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宇宙の構造の形成を調べるため,まずは,宇宙の中の物質を流体で近似するこ
とにする.これにより,かなり多くの性質がわかることになる.相対論的な効
果をフルに入れると取り扱いがかなり複雑になるので,ここでは簡単のため宇
宙の中の物質をニュートン流体で近似することにする.背景時空としては相対
論的一様等方宇宙の膨張時空を用いる.これはホライズンスケールよりも十分
小さなスケールのゆらぎに対してよい近似であり,構造形成の大部分の性質は
この近似の適用範囲内で議論できる.
ニュートン流体においては,非等方ストレスの無視できる完全流体で表せる場
合,物質の質量密度
,圧力
,また,速度場
によってそ
の物理状態が定まる.ここで,物質は非相対論的なものに限り,密度としては
質量密度を用いる.前章までに用いたエネルギー密度
とは
の関係にある.いま,膨張宇宙をいったん忘れ,静止した空間に
おける通常の流体力学によれば,重力ポテンシャル
中での流体の振る舞
いを支配する基本方程式は次の連続の式とオイラー方程式
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(F.1.1) |
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(F.1.2) |
である.第1の連続の式は流体の質量が保存することを表し,第2のオイラー方
程式は流体の微小素片についての運動方程式である.
重力ポテンシャルはポアソン方程式により定まる.ニュートン力学において通
常知られているポアソン方程式は,
をラプラシアンとして,
|
(F.1.3) |
となる.だが実は,宇宙定数が存在するときにはこの式を使うとつじつまが合
わなくなる.それは,宇宙定数は質量密度が
,圧力が
に対応する一様な真空のエネルギーであり,エネルギー
密度と圧力が同じオーダーの完全に相対論的なものだからである.また、いま
着目しているニュートン流体とは別の成分が重力的に影響する場合,このポア
ソン方程式の右辺に別に寄与する.そこで,宇宙定数のある場合と同時に、他
の流体成分も重力ポテンシャルに寄与する一般の場合のポアソン方程式を導い
てみよう.このとき,他の流体成分は相対論的であってもかまわないとする.
この場合にはアインシュタイン方程式のニュートン極限を考えるとよい.よく
知られているように,計量テンソルの
成分とニュートンの重力ポテンシャ
ル
は
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(F.1.4) |
と関係していて,重力場のニュートン極限の条件
(B.2.75)-(B.2.77)を満たすとき,アインシュタイン方程式から
出る式
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(F.1.5) |
がニュートン極限のポアソン方程式となる.ここで,
は全ての
物質についてのエネルギー運動量テンソルである.
完全流体の場合,その結果
|
(F.1.6) |
となる.ここで,
は,他の流体からの重力的な寄与の項であ
る。重力を支配する成分が自分自身であるような自己重力系ではこの項を無視
してもよい.以下,自己重力系において無視できる項はこの記法を用いて区別
する.この表式を見てすぐわかるように,相対論的成分は重力ポテンシャルに
対して質量密度に加えて圧力も寄与する.非相対論的成分については、
であって、圧力の寄与は無視できる.
さて,これら流体の方程式を膨張時空の座標である,共動座標
で書き直すことを考える.まず,共動座標では,速度場を,宇宙膨
張による成分とそれ以外の銀河固有の運動を表す特異速度成分に分けることが
できる.前者は静止座標から見たとき、宇宙膨張によって遠ざかるように見え
るための成分であり、後者は共動座標系に対しする本当の運動を表している.
すなわち,
|
(F.1.7) |
となり,第一項が宇宙膨張を表し,第二項が特異速度である.ここで,共動座
標の特異速度を
で定義した.座標変換
を行うことにより,偏微分は固定す
る変数が変わるので,
|
(F.1.8) |
となる.ここで
は共動座標
による空間微分である.すると,連続の式とオイラーの方程式
(6.1.1), (6.1.2)は次の式になる.
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(F.1.9) |
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(F.1.10) |
ここで,共動座標の重力ポテンシャル
を
|
(F.1.11) |
で定義した.第二項は,静止座標
では見掛け上宇宙膨張による加速
を受けることに対応して付け加わるものである.ここで,スケールファクター
の2階微分は式(3.1.13)で与えられる.ここで考えているように流体が
複数ありうる場合,
|
(F.1.12) |
となる.ここで,
,
は宇宙全体で平均したエネル
ギー密度および圧力である.すると,一般化されたポアソン方程式
(6.1.6)へ宇宙定数の寄与は打ち消しあって,
|
(F.1.13) |
となる.一様な密度場では重力は働かないので,そこからのずれのみが共動ポ
テンシャルのソースになっていることは自然なことである.
さて,完全な一様等方宇宙の場合,
,
,
であるから,式(6.1.10)は恒等的に成り立ち,式(6.1.9)は
|
(F.1.14) |
となる.これはいうまでもなく共動体積中の質量保存の式である.いま,異な
る流体間の直接の相互作用を無視していて,粒子の生成・消滅は起らないもの
になっている.非一様性があるときは,密度と圧力の仮想的な一様等方成分
,
からのずれを表す量として,密度
ゆらぎ
,および圧力のゆらぎ
を
次のように導入する.
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(F.1.15) |
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(F.1.16) |
一様宇宙の質量保存の式(6.1.14)を使って,連続の式,オイラーの式,
を書き換えると,それぞれ,
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(F.1.17) |
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(F.1.18) |
となる.ポアソン方程式は
|
(F.1.19) |
である.自己重力系におけるこのポアソン方程式(6.1.19)は
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(F.1.20) |
であるが,この場合ポアソン方程式の解のあらわな形は
|
(F.1.21) |
である.
これが膨張宇宙における非相対論的完全流体の基礎方程式である.自己重力系
では,変数は
,
,
,
となり,圧
力が無視できるときは上の方程式のみで閉じた方程式系になっている.そうで
ない場合は物質の状態方程式など,圧力を他の変数で表す方程式がさらに必要
である.
ここで,式(6.1.17)に
, 式(6.1.18)に
をかけたものを足すと,
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(F.1.22) |
が得られる.この式の発散をとって,さらに式(6.1.17),
(6.1.19)を用いれば,
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(F.1.23) |
となるが,この式は応用上有用である.
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