとに時間に対す
る連立常微分方程式となっている.だが,
が無限まで続く階層をなしてい
て,このままでは方程式が閉じていない.通常この式を取り扱うには,十分大
きな
より大きな
の式を無視することにより有限の方程式系に
して解く.このとき,
の取り方に依らないほど大きく
を取ることにより十分正確な解が得られる.
質量を持っているニュートリノも無衝突ボルツマン方程式に従う.自由運動が
大きいダークマターはホットダークマター(hot dark matter)と呼ばれるが,
無視できない質量を持つニュートリノはその範疇に入る.そこで,ここではホッ
トダークマターを質量を持つニュートリノと同一視し,添字 `h' を使うこ
とにする.
非摂動ボルツマン方程式はゼロ質量の場合と同様,
 |
(L.4.131) |
に従い,やはり
は時間的に一定となる.エネルギー
密度と圧力は非摂動部について,
|
|
 |
(L.4.132) |
|
|
 |
(L.4.133) |
で与えられる.さらに摂動ボルツマン方程式(10.8.291)は
|
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(L.4.134) |
となる.ここで,質量ゼロの場合と同様に
である.また摂動量についての巨
視的変数は
|
|
 |
(L.4.135) |
|
|
 |
(L.4.136) |
|
|
 |
(L.4.137) |
|
|
 |
(L.4.138) |
となる.
質量ゼロの場合と異なり,上の巨視的変数の式は
積分が共通ではないので,
先に積分して簡単化することはできない.代わりに摂動分配関数と非摂動分配
関数の比をそのままルジャンドル展開する:
 |
(L.4.139) |
す
ると式(12.4.135)-(12.4.138)は
|
|
 |
(L.4.140) |
|
|
 |
(L.4.141) |
|
|
 |
(L.4.142) |
|
|
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(L.4.143) |
と表される.質量なしの場合と同様に計算すれば,ボルツマン方程式は展開係
数に対する次の方程式系となる:
|
|
 |
(L.4.144) |
|
|
 |
(L.4.145) |
|
|
![$\displaystyle {F_{{\rm h} l}}' -
\frac{kq}{(2l+1)\sqrt{q^2 + {m_\nu}^2 c^2 a...
...[ l F_{{\rm h} (l-1)} - (l+1) F_{{\rm h} (l+1)}\right] = 0,
\qquad (l\geq 2)$](img3956.png) |
(L.4.146) |
この方程式も無限の階層を持つ.固定された
について十分大きな
により途中で打ち切って時間発展を求める.そしてなるべく多くの
に
ついて計算を繰り返し,その結果の内挿などによって数値的に式
(12.4.140)-(12.4.143)を積分すれば,巨視的な摂動量が求
められる.
光子のボルツマン方程式は質量なしのニュートリノの場合と同様に取り扱える
が,おもに電子との間の相互作用があるため衝突項を入れる必要がある.また,
その相互作用は光子の偏極に依存するため,その自由度も考慮する必要がある.
偏光を含んだより正確な取り扱いは次の節で行うことにして、ここでははじめ
に,偏極を無視する簡単化した近似で考えてみる.光子の衝突項は局所座標で
式(9.3.80)に与えられる.その表式は実際に流れる固有時間あたりの
衝突確率を用いて導いたので,いま共形時間を用いた衝突項にするため
を
かける必要がある.こうして一般座標での単位共形時間による衝突項は,
|
|
![$\displaystyle C_\gamma \left[f({\mbox{\boldmath$p$}})\right] =
\frac{a}{2c}
\...
..._{p'}
(2\pi\hbar)^4 \delta^4(p + q - p' - q')
\left\vert{\cal M}\right\vert^2$](img3958.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad
\left\{
f({\mbox{\boldmath$p$}}') g({\...
