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ジュンク堂トークイベント(2015/7/24)質問集

「トークセッション:物理かふぇ 著者と語る物理の楽しさ#4 ~実は宇宙はスカスカだった!~」【ジュンク堂書店池袋本店,2015年7月24日(金)19:30-21:00】を行いました。そこで参加者に書いていただいた質問のうち、当日お答えできなかった分についてまとめました。

会場で取り上げなかった質問への回答

(質問)第2部で、「多様な元素の存在」という話がありましたが、地球の環境以外で「多様な元素」ができる可能性のあるところはありますか?
(回答)多様な元素は宇宙全体に存在している星の中で作られるので、地球の環境以外にも宇宙にまんべんなく存在します。地球から遠く離れた宇宙のどこかに、宇宙人がいるかもしれないと言われている根拠のひとつは、多様な元素が宇宙のどこにでもあることです。
(質問)数学者が扱っている(数学)と物理学者が扱っている(数学)とで、(たとえば感覚的に)違うことはあると思いますか?
(回答)数学者の扱う数学は、現実に存在する物体や実際の宇宙と必ずしも関係する必要のない抽象的なものだと考えられています。一方、物理学者は、現実の世界を記述する数学に興味を持ちます。しかし、一見したところ現実の世界と関係ないと思われていた数学が、実はその後に考えられた物理の理論に役立ってしまう、ということがよくあるので、両者に本質的な違いはないとも言えます。
(質問)今日のタイトルは「宇宙はスカスカだった」ですが、真空とういうのが「何かしらエネルギーを持っている」となれば、「エネルギー的に(?)スカスカ」なところというのはないのでしょうか?(何かしら弱くてもエネルギーが発生してしまう?)
(回答)宇宙の膨張をどんどん速くするダークエネルギーは、真空のエネルギーだと言えますが、どこにでもまんべんなく存在していると考えられます。ただ、ダークエネルギーの量は、日常的な感覚から言えば実質的にゼロとみなせるほど小さなものです。宇宙全体に薄く広がっていて、非常に弱いですが、完全なゼロではありません。
(質問)銀河が2つ衝突すると1つに合体する、とお話でありましたが、将来全ての銀河が1つになることがあるのでしょうか?その前に消滅するのでしょうか?
(回答)宇宙の膨張はどんどん速くなっているので、十分に遠くの銀河が近づいてくることはありません。アンドロメダ銀河は天の川銀河に十分に近いため、将来的に衝突することができますが、他の銀河は時間とともに遠方へ遠ざかっていき、最終的には見えなくなります。
(質問)銀河と銀河がどうして衝突するのか?
(回答)銀河どうしの間にも万有引力の法則が働きますので、銀河はお互いに近づこうとします。一方、宇宙が膨張すると、遠く離れた銀河どうしは逆に引き離されていきます。距離が近いほど万有引力が大きくなり、宇宙の膨張を振り切って近づくことができ、衝突することができます。
(質問)UFOに興味がありますが、地球に対してリニアカー的な反重力を作り出して飛行できる可能性はあるのでしょうか?
(回答) 重力(または万有引力)は、引き合う力としてしか働くことがなく、反発力にはならないというのが物理の法則の教えるところです。この点は、リニアカーが利用している電磁気力とは全く異なるところです。また、重力はどのようにしても遮ることができず、地球上で静止している物体を無重力にすることはできません。反重力というのは、物理法則に反しています。ただし、人工衛星のように地球付近をすごい速さで周回すると、遠心力と重力が釣り合って無重力になります。
(質問)どうして今もまだ核融合発電ができないのか?
(回答)長年の研究にもかかわらず、現実的な発電方法にするための技術的な課題がクリアできないというのが根本的な原因だと思います。莫大な装置と莫大なコストを使ってわずかな発電ができても意味がありません。物理の法則としては可能でも、コストに見合う現実的な発電手法として確立するまでの道のりは遠いと思いますが、研究のブレークスルーが突然やってくることも考えられます。
(質問)銀河が集まっている場所、空虚な部分(ボイド)、それぞれの大きさの広がる範囲の限界はありますか?
(回答)銀河の集団である銀河団や超銀河団の大きさには典型的な上限がありますし、ボイドにも典型的な上限があります。どちらも、ほぼ数億光年の単位です。何十億光年のボイドや超銀河団というのはまずありません。
(質問)ダークマターの分布図で、ダークマターだけの場所と物質とダークマターと両方がある場所では大きな違いがありますか?
(回答)ダークマターが多く集まっているところには、たいてい通常物質も多く集まっています。ダークマターだけが集まっているところは、あまりはっきりと観測できないのですが、衝突などで通常物質が剥ぎ取られてしまった跡であったり、星になるほど物質が十分集まらなかった場所です。まだダークマターの分布自体がぼんやりとしかわかっていないので、さらに観測を進めていくと将来新しい事実が明らかになるかもしれません。
(質問)原子核の世界と宇宙のあり様のスケールが似ている?とのことですが、銀河の衝突と原子核の衝突?は同じ原理で力が働くのでしょうか?
(回答)銀河のスケールでは、重力(万有引力)が原因となって衝突が引き起こされます。一方、原子核にとって重力は弱すぎて、原子核内に働く「電磁気力」「強い力」「弱い力」という、重力とは異なる力が原因となって衝突(反応)が引き起こされます。両者は全く別の法則に従っていると言えます。
(質問)ダークマターやダークエネルギーはどこかから生まれてきたものですか?それとも昔からそこにあるものなのでしょうか?
