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線形ボルツマン方程式
成分間にエネルギー・運動量の輸送がある場合,これまでのアインシュタイン
方程式だけでは不十分で,ボルツマン方程式を用いる必要がある.そこで,こ
の節ではボルツマン方程式の線形摂動に対する基本的な式を導く.粒子種
に対し,ボルツマン方程式(9.2.36)は,
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(J.8.249) |
である.ここで,左辺のクリストッフェル記号の部分を式
(10.2.14)-(10.2.19)によって摂動の1次まで取ることにより,
となる.ここで,
は単位共形時間あ
たりの衝突項である.4元運動量ベクトル
は質量殻上
にある.この条件は摂動の1次で
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(J.8.251) |
と表される.4元運動量
の成分はしたがって3つのみが独立である.独
立変数として何をとるかは任意であるが,時間一定面(
)に垂直な
方向に時間軸を持つような(すなわちシフトベクトルがゼロであるような)座標
系における3次元運動量を用いると以下の計算が簡略化して便利である.その
ような座標系としては座標条件として
を持つようなもの,例えばコ
ンフォーマル・ニュートンゲージ(10.5.178)や,同期ゲージ
(10.5.179)があり,ボルツマン方程式の計算はこれらのゲージで行われ
ることも多い.だが,それでは特殊なゲージに依存した結果しか得られないの
で,ここでは時空座標自体のゲージ固定はせずに,運動量の独立変数を選ぶと
きのみ一時的に座標系を選ぶことにする.そこで,各時空座標点において,簡
単な局所座標
を張って,その座標系での運動量ベクトルの成分の値を
独立変数とする.非摂動一様等方計量と同じ形の計量を持つ局所座標を取るこ
とにすれば,そのテトラード
は次の規格化をみたす:
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(J.8.252) |
計量の摂動の式(10.2.8)-(10.2.13)により,線形近似でこれらテ
トラードは
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(J.8.253) |
と求められる.この局所座標での4元運動量
をスケー
ルした次の量
を定義する:
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(J.8.254) |
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(J.8.255) |
ここで,質量殻の条件(10.8.252)は
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(J.8.256) |
となり,
の独立成分は3つであるので,以下
は従属変数と考え
る.また,分布関数
は非摂動部は運動量の絶対値にしか依らないので,
このベクトル
をさらに動径成分
と方向ベクトル
に分解すると都
合がよい:
ここで,質量殻の条件式(10.8.252)を用いた.これらの変数
を運動量の独立変数にとる.上式を逆に解けば,
となる.
これらの運動量空間の新変数
を用いてボルツマン方程式
(10.8.251を表し直すことを考える.この変数変換の係数は時空座標に依
存しているので、偏微分の変換は次のようになる:
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(J.8.261) |
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(J.8.262) |
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(J.8.263) |
また,分布関数の非摂動部は
に依らないので,
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(J.8.264) |
と表す.ここで,
は非摂動部,
は摂動部である.
これらのことに注意して線形の項まで残して計算すると,新変数による線形ボ
ルツマン方程式は
と,比較的簡単化する.非摂動のボルツマン方程式はしたがって
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(J.8.265) |
となる.ここで
,
はそれぞれの衝
突項の非摂動部分である.また線形摂動部は
となる.ここで
は衝突項の線形摂動部,
は共形時間あたりの衝突項
の線形摂動部である.
巨視的変数は分布関数の積分で表される.エネルギー・運動量テンソルを考え
ると,式(9.1.14)により,
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(J.8.266) |
で与えられる.ここで,運動量積分測度は式(9.1.2)で与えられ,ロー
レンツ不変である.そこで,上で導入した局所座標系により式(9.1.3)
と同様に評価すると,
となる.また,角度積分
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(J.8.268) |
を用い,式(10.8.260), (10.8.261)によって式(10.8.269)
を計算すれば,1次までで
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(J.8.269) |
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(J.8.270) |
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(J.8.271) |
を得る.したがって,エネルギー密度
, 圧力
,速度
,
および非等方ストレス
は式(10.4.119)-(10.4.123)か
ら
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(J.8.272) |
により求められる.したがって,非摂動部について
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(J.8.273) |
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(J.8.274) |
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(J.8.275) |
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(J.8.276) |
線形摂動部について
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(J.8.277) |
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(J.8.278) |
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(J.8.279) |
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(J.8.280) |
となる.
最後に分布関数のゲージ変換を調べておく.まず運動量は
で定義されている.ここで,粒子の運動量はベクトル場では
なく場のゲージ変換とは異なることに注意する.するとゲージ変換
に対して
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(J.8.281) |
と変換する.そこで
の定義に現れる変数のゲージ変換は
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(J.8.282) |
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(J.8.283) |
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(J.8.284) |
となる.ここで,第10章と同様に
という記法を
用いている.これらの式から,式(10.8.258)の変換を計算すると,
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(J.8.285) |
となる.分布関数のスカラー性により,
である.ここ
で,方向依存性は非摂動部を持たないので,
のゲージ変換は線形項には
効かないことに注意して,ゲージ変換を計算すると,
|
(J.8.286) |
となる.変換にはこのゲージ変換にはスカラー成分しか含まれないので,スカ
ラー摂動のみ考えれば十分である.式(10.3.56)-(10.3.59)によ
りゲージ不変な分布関数の摂動を次のように定義することができる:
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(J.8.287) |
このゲージ不変分布関数を用いて摂動ボルツマン方程式(10.8.268)を
書き直す.非摂動方程式(10.8.267)を用いて
の時間
微分を消しながら注意深く計算すれば,次のゲージ不変な方程式を得る:
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(J.8.288) |
ここで,ゲージ不変な摂動衝突項を次のように定義した.
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(J.8.289) |
衝突項は
の関数として分配関数と同様にスカラーとして変換
するから,このゲージ不変量の定義は分布関数における式(10.8.290)と
類似のものになっている.
また,ゲージ不変な巨視的変数をゲージ不変分布関数で表すこともできる.式
(10.8.280)-(10.8.283)は,式(10.8.290)を積分すること
によって,
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(J.8.290) |
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(J.8.291) |
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(J.8.292) |
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(J.8.293) |
と表すことができる.すなわち,式(10.7.234), (10.7.235)で与え
られたように,流体の巨視的変数に対して定義したゲージ不変量に対して,こ
こで与えた分布関数のゲージ不変量は自然な定義となっている.
ベクトル型摂動についてのボルツマン方程式は式(10.8.268)のベク
トル型成分を取ることにより、式(10.4.86)のベクトル型ゲージ不変ポテ
ンシャル
を用いて,
となる.ここで
のゲージ変換(10.8.289)はベクトル型の変
換をしないので、
はそのままゲージ不変量である.
また,第2,3項はそれぞれの衝突項のベクトル型成分であり、左辺がゲージ不
変なので,衝突項もゲージ不変となる.
最後にテンソル型摂動の方程式は
となり,これはそのままゲージ不変である.
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