...}) g({\mbox{\boldmath$q$}})\left[1 + f({\mbox{\boldmath$p$}}')\right]
\right\}$](img3959.png) |
(L.4.147) |
となる.ここで,
,
はそれぞれ光子および電子の分布関数であり、スピ
ンと偏極について平均されたものである.古典統計を仮定し,
,
と近似してある.また,分布関数は時空に依存している
が,いまその引数
は省略して書いている.運動量変数として
は節10.8で行ったように,式(10.8.254)で与えられるテトラー
ド上のものを用いる.すると積分測度は式(10.8.270) と同様に
 |
 |
 |
(L.4.148) |
 |
 |
 |
(L.4.149) |
 |
 |
 |
(L.4.150) |
で与えられる.ここで,
,
,
である.また,最初の2式の近似は電子の運動が非相対論的であるというトム
ソン散乱の近似
である.デルタ関数の部分は質量殻の
条件(10.8.257)と,同じくトムソン散乱の近似により,
となる.したがって,衝突項は
|
|
![$\displaystyle C_\gamma[f({\mbox{\boldmath$p$}})] =
\frac{3}{8\pi} \frac{\sigm...
...'}\right)^2\right]
\delta\left(p - p' + \frac{q^2 - q'^2}{2m_{\rm e}ca}\right)$](img3972.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\quad \times
\delta^3({\mbox{\boldmath$p$}} - {\mbox...
...}) g({\mbox{\boldmath$q$}})\left[1 + f({\mbox{\boldmath$p$}}')\right]
\right\}$](img3973.png) |
(L.4.152) |
となる.この式は本質的に式(9.3.85)と同じであり,違いは運動量の
規格化の違いにより現れるスケール因子,および分布関数が非等方な場合を含
んでいることである.ここで
の積分はデルタ関数によりただちに実
行できる.ここでトムソン散乱の近似では
,
であることを
用いて変形する.この近似の一次まで取ることにより,最初のデルタ関数の部
分は
 |
(L.4.153) |
となる.ここでデルタ関数の展開は部分積分をするときにのみ意味のある操作
であることに注意しておく.最後の分布関数の部分は
|
|
![$\displaystyle f({\mbox{\boldmath$p$}}') g({\mbox{\boldmath$q$}} + {\mbox{\boldm...
...ldmath$p$}}) g({\mbox{\boldmath$q$}})\left[1 + f({\mbox{\boldmath$p$}}')\right]$](img3977.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad
\simeq g({\mbox{\boldmath$q$}})\left[f({\mbox{\boldmath$p...
...ath$q$}}}
f({\mbox{\boldmath$p$}}')\left[1 + f({\mbox{\boldmath$p$}})\right]$](img3978.png) |
(L.4.154) |
となる.したがって,トムソン散乱の一次までの近似で,
|
|
![$\displaystyle C_\gamma[f({\mbox{\boldmath$p$}})] =
\frac{3}{8\pi} \frac{\sigm...
...t(\frac{{\mbox{\boldmath$p$}}\cdot{\mbox{\boldmath$p$}}'}{p p'}\right)^2\right]$](img3979.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\quad \times
\left[
\delta(p-p') - \frac{{\mbox{\bo...
...th$q$}})
\left[
f({\mbox{\boldmath$p$}}') - f({\mbox{\boldmath$p$}})
\right]$](img3980.png) |
(L.4.155) |
となる.ここで式(12.4.153)の右辺第2項の1次の項への寄与は
積分の表面積分になって消え,2次の項への寄与はいま無視してい
るので,ここには残らない.
ここで,
積分を実行することができる.この変数は式
(10.8.254)のテトラード上で定義される変数であるから,もとの変数
で表し直すことにより,式(10.8.255), (10.8.256)およ
び(10.8.260)を用いて摂動の最低次において次のようになる:
ただし,
 |
(L.4.158) |
は電子の数密度,
 |
(L.4.159) |
はバリオンの速度場である.電子はバリオンとクーロン相互作用により強く結合
して速度場が共通であると仮定し,この速度場は電子の速度場と同一であると
考える.