(回答)ダークマターとダークエネルギーについては、正体不明なため、それが何か別のものから生まれたのかどうかも全くの不明です。宇宙自体に始まりがあるので、宇宙よりも前からそこにあったとは考えにくいです。ダークマターやダークエネルギーを作り出したものが何か、理論的にはいろいろな可能性が考えられていて、そうした仮説に基づいてダークマターを検出しようとする実験も行われていますが、今のところ確実な手がかりはなく、まだ誰も証明できていません。
(質問)銀河系の中心にブラックホールがあると聞いたことがありますが、いつか地球も吸い込まれてしまうのでしょうか?
(回答)ブラックホールはなんでも吸い込むと言われていますが、それはブラックホールに近づきすぎた場合に限られます。十分に遠方にあれば、ブラックホールも(光こそ出しませんが)普通の星と同じであり、地球が太陽に吸い込まれないのと同様、地球もブラックホールの周りを周回し続けることになります。たまたまの偶然でブラックホールに近づき過ぎればその限りではありませんが、何億年という時間スケール程度では確率的にほとんどありえないほどです。
(質問)宇宙のボイド構造を、日常世界~身近な自然現象で模擬的に再現できるのでしょうか?例:海の波が広がるときにできる、網目模様の泡など。また、日常世界~身近な自然現象の力学的形成過程と、宇宙のボイド構造の形成の力学的過程に共通性はあるのでしょうか?
(回答)1980年代の終わり頃、最初にボイド構造の存在を明確に示したマーガレット・ゲラーさんは、石鹸水にストローで息を吹き込んでできるような、いくつもの泡が重なった構造に似ていると言ってよく説明していました。泡の中がボイドで、石鹸水の膜の部分に銀河がたくさんあると考えると、実際の宇宙構造に近いというわけです。大規模構造は宇宙膨張と重力のかねあいによって作られます。日常世界では物体同士に働く重力が弱すぎて、重力といえば下へ落下する力としてしか見られません。身近な自然現象にもなんとなく大規模構造と似たようなパターンが見られることがありますが、宇宙の大規模構造を引き起こす重力現象とは根本がだいぶ異なります。一方で、根本的な力が異なっても、結果的にできる構造が似ているということはよくあります。
(質問)素粒子物理の理論構築の可能性と、碁の打ち手の多様性とでは、前者の方に数的に制約があるのでしょうか(物理的にあり得る条件など)?数的制約があると、研究競争がし烈になるのではないでしょうか?
(回答)矛盾のない理論の可能性がいくつあるかは誰にもわかりません。もしそれがわかっていれば、後はそれを調べつくすだけで、研究もずいぶん楽なのですが、、、ある物理の理論を考えた時点では、それが矛盾のない理論であるかどうかはすぐにはわからず、多くの研究者がいろいろな角度から調べていきます。多くの理論が論理的な矛盾に突き当たって消えていきます。矛盾のない理論が一つしかない、というのが素粒子理論の希望でしたが、その希望は最近の研究現場ではだいぶ薄れてきました。いままで誰も思いもよらなかったアイディアが正解かもしれません。研究は、一つのルールの枠内で行うゲームのようなものではないと言えます。むしろ、常にルールを突き破っていくことが必要で、旧来からある枠内で一つの方向へ向かって研究競争していても道は開けない世界です。
(質問)宇宙の構成は、物質・エネルギーが5%、ダークマターとダークエネルギーで、95%ですが、物質・エネルギーについては、E=mc2の関係式がありますが、ダークマターとダークエネルギーは、どのような関係性があるのでしょうか?
(回答)ここで言っている成分比は、質量をE=mc2によってエネルギーに換算したものと、ダークエネルギーの量を比較したものです。ダークマターにもE=mc2が当てはまります。ダークエネルギーはそのままでエネルギーです。すべてをエネルギーの単位で表したため、成分比として比較できるようになります。
(質問)生命のDNA、RNAをミクロに見ていくと、クォーク、レプトンまでいくのでしょうか?
(回答)DNAやRNAも物理的には分子ですから、分子が原子からできていて、原子はクォークとレプトンでできているので、そういうことになります。生命も分解してしまえばすべてこうした素粒子の集まりです。しかし、素粒子の法則がわかったからといって、生命現象が理解できるわけではなく、それは、個別の素粒子の振る舞いからはとても及びのつかない現象です。
(質問)クォーク、レプトンと「場」の関係性について教えてください。
(回答)少し難しくなりますが、現代物理学では、粒子というのは「場」という数学的概念で記述されています。場とは、空間に広がった確率の波のようなもので、粒子のある場所というのが空間中でどうしてもぼんやりとしてしまう性質を表すものです。クォークやレプトンは素粒子ですから、それらも数学的には場によって表されます。この場が粒子であるかのように観測されるのは、人間が粒子の位置を測ろうとした瞬間だけです。人間が観測するまで、粒子の性質が一つに定まらないという、量子力学的不確定性関係という奇妙な自然の法則によります。
(質問)生命とか、意識とかの問題は、宇宙論からはどうとらえればいいですか?
(回答)当日もお話しましたが、生命や意識がどうしてこの宇宙に存在するのか、宇宙論の研究が進めば進むほど、ますます分からなくなるというのが正直なところです。むしろ、生命や意識がない方が宇宙の自然な姿ではないかと思えるほど、生命は特殊な性質を持っています。しかし、生命がなければ宇宙について考えるものもいないので、そんな宇宙は存在していると言えるのかもわからなくなります。宇宙が生命を作り出したのかもしれませんし、逆に生命の中の意識が宇宙を(見かけ上)作り出しているのかもしれませんが、このへんを明らかにする手がかりは今のところ何もありません。基礎物理学の方程式の中には、生命現象や意識の発現につながるような要素は何一つ含まれていないのです。十分な複雑性が表面的には生命現象を生むのだろうと考えられていますが、単なる物質の塊が意識を持つというのも、理解しがたいことです。現代物理学の延長線上には答えはなく、飛躍的な考え方の転換を必要とする、もっと一般的な世界の理解の仕方が必要なのかもしれません。

