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名大MIRAI GSC(2016/7/23)質問集

名大MIRAI グローバルサイエンスキャンパス にて講演「宇宙の誕生から終焉まで」【野依記念学術交流館2F,2016年7月23日(土)12:45-13:45】を行いました。レポートに書いていただいた質問の主なものについて、ここに取り上げます。

2016.7.25 松原隆彦

(質問1)宇宙の始まり直後の素粒子の世界では高温であるため粒子がなくなったり、変化したりすることがあると説明にありました。いまの地球はそれほど高温ではないのになぜニュートリノはミューからタウに種類を変えるのかが知りたいです。

(回答)粒子が変化するときには、エネルギー保存則が成り立ちます。質量もエネルギーの一種なので、粒子が重いほどできたり消えたりしにくくなります。宇宙の始まり直後は温度が高く、粒子が大きなエネルギーを持っているため、粒子が様々な種類に変化することができます。一方、エネルギーが低くてもエネルギー保存則を破らない範囲で粒子の種類を変える反応が起こります。現在の宇宙でニュートリノの種類を変える反応は、こうした低エネルギーで起きる反応の一種です。

(質問2)フリードマンが提唱した「ビッグクランチ」はエントロピーが減少する方向に転じると思うのですが、それが理論として成り立つのは、ビッグクランチが起きている最中、宇宙のどこかでエントロピーが増加するからですか?

(回答)ホーキングという科学者が以前、ビッグクランチに向かってエントロピーが減少するのではないかという説を唱えていましたが、そのことでしょうか。現在ではホーキングはこの説を撤回しています。宇宙の膨張が収縮に転じると時間の進む方向が逆転するという説でしたが、その後の研究により、そうしたことは起こらないものと考えられています。

(質問3)宇宙空間のムラから星や銀河が互いの引力によって生まれるのなら、なぜその星は互いに引き合って衝突することなく、集合したままでいられるのでしょうか。その間にわずかでも斥力があれば説明はできるのですが、それも分かりません。

(回答)銀河の大きさに比べて星の大きさは極めて小さく、銀河同士が衝突しても星同士が衝突することはまずありません。重力によって引き寄せられた星は、真っ正面から衝突しない限り、そのまま行きすぎてしまい、また距離が離れていきます。そしてまた引き寄せられるということを繰り返します。これはブランコや振り子と一緒で、中心に向かって引力が働いていても、中心までくると勢いが余ってまた中心から離れていきます。多数の星が集合すると、お互いに大きな速度を持つようになるため、全体としては広がってしまい、あまり小さくなることができなくなります。

(質問4)ビレンキンさんの考えたもののように数式を操作していたら出てくる、人間が知らないものは、実際に存在しうるのですか。ホーキング博士の考えた虚数時間ってどういうものなんですか。

(回答)宇宙の存在しない量子的な状態のことですね。これは時空間がない状況に量子論を当てはめた場合の理論的な設定であり、それが実際の世界を表しているのかどうかはいまのところ結論は出ていません。理論的には可能であるということです。虚数時間については、こうした量子的状態から宇宙を誕生させる様子を数学的に記述するために導入した便宜的な概念です。

(質問5)時間とは人が勝手に創り出したものだと思うので、時間がない世界もある世界も変わらないと思うのですが、時間のあるないで何か違いでもあるのですか。

(回答)時間の正体は、物理学でも謎に包まれています。理論的には変化を記述するための単なるラベル、もしくはパラメータという役割を持っています。物理学では時間の性質について述べることはできますが、その正体が何なのかということに答えることはできません。時間は物理的には存在せず、人間の感覚が作り出したものではないかという考えも成り立ちますが、こうした問題はもはや物理学で答えを出せる範囲を超えています。時間と空間は一体化したものなので、もし時間が人間の作り出した幻想であるなら、空間、そして宇宙全体に存在するすべてのものも幻想かもしれません。ですが、物理学の理論形式は、あくまで人間の測定できる対象の振る舞いを説明するためのものであり、対象そのものの正体といった根源的な問題に答えを出してくれるものではないのが現状です。

(質問6)(ビッグバンの直後)もし一点にありとあらゆるものが詰められていれば、温度が熱運動によるものであれば、熱運動ができず、高温とは言えないのではないでしょうか。

(回答)宇宙のすべてが一点に凝縮する本当の宇宙の始まりについては、温度という概念で記述することはできないでしょう。量子的な宇宙生成の立場に立てば、この時点ではすべてが量子的だと考えられるので、まだ物質は物質の形を取っておらず、さらには時空間も広がっていないため、「空間中を動き回る熱運動」という古典的な概念は成り立たないと考えられます。いったん時空間に広がりができて物質ができたのちに、熱運動というとらえ方が可能になります。