分布関数の摂動展開を
 |
(L.4.160) |
とする.ここで,
である.
この表式では時空の依存性をあらわに表しているが,以下では再び省
略する.式(12.4.155)を計算することにより,
|
|
![$\displaystyle C_\gamma[f({\mbox{\boldmath$p$}})] =
\frac{3}{16\pi} \frac{n_e \...
...ega}_{n'} \left[1 + ({\mbox{\boldmath$n$}}\cdot{\mbox{\boldmath$n$}}')^2\right]$](img3988.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad\qquad \times
\left[
\delta f(p,{\mbo...
...{v_{\rm b}}^i - B^i \right) n_i
p \frac{\partial \bar{f}}{\partial p}
\right]$](img3989.png) |
(L.4.161) |
となる.
ここからわかるようにこの衝突項は線形摂動であり,非摂動項は含まれていな
い.したがって
 |
(L.4.162) |
であり,非摂動ボルツマン方程式(10.8.267)は
 |
(L.4.163) |
となる.すなわち,光子の非摂動分布関数は時間的に一定となる.衝突項の非
摂動項が消えることから,式(10.8.292)のゲージ不変な衝突項
はそのまま式(12.4.161)のスカラー成分に等しくなる.
式(10.8.290)のゲージ不変な分布関数はいま光子の場合,
|
|
 |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad -\;
\left[{\cal H} \left(B^{\rm (S)} + ...
...(S)} + {C^{\rm (S)}}'\right)_{,i}\right]
p \frac{\partial \bar{f}}{\partial p}$](img3994.png) |
(L.4.164) |
であり,ゲージ不変なバリオンの速度場は式(10.7.235)により,
 |
(L.4.165) |
であるから,ゲージ不変な衝突項は
と表され,確かにゲージ不変量だけで表されている.この衝突項によりゲージ
不変なボルツマン方程式(10.8.291)は
となる.ここで,
は空間微分を表す.
ここで,次の輝度関数(Brightness function)
 |
(L.4.166) |
を定義する.この関数は温度ゆらぎに対応する量である.というのは,平衡状
態の分布関数
 |
(L.4.167) |
(
は
,
に依らない因子)の場合,
 |
(L.4.168) |
となるが,これを式(12.4.168)に代入すると
となるからである.この輝度関数のゲージ不変量を
で定義する.
ボルツマン方程式(12.4.167)を積分すると,この輝度関数の方程式と
して,
|
|
 |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad =
\frac{3}{16\pi} a n_e \sigma_{\rm T}
\int d{\mit\Omega...
... - {\mit\Theta}({\mbox{\boldmath$n$}}) +
n^i v^{\rm (GI)}_{{\rm b},i}
\right]$](img4009.png) |
(L.4.170) |
を得る.右辺を評価するため,積分されている輝度関数を球面調和関数
で展開する:
 |
(L.4.171) |
また,ルジャンドル多項式
,
を用いると,
 |
(L.4.172) |
とかけるが,ルジャンドル多項式は球面調和関数の和則
 |
(L.4.173) |
によってさらに展開できる.これらの式を式(12.4.172)に入れてさら
に球面調和関数の直交関係
 |
(L.4.174) |
を用いて計算することにより,
となる.ただし,フーリエ空間へ移り,
,
に省略
されている空間依存性は
依存性へと変更した.また,
である.また
であ
る.この式が光子のゆらぎの発展方程式となる.
ニュートリノの場合にも考えたように,
の
依存性は
を通じてのみ入っていると考えることができる.そこで次のルジャンドル展開
 |
(L.4.175) |
を考える.このとき多重極展開の係数
は式
(12.4.175), (12.4.176)を用いて
 |
(L.4.176) |
となる.ただし
である.さらにまた式
(12.4.175)を使えば,
 |
(L.4.177) |
となるので,式(12.4.177)は
![$\displaystyle {\mit\Theta}' + i k \mu {\mit\Theta}+ i k \mu {\mit\Phi}+ {\mit\P...