会場で答えた質問

(質問)どうして宇宙がスポンジ状になるのでしょうか?
(質問)真空または何もない空間はどのような構造になっているのでしょうか?
(質問)ダークマターとダークエネルギーという目に見えないものが、宇宙の大半を占めているということでしたが、私たちの身の回りにもダークマターとダークエネルギーがみちているのですか?そして、ダークマター・ダークエネルギーを含めると「宇宙はスカスカ」ではなくなりますか?
(質問)銀河(団、群)が大規模構造を作っていて、星のスケールで大規模構造を作らない理由はなんですか?自己相似が成り立たない?
(質問)宇宙の未来は星が燃え尽きて空間が残ってしまうということですが、この宇宙はただ空間が永遠に広がっていくだけでおわりはないのでしょうか?
(質問)太陽系や銀河系はなぜ渦巻になるのか?右巻き、左巻きがあるのか?
(質問)今、自然科学は大きく発展していると思われます。過去、自然科学の発達が、人間社会の認識を広げてきた側面があります(ex ガリレオの天動説)。今、世界は大きな変動のときを迎えながら、もがいていると感じられます。情念に、社会科学が応えきれていないということでしょうか?自然科学者として、現在の社会科学や社会の運動について感じることをお聞かせください。

Takahiko Matsubara
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