(質問7)万有引力の法則があるから、すべての星が引き合って宇宙に存在する物質が1つの場所に集まることになると思うのですが、そうならない理由が知りたいです。

(回答)宇宙は全体として膨張しているため、銀河間の距離は次第に離れていきます。銀河の中にある星の距離は離れていきませんが、それでも1つの場所に集まらない理由は(質問3)の回答を参照してください。

(質問8)宇宙は日々膨張しているので、銀河間の距離も次第に大きくなっていくのに、なぜ銀河同士の衝突が起きるのか。また、衝突した両銀河中の惑星の形や軌道などにどのような影響があるのでしょうか。

(回答)全体として銀河間の距離は大きくなっていきますが、比較的近くにある銀河同士は近づいている場合もあり、そういう銀河は衝突します。銀河の中にある星どうしの距離はかなり大きく、いわばスカスカな状態です。このため、銀河が衝突しても、星同士が近づくことはまずありません。このため、星のまわりを回る惑星やその軌道に影響が及ぶことはないものと考えられます。ただし、銀河の衝突により、新しい星が作られやすくなり、夜空に広がる星の数が増えます。

(質問9)クォークなどの素粒子はどこから生まれたのでしょうか。そしてヘリウム原子核が比較的早い段階でつくられたのに対し、電子を伴って原子が作られるまでに時間がかかったのはなぜでしょうか。

(回答)素粒子というのはビッグバンのような高エネルギー状態では簡単に種類を転換します。例えば、光や電子などを高エネルギーでぶつけると、クォークが作られたりします。すべての粒子は宇宙初期にあった何らかのエネルギーから生まれたと考えられています(これについては様々な説あり)。ヘリウム原子核はクォーク同士に働く強い力で結合するため、宇宙全体が高エネルギー状態にある比較的早い段階でできても壊れずにいられます。一方、原子核と電子を結合させているのは、クォーク同士に働く力よりもずっと弱い電磁気力によるため、それよりもずっと宇宙が冷えてからでないと中性原子が作られません。高温状態だと、電子がすぐに原子核から剥がされてしまうからです。

(質問10)いつから重力が生まれたのかという疑問を持った。なぜなら、宇宙は「無」から作り出されているからである。

(回答)少なくとも我々の知る限り、宇宙が生まれた直後には重力が働いていたと考えられています。重力とは時空間に働くものですから、時空間の存在しない宇宙誕生以前には通常の意味での重力はありません。もし重力が生まれる瞬間というものがあるとするなら、それは宇宙の始まりにあります。重力の誕生の謎は、宇宙誕生の謎と一体化しています。

(質問11)宇宙の相転移で、物理法則の異なる宇宙ができたとき、我々が用いている量子論は宇宙全体の無の中を司る量子論の一部になるということでしょうか。

(回答)時空間の存在しない「無」にも、量子論の原理が働いているというのが、「無」からの宇宙創成理論での前提です。この前提が正しければ、何らかの理由で現在の宇宙が終わってしまった後にも、量子論の原理だけは残ると考えられます。ただし、この前提が正しいかどうかを確かめることは極めて難しく、現在では仮説に止まっています。時空間を超えたところにも量子論が普遍的に当てはまるのかどうかを検証する手段があればよいですね。

(質問12)地球など、太陽系の惑星は太陽の重力によって太陽のまわりを同心円上に公転しているが、太陽の重力で飲み込まれないのか、あるいは太陽にだんだん近づいていないのか?

(回答)惑星の公転は、重力と遠心力の釣り合いで説明されます。太陽に近づくと速度が速くなり、速度が速くなると遠心力が大きくなって太陽から遠ざかろうとします。逆に太陽から遠ざかれば速度が遅くなり、遠心力が小さくなって太陽に近づこうとします。結局、同じ軌道を安定して回りつづけることになります。身の回りのものは引っ張れば必ずその方向へ近づいていくものという経験をしますが、このような一方的な振る舞いには摩擦力が大きな役割を果たしています。摩擦力の働かない宇宙空間では状況がだいぶ違います。

(質問13)太陽は50億年すると赤色巨星になると言っていましたが、どれぐらいの速さで大きくなっているのでしょうか。

(回答)現在の太陽は主系列星という段階にあり、しばらくの間はあまり変わらずに同じような大きさのまま推移します。中心部で主系列星の燃料である水素が尽き果てると、赤色巨星という段階になり、50~70億年後ごろにかけて急激に膨張し、最終的に約250倍ほどまで膨張します。
Takahiko Matsubara
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