...\Theta}+ i k \mu v^{\rm (GI)}_{\rm b} - \frac12 P_2(\mu) {\mit\Theta}_2 \right]$](img4025.png) |
(L.4.178) |
となる.この式は質量なしのニュートリノの式(12.4.122)に対応するも
ので,いま衝突項が付いていて,変数の定義が
だけ異なっている.あと
は同様にルジャンドル展開係数の発展方程式を導くことができる.式
(12.4.126)に対応して低次の係数は
 |
(L.4.179) |
と巨視的変数で表される.さらに多重極の係数の満たす方程式は
|
|
 |
(L.4.180) |
|
|
 |
(L.4.181) |
|
|
 |
(L.4.182) |
|
|
![$\displaystyle {{\mit\Theta}_l}' -
\frac{k}{2l+1} \left[ l {\mit\Theta}_{l-1...
...heta}_{l+1}\right] =
- a n_e \sigma_{\rm T} {\mit\Theta}_l,
\qquad (l \geq 3)$](img4031.png) |
(L.4.183) |
となる.この式から光子ゆらぎの時間発展を数値的に追うことができる.
トムソン散乱は偏極を生むので,偏極の自由度を考慮すると光子のゆらぎの発
展方程式上で導いた式から補正される.このことは式
(9.4.191)-(9.4.193)で表されたストークス・パラメータ
のトムソン散乱に
よる時間変化を見るとわかる.すなわち,光の強度を表す
の変化は直線偏
光を表す
の値に依存し,両者の時間発展はお互いに影響を及ぼし合う
形となっている.
いま,放射場の空間的な平均エネルギー密度を
とする.
非摂動宇宙では光子の平均的な偏光はないから,ストークス・パラメータは
,
となる.そこで,
ストークス・パラメータのゆらぎ成分として
|
|
![$\displaystyle I({\mit\Omega}) = \frac{c\bar{\rho}_\gamma}{4\pi}
\left[1 + 4{\mit\Theta}_I({\mit\Omega})\right]$](img4035.png) |
(L.4.184) |
|
|
 |
(L.4.185) |
|
|
 |
(L.4.186) |
により,ストークスパラメータの摂動
,
,
を導入する.そして以下これらのパラメータは線形項まで残す.
ここで導入された
は式(12.4.168)で定義された輝度関数と
同じものである.これを見るためには,放射場のエネルギー密度は式
(10.8.272) により偏極の自由度を考慮して,
 |
(L.4.187) |
となることに注意する.この運動量積分への単位立体角あたりの寄与が強度
(を
で割ったもの)になることから,式(12.4.168)で定義される
により
 |
(L.4.188) |
となって,式(12.4.187)と一致する.
ストークス・パラメータの変化率の式(9.4.191)-(9.4.193)
により,これらゆらぎのパラメータの変化率は電子の静止系における局所座標
において
|
|
![$\displaystyle \left.
\frac{d{\mit\Theta}_I}{d\tau}
\right\vert _{\rm Th} =
...
...} + {\mit\Theta}^{-(m)}_{Q 2}
\right)
\right]
Y_2^m({\mit\Omega})
\right\}$](img4043.png) |
|
|
|
|
(L.4.189) |
|
|
![$\displaystyle \left.
\frac{d{\mit\Theta}^\pm_Q}{d\tau}
\right\vert _{\rm Th} ...
...-(m)}_{Q 2}
\right)
\right]
{{ }_{\pm 2}Y_{2}^{m}}({\mit\Omega})
\right\}$](img4044.png) |
(L.4.190) |
|
|
 |
(L.4.191) |
ただし単位共形時間あたりの変化率に直し,摂動ストークス・パラメータの展
開
|
|
 |
(L.4.192) |
|
|
 |
(L.4.193) |
|
|
 |
(L.4.194) |
を用いた.
上の表式は電子の静止系におけるものであるから,一般の時空座標系へ戻して
やる必要がある.その変換は摂動の1次であるから,もともと非摂動部を持た
ないストークス・パラメータ
は摂動の1次ではその変換によって変化
することはない.一方,ストークス・パラメータ
は非摂動部を持っている
ので,変換を受ける.このパラメータは光の強度であり,光子のエネルギーの
4乗に比例する.したがって,光子のエネルギーの変換を求めればよいことに
なる.時空座標におけるバリオンの速度を
とす
ると,その4元速度は式(10.4.114)により
 |
(L.4.195) |
である.また,式(10.8.254)のテトラード上での光子のエネルギーを
とすると,式(10.8.260), (10.8.261)より一般座標での光子
の4元運動量は
 |
(L.4.196) |
となる.ただし,
は光子の進行方向を向いた単位ベクトルである.した
がってバリオン静止系での光子のエネルギーを
とすると,
![$\displaystyle \tilde{p} = - a P^\mu u_\mu = p \left[ 1 - n^i \left(v_{{\rm b}i} - B_i\right)\right]$](img4054.png) |
(L.4.197) |
となる.これはドップラー効果と座標のシフトによって生じる光子のエネルギー
偏移を表している.したがって,強度の変換は
![$\displaystyle \tilde{I} = I \left[ 1 - 4 n^i \left(v_{{\rm b}i} - B_i\right)\right]$](img4055.png) |
(L.4.198) |
となるので,ゆらぎの変換は
 |
(L.4.199) |
となる.この変換は双極子成分しか持たないので,式
(12.4.192)-(12.4.194)の中では
,
の項は変換を受けない.したがって,式
(12.4.192)のみを
|
|
 |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad +
\frac{1}{10} \sum_m
\left[
{\mit\...
...} + {\mit\Theta}^{-(m)}_{Q 2}
\right)
\right]
Y_2^m({\mit\Omega})
\Biggr\}$](img4060.png) |
(L.4.200) |
と変更すればよく,式(12.4.193), (12.4.194)はそのまま一
般の座標で成り立つ.
次に,この式をゲージ不変量で表すことを考える.まず,スカラー摂動につい
ては
のゲージ不変量は式(12.4.171)で与えられる
である.このとき,ゲージ変換は単極成分と双極成分しか持たない
から,
,
となる.また,
のゲージ不変量は
式(12.4.165)で与えられる
である.こうして,
となる.これがゲージ不変量で表した輝度関数のトムソン散乱による衝突項で
ある.他のストークス・パラメータ
,
は非摂動項を持たないので,
,
は線形近似ではそのままゲージ不変となり,式
(12.4.193), (12.4.194)はそのままゲージ不変である.ここ
で,式(12.4.193)の
は
に
そのまま置き換えることができる.
この輝度関数の変化率はボルツマン方程式における衝突項として作用し,実際,
式(12.4.204)を式(12.4.177)の右辺と比べてみれば,その類似
性は明らかである.だが,偏光による寄与が余計に付け加わっており,正確に
は衝突項に偏光を取り入れるべきであったことを示している.したがって,輝
度関数の発展方程式はフーリエ空間で,
となる.一方,他のストークス・パラメータは非摂動部を持たないので,式
(10.8.291)のボルツマン方程式において重力場の摂動とは一次近似の範
囲では結合することがない.したがって,式(12.4.193),
(12.4.194)の衝突項はそのまま光の進行に沿ったラグランジュ微分に
等しく,その発展方程式は
となる.
ここで,円偏光を表すストークス・パラメータ
の発展方程式
(12.4.207)は他の変数と独立な方程式になっている.これはトムソン
散乱によっては円偏光が発生しないことに対応している.したがって,もし宇
宙の初期条件として円偏光が存在しなければ,その後も円偏光はないままにと
どまる.そこで以降は円偏光ははじめからないものとして考えない.
ここでまた各モードにおいて初期条件の軸対称性により,
依存性は
を通じてのみであるとする.量
に対しては式(12.4.178)のルジャンドル展開を考え,量
についても同様に
 |
(L.4.203) |
とする.すると式(12.4.195), (12.4.196)は
を
軸とする座標系で計算することにより,
となる.ただし,スピン球面調和関数の具体形,
![$\displaystyle Y_l^0(\theta,0) = \sqrt{\frac{2l+1}{4\pi}} P_l(\cos\theta), \quad...
...{0}}(\theta,0) = \frac12 \sqrt{\frac{5}{6\pi}} \left[1 - P_2(\cos\theta)\right]$](img4081.png) |
(L.4.206) |
およびルジャンドル多項式の直交性
 |
(L.4.207) |
を用いた.すると式(12.4.205), (12.4.206)が簡単になる.
ここで
基底から
,
基底に戻すことにより,これらの式は
|
|
![$\displaystyle {\mit\Theta}' + ik\mu{\mit\Theta}+ ik\mu{\mit\Phi}+ {\mit\Psi}' =...
...{\mit\Theta}_{{\rm P} 0} + {\mit\Theta}_{{\rm P} 2}\right)
P_2(\mu)
\right]$](img4083.png) |
|
|
|
|
(L.4.208) |
|
|
![$\displaystyle {{\mit\Theta}_{\rm P}}' + ik\mu{\mit\Theta}_{\rm P} =
a n_e \sig...
... P} 0} + {\mit\Theta}_{{\rm P} 2}\right)
\left[1 - P_2(\mu)\right]
\right\}$](img4084.png) |
(L.4.209) |
|
|
 |
(L.4.210) |
となる.ただし,
 |
(L.4.211) |
である.すると,ストークス・パラメータ
も他の変数と独立な発展方程式
に従っているので,結局最初の2式(12.4.213), (12.4.214)
のみが重力ポテンシャルと光のゆらぎの結合した発展方程式となっている.式
(12.4.213)は偏極を無視したときの式(12.4.181)に対応する.
つまり,偏極自由度のうちストークス・パラメータ
の成分は光のゆらぎの
発展と結合し,それを通じて間接的に重力自由度とも結合しているのである.
式(12.4.213), (12.4.214)から前節と同様にルジャンドル展
開係数の満たす方程式系を求めると,
|
|
 |
(L.4.212) |
|
|
 |
(L.4.213) |
|
|
 |
(L.4.214) |
|
|
![$\displaystyle {{\mit\Theta}_l}' -
\frac{k}{2l+1} \left[ l {\mit\Theta}_{l-1...
...heta}_{l+1}\right] =
- a n_e \sigma_{\rm T} {\mit\Theta}_l,
\quad (l \geq 3),$](img4088.png) |
(L.4.215) |
|
|
![$\displaystyle {{\mit\Theta}_{{\rm P} l}}' -
\frac{k}{2l+1}
\left[
l {\mit\Theta}_{{\rm P} l-1} - (l+1){\mit\Theta}_{{\rm P} l+1}
\right]$](img4089.png) |
|
|
|
![$\displaystyle \qquad =
- a n_e \sigma_{\rm T}
\left[
{\mit\Theta}_{{\rm P} ...
..._{{\rm P} 2}\right)
\left(\delta_{l0} + \frac{\delta_{l2}}{5}\right)
\right]$](img4090.png) |
(L.4.216) |
となる.ここで,
である.
次にテンソル型摂動を考える.テンソル摂動はそのままゲージ不変なので、ゲー
ジ自由度を考える必要はない.式(10.8.298)を積分して輝度関数
(12.4.168)のテンソル型成分
の方程式を求めれば,
 |
(L.4.217) |
となる.また,他のストークス・パラメータに対する方程式は式
(12.4.206), (12.4.207)をそのままテンソル成分を取ったも
ので与えられる.
ここで,右辺の衝突項は式(12.4.203)のテンソル成分で与え
られる.この式では,左辺第3項の存在によりフーリエモードについて緯度方
向
のみの関数というわけではなくなり,経度
方向
にも依存する.だがその依存性は以下に見るように比較的簡単で
ある.式(11.3.118)-(11.3.121)で考えたように,テンソル
成分をプラス偏極
およびクロス偏極
の基底で
分解することができる.そこで,フーリエモード
を
次のように分解する:
 |
(L.4.218) |
この基底は
を
軸とする座標系において式(11.3.121),す
なわち,
 |
(L.4.219) |
で与えられる.この座標系において,
の球座標を
とする
と,
![$\displaystyle n^i n^j C^{(T)}_{ij}({\mbox{\boldmath$k$}}) = \frac{\sin^2\theta}...
...ldmath$k$}}) \cos 2\phi + C^{(\times)}({\mbox{\boldmath$k$}})\sin 2\phi \right]$](img4100.png) |
(L.4.220) |
という角度依存性となる.このプラス偏極とクロス偏極は独立なモードであり,
光子ゆらぎの解は各モードに対する解
,
の重ね合わせとなる.ストークス・パラメータ
,
の発展も結合しているので,これらについても同様
の重ね合わせで表される.すると,次の変数変換
|
|
 |
(L.4.221) |
|
|
 |
(L.4.222) |
|
|
 |
(L.4.223) |
により,新たな変数
,
,
を導
入すると方程式が簡単化するL1.このとき
依存性は方程式にあらわに現れないように
選んである.このため,初期条件に
依存性がないとするとこの新変数は
のみの関数と考えることができる.スピン調和関数の具体形を用いてト
ムソン散乱の衝突項(12.4.204), (12.4.193),
(12.4.194)を計算するとどちらのモード
につい
ても同じ形となり,発展方程式(12.4.222), (12.4.206),
(12.4.207)のテンソル型成分は,
|
|
 |
(L.4.224) |
|
|
 |
(L.4.225) |
|
|
 |
(L.4.226) |
|
|
![$\displaystyle \tilde{{\mit\Lambda}}^{(\lambda)} \equiv
\frac{3}{32}
\int_{-1}...
...t\Theta}}_Q^{(\lambda)} -
4 \mu^2 \tilde{{\mit\Theta}}_U^{(\lambda)}
\right]$](img4114.png) |
(L.4.227) |
となる.ここで,式(12.4.230)から式(12.4.231)を引い
た
の方
程式はソース項を持たずに独立した方程式となる.したがってトムソン散乱に
よってこの自由度は発生しない.そこではじめからこの自由度は消えているも
のとすれば,
 |
(L.4.228) |
となる解を考えればよいことになる.すると発展方程式はモード
に対して同様の形となり,
|
|
 |
(L.4.229) |
|
|
 |
(L.4.230) |
|
|
 |
(L.4.231) |
となる.ここで,最後の
の定義式において,
右辺は(12.4.178), (12.4.208)と同様のルジャンドル展開の係
数である.第一の式(12.4.234)は計量のテンソル摂動と結合している
ので,その発展方程式を用いることで方程式が閉じる.それは式
(10.4.85)で与えられる.ソース項を無視するならばL2,
 |
(L.4.232) |
に従う.これらの発展方程式の解を数値的に求めるには同様にルジャンドル展
開によって得られる連立した階層方程式を用いる.
次にバリオンを考える.バリオンはクーロン相互作用により電子と強く結合し
て一体となって運動する.そこで,以後バリオンといえば電子とバリオンを含
んだ流体のことを指しているものとする.すると,上で見たようにバリオンに
は電子と光子のトムソン散乱を通じて光子との間にエネルギー運動量の輸送が
ある.他の成分へのエネルギー運動量輸送はないので,バリオンのエネルギー
運動量テンソル
は光子のもの
と合わせることにより保存し,
が成り立つ.ところが,上で見たようにト
ムソン散乱の衝突項は非摂動部がゼロになるから,背景場のエネルギー運動量
テンソルは個別に保存する.したがって式(10.7.216) がバリオンについ
ても光子についても成立する.いま,電子の対消滅以後を考えればバリオンは
非相対論的流体として振る舞うので,圧力と非等方ストレスを無視することが
できる.したがってバリオンの圧力
, 状態方程式の係数
, 音速
, 非等方ストレス
はすべて無視すること
ができる.光子については質量ゼロであるから,式
(10.8.276)-(10.8.283) により,
となるので,
となる.すると式
(10.7.216)はバリオンと光子のそれぞれについて
 |
(L.4.233) |
となる.また,摂動部について式(10.7.219), (10.7.220)より
|
|
![$\displaystyle \delta {{T_{\rm b}}^\mu}_{0;\mu} =
- \bar{\rho}_{\rm b}
\left[
{\delta_{\rm b}}' + {v_{\rm b}^i}_{\vert i} + ({C^i}_i)'
\right]$](img4131.png) |
(L.4.234) |
|
|
![$\displaystyle \delta {{T_{\rm b}}^\mu}_{i;\mu} =
\bar{\rho}_{\rm b}
\left[
(v_{{\rm b} i} - B_i)' + {\cal H}(v_{{\rm b} i} - B_i) + A_{,i}
\right]$](img4132.png) |
(L.4.235) |
|
|
![$\displaystyle \delta {{T_\gamma}^\mu}_{0;\mu} =
- \bar{\rho}_\gamma
\left\{
...
..._\gamma}' +
\frac43 \left[{v_\gamma^i}_{\vert i} + ({C^i}_i)'\right]
\right\}$](img4133.png) |
(L.4.236) |
|
|
![$\displaystyle \delta {{T_\gamma}^\mu}_{i;\mu} =
\frac43 \bar{\rho}_\gamma
\le...
...ta_{\gamma i} +
\frac14 {{{\mit\Pi}_{\rm b}}^j}_{i\vert j} + A_{,i}
\right]$](img4134.png) |
(L.4.237) |
となる.この表式を,
 |
(L.4.238) |
に代入して,さらにスカラー成分を取ってから式(10.7.234),
(10.7.235)のゲージ不変量で書き表す.ここで背景曲率がゼロ
とし
てフーリエ空間に移行すれば,
|
|
![$\displaystyle {\delta_{\rm b}^{\rm (GI)}}' - k^2 v_{\rm b}^{\rm (GI)} +
3 {\mi...
...\gamma^{\rm (GI)}}' -
\frac43 k^2 v_\gamma^{\rm (GI)} + 4 {\mit\Psi}'
\right]$](img4136.png) |
(L.4.239) |
|
|
![$\displaystyle {v_{\rm b}}' + {\cal H}v_{\rm b}^{\rm (GI)} + {\mit\Phi}
=
- \f...
...amma^{\rm (GI)} -
\frac16 k^2 {\mit\Pi}_\gamma^{\rm (S)} + {\mit\Phi}
\right]$](img4137.png) |
(L.4.240) |
となる.この2式の右辺は式(12.4.217), (12.4.218)により,
光子の衝突項にマイナスを付けたものである.つまり,光子からのエネルギー
運動量の輸送を表している.こうして,バリオンのゆらぎの発展方程式として,
|
|
 |
(L.4.241) |
|
|
 |
(L.4.242) |
を得る.
Footnotes
- ...
入すると方程式が簡単化するL1
- A. G. Polnarev, Sov. Astron. 29, 607 (1985)
- ...eq9-27a)で与えられる.ソース項を無視するならばL2
- この方
程式にはソース項としてニュートリノと光子の非等方ストレスのテンソル型成
分が寄与するが,それは常に左辺に比べて小さいので無視することができる.
次へ: 諸成分ゆらぎの進化 I: 超ホライズンスケール
上へ: 摂動の線形成長
前へ: 2成分系のゆらぎの成長
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